勝負!
坂道による定期連絡。
これがなければ、ボクらが恋人同士だという事実はどこにもない。
かと言って、別に甘い会話があるわけでもない。
普段はアニメの話ばかりで、きちんと部活をしているんかも怪しい位だが、今日は珍しくロードの話が出てきた。
「僕、週末草レースに出ることになったんだ」
「ほぅ…ボクもや」
週末、静岡の草レースに出る予定だったボクは、さらりと返す。
「そうなんだ!じゃあ、怪我しないように祈ってるね!」
「ボクはキミと違って、そう簡単に転ばんよ」
「そうだけど…優勝しますようにとかは僕が祈らなくても御堂筋くんなら勝てるって信じてるから」
ボクも自分が勝てると思うてる。
しかし、それを普通に坂道から言われると正直動揺して、わざと茶化す様に言うた。
「キミはボクが祈ってもどうせスタート前に落車とか器用な事するんやろうから、ボクはキミの優勝祈っておいたるわ」
「ぼ!僕が優勝なんてムリムリムリムリ!」
インハイの優勝者の癖に、ムカつくくらいの謙遜。
でも、ボクはもうイラつきもしなかった。
「将来、世界に羽ばたく御堂筋翔くんを山で引きたいんなら草レースくらい優勝してもらわんと…他の相方探すよ?」
「え!やだ!優勝出来るように頑張る!」
そんな話をした週末、まさか坂道と会うとは思うてなかった。
「御堂筋くんの出るレースってコレだったのっ?」
今日はあえて京都伏見のユニフォームを脱いで、わざわざ京都から離れたレースに個人としてエントリーしてるというのに、スタートラインで元々大きな目を更に見開いて坂道が叫ぶから、目立って仕方ない。
「キミこそ…」
なんでこんなところのレースにいるんや…と言い掛けてから、坂道の周りを取り囲む様にスタートポジションを陣取る総北高校のいつもの面子と、洋南大学のジャージを着た総北の元主将が目に入り、聞かずとも勝手に納得した。
てっきり関東の草レースに出るもんだと思っていたボクは、思えばレース名すら聞いてない。
聞いていたら、呑気に坂道の優勝なんて祈らなかったのに。
「あのね…今日は個人戦だからオーダーないんだ」
坂道が、こそこそとボクに体を寄せて言うてくる。
「だから今日御堂筋くんの事、引けるかなぁ?って思って…」
少なくとも卒業するまで、そんな事は起こらんと思うていた、甘い言い方をするならボクら二人の夢。
だから、このチャンスに心が揺れなかったと言えば嘘になるけど。
「キミ、優勝するよう頑張る言うてたんは嘘なん?」
「…それは…っ!!!」
『ガシャンッ!』
予想通りと言うべきか、坂道はスタート前に落車。
総北の面子が坂道を起こそうとしてる中、ボクがロードに乗ったまま手だけを差し伸べると、坂道は迷わずボクの手を強く掴んで言った。
「僕、頑張るよ…御堂筋くんが祈ってくれたんだもんね」
ボクは手を引いてその体を起こすと、そのまま一瞬だけ坂道を抱きしめ、チラリと総北の面子に視線を送る。
ボクのものやと言うように。
でも、ボクの恋人は、スタートの合図の後には最大の敵になる。
ボクは坂道が勝てる様にと祈り、坂道はボクが勝てると信じてる。
たまにはしがらみのないレースでもと静岡まで来たのに、気が付けばしがらみだらけ。
祈る心か、信じる心か、どっちが勝つかの勝負がいま始まる。
END
これがなければ、ボクらが恋人同士だという事実はどこにもない。
かと言って、別に甘い会話があるわけでもない。
普段はアニメの話ばかりで、きちんと部活をしているんかも怪しい位だが、今日は珍しくロードの話が出てきた。
「僕、週末草レースに出ることになったんだ」
「ほぅ…ボクもや」
週末、静岡の草レースに出る予定だったボクは、さらりと返す。
「そうなんだ!じゃあ、怪我しないように祈ってるね!」
「ボクはキミと違って、そう簡単に転ばんよ」
「そうだけど…優勝しますようにとかは僕が祈らなくても御堂筋くんなら勝てるって信じてるから」
ボクも自分が勝てると思うてる。
しかし、それを普通に坂道から言われると正直動揺して、わざと茶化す様に言うた。
「キミはボクが祈ってもどうせスタート前に落車とか器用な事するんやろうから、ボクはキミの優勝祈っておいたるわ」
「ぼ!僕が優勝なんてムリムリムリムリ!」
インハイの優勝者の癖に、ムカつくくらいの謙遜。
でも、ボクはもうイラつきもしなかった。
「将来、世界に羽ばたく御堂筋翔くんを山で引きたいんなら草レースくらい優勝してもらわんと…他の相方探すよ?」
「え!やだ!優勝出来るように頑張る!」
そんな話をした週末、まさか坂道と会うとは思うてなかった。
「御堂筋くんの出るレースってコレだったのっ?」
今日はあえて京都伏見のユニフォームを脱いで、わざわざ京都から離れたレースに個人としてエントリーしてるというのに、スタートラインで元々大きな目を更に見開いて坂道が叫ぶから、目立って仕方ない。
「キミこそ…」
なんでこんなところのレースにいるんや…と言い掛けてから、坂道の周りを取り囲む様にスタートポジションを陣取る総北高校のいつもの面子と、洋南大学のジャージを着た総北の元主将が目に入り、聞かずとも勝手に納得した。
てっきり関東の草レースに出るもんだと思っていたボクは、思えばレース名すら聞いてない。
聞いていたら、呑気に坂道の優勝なんて祈らなかったのに。
「あのね…今日は個人戦だからオーダーないんだ」
坂道が、こそこそとボクに体を寄せて言うてくる。
「だから今日御堂筋くんの事、引けるかなぁ?って思って…」
少なくとも卒業するまで、そんな事は起こらんと思うていた、甘い言い方をするならボクら二人の夢。
だから、このチャンスに心が揺れなかったと言えば嘘になるけど。
「キミ、優勝するよう頑張る言うてたんは嘘なん?」
「…それは…っ!!!」
『ガシャンッ!』
予想通りと言うべきか、坂道はスタート前に落車。
総北の面子が坂道を起こそうとしてる中、ボクがロードに乗ったまま手だけを差し伸べると、坂道は迷わずボクの手を強く掴んで言った。
「僕、頑張るよ…御堂筋くんが祈ってくれたんだもんね」
ボクは手を引いてその体を起こすと、そのまま一瞬だけ坂道を抱きしめ、チラリと総北の面子に視線を送る。
ボクのものやと言うように。
でも、ボクの恋人は、スタートの合図の後には最大の敵になる。
ボクは坂道が勝てる様にと祈り、坂道はボクが勝てると信じてる。
たまにはしがらみのないレースでもと静岡まで来たのに、気が付けばしがらみだらけ。
祈る心か、信じる心か、どっちが勝つかの勝負がいま始まる。
END
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