待ち合わせ
「僕、イイコトを思い付いたんだよ!!!」
電話の向こうで、目を輝かせているであろうサカミチの言う“イイコト”は、きっとろくでもないという予感があった。
「僕と御堂筋くんが同じ時間にスタートして、出会えたとこでデートするんだ!!名付けてデートレースだよ!!!」
案の定、ろくでもない。
「同じ道でもボクら対向車線走るんやし、気付かずすれ違うかもしれんな」
「そこは気が付くように気にして!!!」
ろくでもない提案だと思っていたが、サカミチに会える上にペダルを回せるのかと、いつの間にかサカミチの誘いに乗ってしまっていた。
そうして迎えた出発の日。
高校生のボクらに与えられた自由に動ける土日というタイムリミットと走行距離を考えたら出発は夜中で、ボクはデローザに取り付けたライトを点灯する。
約束のスタート時間、ボクは『よーいスタート!!!』というテンションの高いサカミチからのメールを確認すると、ゴールラインの分からないレースを始めた。
そのレースの途中、ボクはゴールラインの分からない走りがこんなに不安定なものだと知る事になる。
バランス配分も曖昧になるし、途中立ち寄るコンビニも何キロ先にあるのか調べたりしながら手探りで進む感覚。
頭には子供の頃に連れていってもらった遊園地にあったネコとも言いきれない動物形をしたエアドームの中でまともに歩く事も跳ぶことも出来ず座り込み、ただただ揺れて酔った記憶が蘇っていた。
そんなキモイ道のり。
スタートした時は真っ暗だった空が白み、顔を出した太陽が再び沈もうとしてる頃には静岡県に入っていた。
湖からの風で熱を持った体が冷めていくのが心地よい。
「御堂筋くんっ!!!!!」
湖に掛かった橋の上、サカミチの声が道行く車の音にもかき消されることなく響いた。
走行距離は、まだ200キロ程度。
ゴールであるサカミチはまだ先だろうと思っていたから、ボクは面を食らう。
「会いたかったー!!!」
恥ずかしげもなく言うサカミチの口を塞ぐように、ボクらは近くのコンビニの駐車場でロードに隠れて口付けを交わした。
「サカミチ、早いなァ」
「地図見てたら御堂筋くんの方が山ばかりで大変だなって思ったし…僕、絶対この辺りで会いたいなって思ってたから頑張れたんだよ」
自分的にゴールライン決めておけば良かったのか…とボクはあのキモイ道のりを思い出して後悔する。
確かに京都から東の方が山坂は多いが、ここは中間地点というには京都寄りすぎて、勝ち負けなどないのに、何か負けた様な気分になる。
「なんでこの辺り?」
ボクが苦々しく聞くと、サカミチは当たり前の様に答えた。
「だって御堂筋くんうなぎ好きでしょ?」
静岡県浜名市、浜名湖の名産はうなぎ。
ボクはポカンとしてしまっていた。
「交通費浮いた分、うなぎデートしよ?」
サカミチはへらへらとボクに笑い掛けてくる。
多分、サカミチはボクにこのろくでもないとも思えるレースを持ちかけた時から、そうしようとしていたに違いない。
ボクは、まんまとハメられたのだ。
「ここがこれから僕と御堂筋くんとの待ち合わせ場所だね?」
サカミチはふにゃりと微笑んでボクの肩に額を預けると、そのまま電池が切れた様に寝息を立て始める。
「寝んなや、サカミチ…」
ボクは緩く声を掛けるけど、無理に起こす気にはなれない。
うなぎどころか、今夜泊まるホテルすら決まってないけど、ここはボクらの待ち合わせ場所らしいから、このままサカミチ起きるのを待つのもいいだろう。
END
電話の向こうで、目を輝かせているであろうサカミチの言う“イイコト”は、きっとろくでもないという予感があった。
「僕と御堂筋くんが同じ時間にスタートして、出会えたとこでデートするんだ!!名付けてデートレースだよ!!!」
案の定、ろくでもない。
「同じ道でもボクら対向車線走るんやし、気付かずすれ違うかもしれんな」
「そこは気が付くように気にして!!!」
ろくでもない提案だと思っていたが、サカミチに会える上にペダルを回せるのかと、いつの間にかサカミチの誘いに乗ってしまっていた。
そうして迎えた出発の日。
高校生のボクらに与えられた自由に動ける土日というタイムリミットと走行距離を考えたら出発は夜中で、ボクはデローザに取り付けたライトを点灯する。
約束のスタート時間、ボクは『よーいスタート!!!』というテンションの高いサカミチからのメールを確認すると、ゴールラインの分からないレースを始めた。
そのレースの途中、ボクはゴールラインの分からない走りがこんなに不安定なものだと知る事になる。
バランス配分も曖昧になるし、途中立ち寄るコンビニも何キロ先にあるのか調べたりしながら手探りで進む感覚。
頭には子供の頃に連れていってもらった遊園地にあったネコとも言いきれない動物形をしたエアドームの中でまともに歩く事も跳ぶことも出来ず座り込み、ただただ揺れて酔った記憶が蘇っていた。
そんなキモイ道のり。
スタートした時は真っ暗だった空が白み、顔を出した太陽が再び沈もうとしてる頃には静岡県に入っていた。
湖からの風で熱を持った体が冷めていくのが心地よい。
「御堂筋くんっ!!!!!」
湖に掛かった橋の上、サカミチの声が道行く車の音にもかき消されることなく響いた。
走行距離は、まだ200キロ程度。
ゴールであるサカミチはまだ先だろうと思っていたから、ボクは面を食らう。
「会いたかったー!!!」
恥ずかしげもなく言うサカミチの口を塞ぐように、ボクらは近くのコンビニの駐車場でロードに隠れて口付けを交わした。
「サカミチ、早いなァ」
「地図見てたら御堂筋くんの方が山ばかりで大変だなって思ったし…僕、絶対この辺りで会いたいなって思ってたから頑張れたんだよ」
自分的にゴールライン決めておけば良かったのか…とボクはあのキモイ道のりを思い出して後悔する。
確かに京都から東の方が山坂は多いが、ここは中間地点というには京都寄りすぎて、勝ち負けなどないのに、何か負けた様な気分になる。
「なんでこの辺り?」
ボクが苦々しく聞くと、サカミチは当たり前の様に答えた。
「だって御堂筋くんうなぎ好きでしょ?」
静岡県浜名市、浜名湖の名産はうなぎ。
ボクはポカンとしてしまっていた。
「交通費浮いた分、うなぎデートしよ?」
サカミチはへらへらとボクに笑い掛けてくる。
多分、サカミチはボクにこのろくでもないとも思えるレースを持ちかけた時から、そうしようとしていたに違いない。
ボクは、まんまとハメられたのだ。
「ここがこれから僕と御堂筋くんとの待ち合わせ場所だね?」
サカミチはふにゃりと微笑んでボクの肩に額を預けると、そのまま電池が切れた様に寝息を立て始める。
「寝んなや、サカミチ…」
ボクは緩く声を掛けるけど、無理に起こす気にはなれない。
うなぎどころか、今夜泊まるホテルすら決まってないけど、ここはボクらの待ち合わせ場所らしいから、このままサカミチ起きるのを待つのもいいだろう。
END
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