小さな秘密
初めてのキスも、それから先のもう数え切れなくなったキスも、全て自分からだったと御堂筋は気が付いた。
坂道は性格的に積極的な方ではないのは理解してる。
御堂筋の方もこと恋愛に対しては積極的な方ではなかったが、積極的にならなければ何も始まらない関係に嫌気が差して今に至る。
いつまで経っても受け身なままの坂道の態度は御堂筋からしてみれば、まるで自分のエゴに坂道を巻き込んでるだけにも思えた。
例えそうだったとしても坂道を手放すつもりは毛頭ないが、ふと気を抜けば足元が揺らぐ。
その日、坂道と暮らす部屋に帰った御堂筋は家に居た坂道に対して「ただいま」とは言わなかった。
それを言ってしまうと、セットで坂道にキスをしてしまうから。
食後も順番に行っている後片付けの為に坂道がキッチンに籠れば、冷蔵庫にお茶を取りに行ってみたり周囲をウロウロしては通りすぎ様に坂道にキスをしたりするところ、今日はそれをしなかった。
坂道たっての希望で部屋の真ん中を陣取るように置かれたコタツに身を埋めて、キッチンから聞こえる水音に耳を傾ける。
今日は、坂道と一度もキスをしていない。
高校生の頃は毎日会えるような生活を送ってはいなかったが、今は違う。
御堂筋は、たった半日で喉の乾きの様な飢えを感じてしまう習慣に自分が情けなくなった。
一方、坂道は皿に跳ねる水を見つめては、のろのろと皿を洗いながら溜め息を吐く。
今日は部の当番で、まだ眠っていた御堂筋より先に家を出たせいもあり、朝から一度も御堂筋に触れられていない。
いつもなら、このタイミングでお茶を取りにやってくるからと洗ったグラスを先に拭きあげて用意してあるが、今日に限ってそのグラスが使われる事もない。
帰ってきた時の御堂筋の様子もおかしかった。
「ただいま」もなく目を反らし、坂道を避けるように風呂場に直行してしまったから、いつもあるキスもないまま。
やっと食器を洗い終えた坂道が部屋に戻ると、御堂筋はコタツで眠ってしまっていた。
坂道はコタツに入りきれていない御堂筋の肩にブランケットを掛けると、高校時代より伸びた御堂筋の髪にそっと手を伸ばす。
ぱらりと頬に髪が落ちても目を覚まさないのを確認した坂道は、御堂筋を起こさないように息を殺しながら微かに唇に触れるだけのキスをした。
「ごめんね」
それは本人の意思も確認せずに勝手にキスをしてしまった事への謝罪。
本当ならこのままコタツで寝かせず起こした方がいいのかもしれないと思いつつ、坂道は御堂筋の隣に潜り込み、その胸に顔を埋めるが、御堂筋の方は自分の情けなさに嫌気が差して、実は狸寝入りをしていた。
だから、胸に顔を埋める坂道から自分の顔を見えなくて良かったと思う。
初めての坂道からのキスに、自分の顔は隠しようもないくらい真っ赤だろうから。
狸寝入りのお陰で初めて認識しただけで、もしかしたらいままでもこんな事はあったのかもしれない。
御堂筋はキスくらい堂々とすればいいのにと思ったが、すぐにそれも坂道らしいと思い直して、寝惚けたフリをしながら坂道の頭を撫でる。
坂道は勝手にキスをした事。
御堂筋は狸寝入りをしていた事。
二人は、小さな秘密を持った。
END
坂道は性格的に積極的な方ではないのは理解してる。
御堂筋の方もこと恋愛に対しては積極的な方ではなかったが、積極的にならなければ何も始まらない関係に嫌気が差して今に至る。
いつまで経っても受け身なままの坂道の態度は御堂筋からしてみれば、まるで自分のエゴに坂道を巻き込んでるだけにも思えた。
例えそうだったとしても坂道を手放すつもりは毛頭ないが、ふと気を抜けば足元が揺らぐ。
その日、坂道と暮らす部屋に帰った御堂筋は家に居た坂道に対して「ただいま」とは言わなかった。
それを言ってしまうと、セットで坂道にキスをしてしまうから。
食後も順番に行っている後片付けの為に坂道がキッチンに籠れば、冷蔵庫にお茶を取りに行ってみたり周囲をウロウロしては通りすぎ様に坂道にキスをしたりするところ、今日はそれをしなかった。
坂道たっての希望で部屋の真ん中を陣取るように置かれたコタツに身を埋めて、キッチンから聞こえる水音に耳を傾ける。
今日は、坂道と一度もキスをしていない。
高校生の頃は毎日会えるような生活を送ってはいなかったが、今は違う。
御堂筋は、たった半日で喉の乾きの様な飢えを感じてしまう習慣に自分が情けなくなった。
一方、坂道は皿に跳ねる水を見つめては、のろのろと皿を洗いながら溜め息を吐く。
今日は部の当番で、まだ眠っていた御堂筋より先に家を出たせいもあり、朝から一度も御堂筋に触れられていない。
いつもなら、このタイミングでお茶を取りにやってくるからと洗ったグラスを先に拭きあげて用意してあるが、今日に限ってそのグラスが使われる事もない。
帰ってきた時の御堂筋の様子もおかしかった。
「ただいま」もなく目を反らし、坂道を避けるように風呂場に直行してしまったから、いつもあるキスもないまま。
やっと食器を洗い終えた坂道が部屋に戻ると、御堂筋はコタツで眠ってしまっていた。
坂道はコタツに入りきれていない御堂筋の肩にブランケットを掛けると、高校時代より伸びた御堂筋の髪にそっと手を伸ばす。
ぱらりと頬に髪が落ちても目を覚まさないのを確認した坂道は、御堂筋を起こさないように息を殺しながら微かに唇に触れるだけのキスをした。
「ごめんね」
それは本人の意思も確認せずに勝手にキスをしてしまった事への謝罪。
本当ならこのままコタツで寝かせず起こした方がいいのかもしれないと思いつつ、坂道は御堂筋の隣に潜り込み、その胸に顔を埋めるが、御堂筋の方は自分の情けなさに嫌気が差して、実は狸寝入りをしていた。
だから、胸に顔を埋める坂道から自分の顔を見えなくて良かったと思う。
初めての坂道からのキスに、自分の顔は隠しようもないくらい真っ赤だろうから。
狸寝入りのお陰で初めて認識しただけで、もしかしたらいままでもこんな事はあったのかもしれない。
御堂筋はキスくらい堂々とすればいいのにと思ったが、すぐにそれも坂道らしいと思い直して、寝惚けたフリをしながら坂道の頭を撫でる。
坂道は勝手にキスをした事。
御堂筋は狸寝入りをしていた事。
二人は、小さな秘密を持った。
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