デザート
「ごちそうさまでした」
御堂筋は猫背気味の背筋を一瞬だけ伸ばして手を合わせた。
「食べるの早いなぁ」
テーブルの向かいに座った従妹のユキは、米粒の一つも残ってない御堂筋の茶碗を見て言う。
「今日お隣から柿貰たん、今剥くからちょお待ってて」
叔母はそう言って急いで食事を済ませようとするから、御堂筋は自分の食器を下げるのを少し戸惑った。
「翔兄ちゃん、早よ彼女に電話したいから早食いやねん」
「え?男の子だからお友達やろ?」
味噌汁を啜りながら、目の前の御堂筋を他所にガールズトークが始まる。
叔父の不在の日の食卓は、いつもこう。
インターハイ前、ピリピリと張り詰めていた御堂筋の態度がインターハイを終えてから少しばかり柔らかくなったのを家族は見逃さず、最近はこうして御堂筋がガールズトークの対象になる事も多くなった。
「ボク柿いらんからユキちゃんにやるわ…叔母さんもゆっくり食べて」
御堂筋は、そう言うと食べ終えた食卓をシンクに運んで、逃げるように自室に戻る。
御堂筋は食後の時間、電話をしているのが家族にバレていた事を先程の会話で初めて知った。
電話をしていること自体知らないと思っていたところ、更に電話の相手が彼女やら、男友達である事などどうして知っているのか分からなかったが、どちらの指摘も当たらずとも遠からずで内心動揺する。
机に置かれた携帯電話を見れば、まだ着信はないようだ。
彼女でも、男友達でもない、恋人からの着信。
御堂筋は、しばらく考えて出来るだけ家族にバレない方法を探った結果、普段はイヤホンでしか聞かない音楽など部屋に流してみたりする。
そして、着信音が鳴らない様に、御堂筋の方から電話を掛けてみる。
「御堂筋くんから掛けてくれるなんて、嬉しい!」
3コールで電話に出たのは御堂筋が苦手とする感情表現を開口一番に全力でしてくる恋人。
「いつも坂道が掛けてくるのが早すぎるんよ」
「ごめんね。夜ゴハン急いで食べちゃって、母さんにもよく噛みなさいって怒られてるんだ。でも、早く声聞きたくて…」
「…おん」
素直すぎる恋人に御堂筋は思わず気が抜けてしまう。
そんな時だった。
「翔兄ちゃん、柿持ってきたよー」
柿を乗せた皿を手にドアを開けたユキとバッチリ目が合う。
御堂筋は一瞬固まってから、怒鳴りそうになる衝動を既の所でこらえ、震える声で言う。
「ノックしてや」
ついうっかりと言うように舌を出すが、ユキは確信犯だった。
「ノック?」
携帯電話からは恋人の声が聞こえて、御堂筋は焦る。
「ユキちゃん…あー従妹に言ったんよ。一緒に住んどる従妹」
咄嗟に出てしまった女性の名前に思わず従妹を連呼してしまう御堂筋は片手で柿を受け取りながらユキを部屋から追い出そうとするが、恋人の方は女性の名前だという事は気にも留めず、それどころか改まって言った。
「初めまして!小野田坂道です!!」
そう、携帯電話から漏れる程、部屋に流れる音楽に負けない大きな声で。
「初めまして!ユキです!!翔兄ちゃんがいつもお世話になってます!!」
ユキは少しニヤリとした後に、坂道の調子を真似て答える。
「そーいうんいいから!」
焦る御堂筋は二人に言った。
それから、バタバタと部屋から追い出されたユキは、台所で食器を洗っていた母の元へ行き、テーブルに用意されていた柿をつまみながら嬉しそうに言う。
「翔兄ちゃんの電話の相手、彼女じゃないわ」
「お友達でしょ?」
「あれはお友達じゃないわ、翔兄ちゃんめっちゃデレてたもん」
「いいんやない?翔くんが幸せなら」
「うん、めっちゃ幸せそうやった」
「…で?どんな子?」
そんなガールズトークが繰り広げられてる事を御堂筋は知らない。
END
御堂筋は猫背気味の背筋を一瞬だけ伸ばして手を合わせた。
