風邪をひいた日
前に風邪をひいたのは、高熱で魘されるボクの傍らで手を握ってくれる人が居た頃。
吐き気がする位の頭痛がする枕元で喧しく携帯が鳴る。
すぐに出たんは、喧しい携帯を黙らせたかったからかは分からない。
「もしもし!小野田で…」
「知っとる」
携帯に表示された名前ですでに分かってるというのに、いちいち名乗る声も頭に響くから、ボクはそれを遮った。
「あ、そうだよね…えっと…御堂筋くん、声が変じゃない?」
まだ一言しか声を発していないのに。
枯れた声を聞き分けられる程に電話を掛けてきているいう事やろか。
「ただの風邪や」
「え!熱あるの?病院行った?薬飲んだ?水分とってる?」
答えるまで、延々と質問責めにされそうやった。
その声は頭には響くが悪い気はしなくて、そのまま言わせておこうかとも思うたが、質問を重ねる度に段々と不安そうな声になっていくから、ボクは言ってやった。
「手ぇ握ってもろうたら治るただの風邪や」
ボクが次に目を覚ましたのは翌日の昼前やった。
酷かった頭の痛みはなくなっていたが、寝すぎたせいかぼぅっとする頭で昨日の事を思い出す。
何か恥ずかしい事を口走った気もしたが、意識が朦朧として、どうやって電話を切ったのか覚えていないし、そもそも坂道と電話をしたのも夢か現かよく分からなかった。
『ピンポーン』
玄関のチャイムが鳴る。
久屋の叔母さんが玄関に向かう足音がしたかと思うていたら、しばらくして自室のドアをノックされた。
いつだか注文したパーツでも届いたのかと、ドアに目をやると部屋を覗き込んだ叔母さんの余所行きの笑顔が見える。
「翔くん、お見舞いやってお友達よー」
ボク友達なんておらんから、久屋の叔母さんが新手の詐欺か何かに引っ掛かったのか。
叔父さんはいない時間やし、ボクが追っ払ってやらなと身を起こし掛けた時、久屋の叔母さんと入れ違いにドアから顔を出した人物に驚いて声も出なかった。
「御堂筋くん、具合はどう?」
いつも携帯から聞こえる声が目の前から聞こえる。
「な…んでサカミチがここに居んのや?」
その人物は近所から歩いてきたかの様にボクの部屋に入り込むと、枕元に膝を揃えて正座した。
「えっと…手握ったら治るって言ってたから、僕が直したいなって思って…思わず高速バス乗っちゃった…んだけど…よく考えてみたらおかしいよね?」
そう言いながら坂道の顔は真っ赤になっていく。
そんな事の為に千葉から京都までやってきたんか。
しかも、そうする前によく考える事はしなかったんか。
アホすぎるにも程がある。
「キモ」
ボクは条件反射の様に言いながら、昨日の会話が現実だった事に気が付いて、全身の体温が上がった気がした。
頭も痛くない。
声もまぁ普通で喉も痛くはない。
風邪は治ったはずなのに、やたらと体が熱くて…どうやらボクは拗らせたらしい。
「治すんやろ?」
ボクが布団の中から手だけを出すと、一瞬戸惑った坂道が遠慮がちにボクの手を握る。
坂道の手は小さくて、幼い頃ボクの手を握ってくれた手くらいのサイズかもしれんと思うた。
拗らせたボクを治せそうにはないけど。
END
吐き気がする位の頭痛がする枕元で喧しく携帯が鳴る。
すぐに出たんは、喧しい携帯を黙らせたかったからかは分からない。
「もしもし!小野田で…」
「知っとる」
携帯に表示された名前ですでに分かってるというのに、いちいち名乗る声も頭に響くから、ボクはそれを遮った。
「あ、そうだよね…えっと…御堂筋くん、声が変じゃない?」
まだ一言しか声を発していないのに。
枯れた声を聞き分けられる程に電話を掛けてきているいう事やろか。
「ただの風邪や」
「え!熱あるの?病院行った?薬飲んだ?水分とってる?」
答えるまで、延々と質問責めにされそうやった。
その声は頭には響くが悪い気はしなくて、そのまま言わせておこうかとも思うたが、質問を重ねる度に段々と不安そうな声になっていくから、ボクは言ってやった。
「手ぇ握ってもろうたら治るただの風邪や」
ボクが次に目を覚ましたのは翌日の昼前やった。
酷かった頭の痛みはなくなっていたが、寝すぎたせいかぼぅっとする頭で昨日の事を思い出す。
何か恥ずかしい事を口走った気もしたが、意識が朦朧として、どうやって電話を切ったのか覚えていないし、そもそも坂道と電話をしたのも夢か現かよく分からなかった。
『ピンポーン』
玄関のチャイムが鳴る。
久屋の叔母さんが玄関に向かう足音がしたかと思うていたら、しばらくして自室のドアをノックされた。
いつだか注文したパーツでも届いたのかと、ドアに目をやると部屋を覗き込んだ叔母さんの余所行きの笑顔が見える。
「翔くん、お見舞いやってお友達よー」
ボク友達なんておらんから、久屋の叔母さんが新手の詐欺か何かに引っ掛かったのか。
叔父さんはいない時間やし、ボクが追っ払ってやらなと身を起こし掛けた時、久屋の叔母さんと入れ違いにドアから顔を出した人物に驚いて声も出なかった。
「御堂筋くん、具合はどう?」
いつも携帯から聞こえる声が目の前から聞こえる。
「な…んでサカミチがここに居んのや?」
その人物は近所から歩いてきたかの様にボクの部屋に入り込むと、枕元に膝を揃えて正座した。
「えっと…手握ったら治るって言ってたから、僕が直したいなって思って…思わず高速バス乗っちゃった…んだけど…よく考えてみたらおかしいよね?」
そう言いながら坂道の顔は真っ赤になっていく。
そんな事の為に千葉から京都までやってきたんか。
しかも、そうする前によく考える事はしなかったんか。
アホすぎるにも程がある。
「キモ」
ボクは条件反射の様に言いながら、昨日の会話が現実だった事に気が付いて、全身の体温が上がった気がした。
頭も痛くない。
声もまぁ普通で喉も痛くはない。
風邪は治ったはずなのに、やたらと体が熱くて…どうやらボクは拗らせたらしい。
「治すんやろ?」
ボクが布団の中から手だけを出すと、一瞬戸惑った坂道が遠慮がちにボクの手を握る。
坂道の手は小さくて、幼い頃ボクの手を握ってくれた手くらいのサイズかもしれんと思うた。
拗らせたボクを治せそうにはないけど。
END
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