可愛い悪戯
三本ローラーを回していると、傍らの机に置きっぱなしにした携帯電話が鳴る。
一番最初に携帯の音に反応したんは、丁度横を通りかかっていた山口くん。
山口くんはボクの携帯に目を落とした時、ビクッと肩が揺らしただけで、その携帯をボクに手渡す事もなく通り過ぎて行き、不親切やと思う。
仕方なく三本ローラーに乗ったまま携帯に手を伸ばすと、発信者の名前と電話番号のみが表示されているはずの着信画面で坂道が満面の笑みで笑っていた。
「ファ???」
突然、液晶内の恋人と目が合ったボクは動揺して三本ローラーから自転車ごと落ち、足を付いて落車は免れたものの、机に額したたか打ち付ける。
ボクはこの液晶を見られたであろう事。
コケて額を打った事。
そもそもこの液晶。
何に恥ずかしがったらいいのか分からない状態。
白々しく何も見ていない振りをする山口くんが部室から逃げるように出ていくと、ボクは鳴り響く電話に応答した。
「ボクの携帯に何したん?」
開口一番に打ち付けた額を抑えながら言うと、「あー…えっと」と挙動不審な声が聞こえるから、ボクの携帯を細工した犯人は坂道だと確信する。
まぁ、ボクの携帯に細工出来る程に気を抜いた時に側にいるのは久屋の家族か坂道。
それに犯人が坂道じゃなかったんなら、自撮りであろう近い距離で無邪気に笑う坂道の写真を撮った奴がいるという事になるから、それはそれで腹が立つし、犯人は坂道で良かった。
「いつやったんや、こんなしょうもない悪戯」
「目開いてたからもしかしたら起きてるかな?って思ってたんだけど、やっぱり寝てたんだね。ビックリした?」
ボクは昨日お互いが休息日の休日なのをいいことに、一昨日の練習後に夜行バスに乗り、強行スケジュールで行った坂道の家で、坂道が見ていたアニメをBGMにうたた寝をしてしまったのを思い出す。
たまにユキちゃんにも指摘されるが、ボクは寝てるときに目が開いているらしい。
「ローラーから落ちるくらい驚いたわ」
「ひゃぁぁぁぁぁああ!ご、ごめんなさい!怪我してない?大丈夫?それにロード乗ってるときに電話しちゃったって事だよね?邪魔もしちゃってるし…本当にごめん!これから気を付けるよ」
坂道はこれでもかという程に動揺するから、どっちが悪戯をしたのか分からなくなる。
「ボク、ロード乗ってない時のが珍しいんやから、気ぃ付けたら電話出来なくなるよ?」
「う…それは…」
これでローラーから落ちて怪我をしたとでも言うたら、坂道はロードででも京都に来てしまいそうな勢いだから、ボクは打ち付けた頭を擦りながらも嘘を吐く。
「嘘や。ボクがローラーから落ちるわけないやろ」
「そっかぁ」
ボクの額は少々腫れていて、あからさまにホッとする恋人がそうそう会える場所に居なくて良かったと初めて思った。
いつもはこの距離が憎いのに。
「せやから、いつでも電話掛けてきたらえぇよ」
ボクはそう言いながら耳から少し離した携帯を操作し、また突然坂道の笑顔で落車しないようにと設定をし直す。
「じゃあ…またね」
用件の後、そう電話を切る坂道。
通話終了の画面の後、ボクの携帯の待ち受け画面には坂道の笑顔が表示されていた。
こうして見慣れていたら、突然の着信画面にもう動揺しないやろ。
恋人の写真を待ち受け画面にするなんて正直サムすぎるけど、坂道の悪戯のお陰ですでに着信画面は山口くんには見られてしもたし、今更どうでもよくなった。
液晶の中で笑う坂道の可愛い悪戯への対抗手段。
END
一番最初に携帯の音に反応したんは、丁度横を通りかかっていた山口くん。
山口くんはボクの携帯に目を落とした時、ビクッと肩が揺らしただけで、その携帯をボクに手渡す事もなく通り過ぎて行き、不親切やと思う。
仕方なく三本ローラーに乗ったまま携帯に手を伸ばすと、発信者の名前と電話番号のみが表示されているはずの着信画面で坂道が満面の笑みで笑っていた。
「ファ???」
突然、液晶内の恋人と目が合ったボクは動揺して三本ローラーから自転車ごと落ち、足を付いて落車は免れたものの、机に額したたか打ち付ける。
ボクはこの液晶を見られたであろう事。
コケて額を打った事。
そもそもこの液晶。
何に恥ずかしがったらいいのか分からない状態。
白々しく何も見ていない振りをする山口くんが部室から逃げるように出ていくと、ボクは鳴り響く電話に応答した。
「ボクの携帯に何したん?」
開口一番に打ち付けた額を抑えながら言うと、「あー…えっと」と挙動不審な声が聞こえるから、ボクの携帯を細工した犯人は坂道だと確信する。
まぁ、ボクの携帯に細工出来る程に気を抜いた時に側にいるのは久屋の家族か坂道。
それに犯人が坂道じゃなかったんなら、自撮りであろう近い距離で無邪気に笑う坂道の写真を撮った奴がいるという事になるから、それはそれで腹が立つし、犯人は坂道で良かった。
「いつやったんや、こんなしょうもない悪戯」
「目開いてたからもしかしたら起きてるかな?って思ってたんだけど、やっぱり寝てたんだね。ビックリした?」
ボクは昨日お互いが休息日の休日なのをいいことに、一昨日の練習後に夜行バスに乗り、強行スケジュールで行った坂道の家で、坂道が見ていたアニメをBGMにうたた寝をしてしまったのを思い出す。
たまにユキちゃんにも指摘されるが、ボクは寝てるときに目が開いているらしい。
「ローラーから落ちるくらい驚いたわ」
「ひゃぁぁぁぁぁああ!ご、ごめんなさい!怪我してない?大丈夫?それにロード乗ってるときに電話しちゃったって事だよね?邪魔もしちゃってるし…本当にごめん!これから気を付けるよ」
坂道はこれでもかという程に動揺するから、どっちが悪戯をしたのか分からなくなる。
「ボク、ロード乗ってない時のが珍しいんやから、気ぃ付けたら電話出来なくなるよ?」
「う…それは…」
これでローラーから落ちて怪我をしたとでも言うたら、坂道はロードででも京都に来てしまいそうな勢いだから、ボクは打ち付けた頭を擦りながらも嘘を吐く。
「嘘や。ボクがローラーから落ちるわけないやろ」
「そっかぁ」
ボクの額は少々腫れていて、あからさまにホッとする恋人がそうそう会える場所に居なくて良かったと初めて思った。
いつもはこの距離が憎いのに。
「せやから、いつでも電話掛けてきたらえぇよ」
ボクはそう言いながら耳から少し離した携帯を操作し、また突然坂道の笑顔で落車しないようにと設定をし直す。
「じゃあ…またね」
用件の後、そう電話を切る坂道。
通話終了の画面の後、ボクの携帯の待ち受け画面には坂道の笑顔が表示されていた。
こうして見慣れていたら、突然の着信画面にもう動揺しないやろ。
恋人の写真を待ち受け画面にするなんて正直サムすぎるけど、坂道の悪戯のお陰ですでに着信画面は山口くんには見られてしもたし、今更どうでもよくなった。
液晶の中で笑う坂道の可愛い悪戯への対抗手段。
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