「食べるの早いなぁ」
テーブルの向かいに座った従妹のユキは、米粒の一つも残ってない御堂筋の茶碗を見て言う。
「今日お隣から柿貰たん、今剥くからちょお待ってて」
叔母はそう言って急いで食事を済ませようとするから、御堂筋は自分の食器を下げるのを少し戸惑った。
「翔兄ちゃん、早よ彼女に電話したいから早食いやねん」
「え?男の子だからお友達やろ?」
味噌汁を啜りながら、目の前の御堂筋を他所にガールズトークが始まる。
叔父の不在の日の食卓は、いつもこう。
インターハイ前、ピリピリと張り詰めていた御堂筋の態度がインターハイを終えてから少しばかり柔らかくなったのを家族は見逃さず、最近はこうして御堂筋がガールズトークの対象になる事も多くなった。
「ボク柿いらんからユキちゃんにやるわ…叔母さんもゆっくり食べて」
御堂筋は、そう言うと食べ終えた食卓をシンクに運んで、逃げるように自室に戻る。
御堂筋は食後の時間、電話をしているのが家族にバレていた事を先程の会話で初めて知った。
電話をしていること自体知らないと思っていたところ、更に電話の相手が彼女やら、男友達である事などどうして知っているのか分からなかったが、どちらの指摘も当たらずとも遠からずで内心動揺する。
机に置かれた携帯電話を見れば、まだ着信はないようだ。
彼女でも、男友達でもない、恋人からの着信。
御堂筋は、しばらく考えて出来るだけ家族にバレない方法を探った結果、普段はイヤホンでしか聞かない音楽など部屋に流してみたりする。
そして、着信音が鳴らない様に、御堂筋の方から電話を掛けてみる。
「御堂筋くんから掛けてくれるなんて、嬉しい!」
3コールで電話に出たのは御堂筋が苦手とする感情表現を開口一番に全力でしてくる恋人。
「いつも坂道が掛けてくるのが早すぎるんよ」
「ごめんね。夜ゴハン急いで食べちゃって、母さんにもよく噛みなさいって怒られてるんだ。でも、早く声聞きたくて…」
「…おん」
素直すぎる恋人に御堂筋は思わず気が抜けてしまう。
そんな時だった。
「翔兄ちゃん、柿持ってきたよー」
柿を乗せた皿を手にドアを開けたユキとバッチリ目が合う。
御堂筋は一瞬固まってから、怒鳴りそうになる衝動を既の所でこらえ、震える声で言う。
「ノックしてや」
ついうっかりと言うように舌を出すが、ユキは確信犯だった。
「ノック?」
携帯電話からは恋人の声が聞こえて、御堂筋は焦る。
「ユキちゃん…あー従妹に言ったんよ。一緒に住んどる従妹」
咄嗟に出てしまった女性の名前に思わず従妹を連呼してしまう御堂筋は片手で柿を受け取りながらユキを部屋から追い出そうとするが、恋人の方は女性の名前だという事は気にも留めず、それどころか改まって言った。
「初めまして!小野田坂道です!!」
そう、携帯電話から漏れる程、部屋に流れる音楽に負けない大きな声で。
「初めまして!ユキです!!翔兄ちゃんがいつもお世話になってます!!」
ユキは少しニヤリとした後に、坂道の調子を真似て答える。
「そーいうんいいから!」
焦る御堂筋は二人に言った。
それから、バタバタと部屋から追い出されたユキは、台所で食器を洗っていた母の元へ行き、テーブルに用意されていた柿をつまみながら嬉しそうに言う。
「翔兄ちゃんの電話の相手、彼女じゃないわ」
「お友達でしょ?」
「あれはお友達じゃないわ、翔兄ちゃんめっちゃデレてたもん」
「いいんやない?翔くんが幸せなら」
「うん、めっちゃ幸せそうやった」
「…で?どんな子?」
そんなガールズトークが繰り広げられてる事を御堂筋は知らない。
END
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