銀の指輪
プロとして契約が決まった僕達はフランスへ向かう飛行機の機内にいた。
離陸前の機内は独特の緊張感と高揚感が入り交じり、僕も落ち着かない。
殆どの荷物は預けてしまったから、僕の手元にあるのは長いフライトに備えて用意しておいたラブ☆ヒメや他のアニメを見る為の小さなPC。
落ち着く為に早くDVDを見たいけど、離陸前はテーブルすら開けないから今はお預け。
僕は手持ち無沙汰で隣の席に目をやると、御堂筋くんがCAさんからブランケットを受け取りながら話をしている最中で僕はその綺麗なCAさんと目が合ってしまった。
スラッとしたCAさんはにっこりと微笑んでから通路を戻っていく、その後ろ姿も綺麗で御堂筋と並んだら、お互いスラッとしていてお似合いだろうななどと余計な事を考えてしまうから、ただでさえ憂鬱なフライトに気が滅入る。
「まだ離陸しとらんのに顔色悪いな」
御堂筋くんは僕の頬をつつきながら言う。
僕は誰のせいでと内心思っていたけど、CAさんと話していただけの御堂筋くんも綺麗すぎるCAさんも悪くない。
「これからはイタリアやらなんやら遠征生活になるんやから、いい加減飛行機に慣れんといかんよ」
御堂筋はそう言うけど、僕が慣れなきゃいけないのは飛行機もだけど、フランスの生活もだと思う。
契約で何度か訪れたフランスではハグやらキスやらの文化が溢れていて、その度にドキドキしてしまうし、御堂筋くんが綺麗なフランス女性とハグをする度に胃が痛み、今やハグすらしてないのに綺麗な女性が御堂筋くんと少し話してるだけで気が滅入るまでになってる。
僕は軽い胃の痛みを感じながら俯いた。
「ホレ」
と、突然御堂筋くんから差し出されたのは小さな茶色い小箱。
僕は胃薬でも入っているのかと受け取った箱を開けたけど、中には胃薬は入っていなさそう。
胃薬の変わりに入っていたのは、ベルベットのクッションに包まれた二つ並んだ指輪だった。
「え?」
呆然とする僕を他所に御堂筋くんが指輪の一つを手に取り、僕の左手の薬指に指輪を嵌める。
そして、もう一つを自分の左手の薬指に嵌めた。
一瞬の出来事。
僕は母さんの左手の薬指にいつもある指輪を思い出すと、その指輪の意味に気が付いて目を見開いてから、少し考えてしまった。
「こ…こういうのって今する事?しかも、御堂筋くん自分で嵌めたでしょ!」
僕は真っ赤になりながらも抗議して、御堂筋くんの手から嵌めたばかりの指輪を奪う。
奪ったピカピカの指輪の内側には黄色い宝石の隣にはAKIRA MIDOUSUJIの刻印。
「よく分からないけど、こういうのって自分の名前入れるの?」
「いや、相手の名前らしいわ。でも、この飛行機が落ちて火葬いらんくらい丸焦げになったけど奇跡的に指輪付けた手だけ残ったとする。あ、この丸焦げは小野田坂道か…そう思われたらどうする?ボクは御堂筋翔くんや」
独特の感性を持った恋人に僕は愕然とする。
ただ何より思った。
「今…飛行機落ちる話する時かな?」
乗客を乗せ、安全確認を終えた飛行機はゆっくりと滑走路に向かう最中。
「じゃあ他の話したる。坂道の誕生石は何とかって青い石なんやて」
僕は話の意図が読めないまま、どうやら僕の指輪にも付いてるらしい宝石を確かめる為に付けて貰ったばかりの指輪を外すと、内側には僕の名前と紫の宝石。
御堂筋くんの話だと僕の誕生石とやらは青のはずだけど、窓から差し込む光に当ててもその宝石は青くはない。
「青は何やムカつくから、紫のやつにしたわ」
そう言ってムッとする御堂筋くんの頬は少し赤らんでいる気がする。
御堂筋くんの誕生石は知らないけど、もしかしたら黄色い石ではないかもしれない。
僕は御堂筋くんの名前の隣の収まった黄色い宝石と、僕の名前の隣で輝く紫の宝石を見比べて嬉しくなった。
「やり直そう?」
僕は御堂筋の手を取って、左手の薬指にゆっくりと指輪を嵌める。
御堂筋くんも、僕が外した指輪を再び、今度はゆっくりと目を見ながら嵌めてくれた。
僕らはそのまま思わずキスをしてしまいそうになったけど、シートベルトの着用サインの音に我に帰る。
何故今渡されたのか。
僕は、恋人の配慮のなさを愁いたけど、二人でくるまったブランケットの中で繋いだ指輪をした手のせいか、もしも飛行機が落ちたりしても自分の名前だけは判明するという安心感からか、長いはずのフライトはちっとも苦痛じゃなくて、ラブ☆ヒメのDVDも見ずに指輪と御堂筋くんの顔を見てるだけで新天地へと到着した。
新天地に不安なんてない。
指輪の内側の刻印と宝石みたいに、ずっと一緒に居られると思ったから。
END
離陸前の機内は独特の緊張感と高揚感が入り交じり、僕も落ち着かない。
殆どの荷物は預けてしまったから、僕の手元にあるのは長いフライトに備えて用意しておいたラブ☆ヒメや他のアニメを見る為の小さなPC。
落ち着く為に早くDVDを見たいけど、離陸前はテーブルすら開けないから今はお預け。
僕は手持ち無沙汰で隣の席に目をやると、御堂筋くんがCAさんからブランケットを受け取りながら話をしている最中で僕はその綺麗なCAさんと目が合ってしまった。
スラッとしたCAさんはにっこりと微笑んでから通路を戻っていく、その後ろ姿も綺麗で御堂筋と並んだら、お互いスラッとしていてお似合いだろうななどと余計な事を考えてしまうから、ただでさえ憂鬱なフライトに気が滅入る。
「まだ離陸しとらんのに顔色悪いな」
御堂筋くんは僕の頬をつつきながら言う。
僕は誰のせいでと内心思っていたけど、CAさんと話していただけの御堂筋くんも綺麗すぎるCAさんも悪くない。
「これからはイタリアやらなんやら遠征生活になるんやから、いい加減飛行機に慣れんといかんよ」
御堂筋はそう言うけど、僕が慣れなきゃいけないのは飛行機もだけど、フランスの生活もだと思う。
契約で何度か訪れたフランスではハグやらキスやらの文化が溢れていて、その度にドキドキしてしまうし、御堂筋くんが綺麗なフランス女性とハグをする度に胃が痛み、今やハグすらしてないのに綺麗な女性が御堂筋くんと少し話してるだけで気が滅入るまでになってる。
僕は軽い胃の痛みを感じながら俯いた。
「ホレ」
と、突然御堂筋くんから差し出されたのは小さな茶色い小箱。
僕は胃薬でも入っているのかと受け取った箱を開けたけど、中には胃薬は入っていなさそう。
胃薬の変わりに入っていたのは、ベルベットのクッションに包まれた二つ並んだ指輪だった。
「え?」
呆然とする僕を他所に御堂筋くんが指輪の一つを手に取り、僕の左手の薬指に指輪を嵌める。
そして、もう一つを自分の左手の薬指に嵌めた。
一瞬の出来事。
僕は母さんの左手の薬指にいつもある指輪を思い出すと、その指輪の意味に気が付いて目を見開いてから、少し考えてしまった。
「こ…こういうのって今する事?しかも、御堂筋くん自分で嵌めたでしょ!」
僕は真っ赤になりながらも抗議して、御堂筋くんの手から嵌めたばかりの指輪を奪う。
奪ったピカピカの指輪の内側には黄色い宝石の隣にはAKIRA MIDOUSUJIの刻印。
「よく分からないけど、こういうのって自分の名前入れるの?」
「いや、相手の名前らしいわ。でも、この飛行機が落ちて火葬いらんくらい丸焦げになったけど奇跡的に指輪付けた手だけ残ったとする。あ、この丸焦げは小野田坂道か…そう思われたらどうする?ボクは御堂筋翔くんや」
独特の感性を持った恋人に僕は愕然とする。
ただ何より思った。
「今…飛行機落ちる話する時かな?」
乗客を乗せ、安全確認を終えた飛行機はゆっくりと滑走路に向かう最中。
「じゃあ他の話したる。坂道の誕生石は何とかって青い石なんやて」
僕は話の意図が読めないまま、どうやら僕の指輪にも付いてるらしい宝石を確かめる為に付けて貰ったばかりの指輪を外すと、内側には僕の名前と紫の宝石。
御堂筋くんの話だと僕の誕生石とやらは青のはずだけど、窓から差し込む光に当ててもその宝石は青くはない。
「青は何やムカつくから、紫のやつにしたわ」
そう言ってムッとする御堂筋くんの頬は少し赤らんでいる気がする。
御堂筋くんの誕生石は知らないけど、もしかしたら黄色い石ではないかもしれない。
僕は御堂筋くんの名前の隣の収まった黄色い宝石と、僕の名前の隣で輝く紫の宝石を見比べて嬉しくなった。
「やり直そう?」
僕は御堂筋の手を取って、左手の薬指にゆっくりと指輪を嵌める。
御堂筋くんも、僕が外した指輪を再び、今度はゆっくりと目を見ながら嵌めてくれた。
僕らはそのまま思わずキスをしてしまいそうになったけど、シートベルトの着用サインの音に我に帰る。
何故今渡されたのか。
僕は、恋人の配慮のなさを愁いたけど、二人でくるまったブランケットの中で繋いだ指輪をした手のせいか、もしも飛行機が落ちたりしても自分の名前だけは判明するという安心感からか、長いはずのフライトはちっとも苦痛じゃなくて、ラブ☆ヒメのDVDも見ずに指輪と御堂筋くんの顔を見てるだけで新天地へと到着した。
新天地に不安なんてない。
指輪の内側の刻印と宝石みたいに、ずっと一緒に居られると思ったから。
END
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