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ショートケーキ

冬の京都は寒い。
道路も所々凍結するし、外練習は開店休業状態。
それでも切れる様な冷たい空気を引き裂く感覚が気に入っていた。
外練習から白い息を吐きながら部室に戻ってくると、部室は無人。
せめて内練習くらいしたらええのに、だからザクなんや…と思いつつ、外した手袋を部室の隅に置かれた長机に放ろうとした時、ソレの存在に気がついた。

真っ白で甘ったるそうなクリームで覆い尽くされ、真っ赤な苺が飾られたショートケーキ。
真ん中には『Happy Birthday御堂筋くん』とチョコで書かれたプレート。
そして、その回りには火の点いた16本の黄色いロウソク。
ケーキに蝋は垂れていないから、ほんの今し方点けられた火であろう。

ほんまザクやな…

それに気がつかなかった様に無視してウェアのジップを下げていると、傍らでほわんとした灯りを灯すロウソクが何かを訴えるように、その身を削ってゆっくりと蝋を垂らす。

いや、なんで黄色なん?

京都伏見らしい紫ないしピンクならまだしも、それがなかったのなら他の色ならまだしも、何故黄色。しかも一色。
夏の苦い記憶を思い出してしまう…と眉をひそめたが、実際に思い出したのは丸いメガネを掛けた奴の事だった。
自分が欲しかったものをかっさらったのだから、それはそれで苦い記憶なはずなのに、心の中にほわんと火を灯された様な気がして苛立った。
だから、心に灯された火ごと消し去ってやろうと、憎々しげにケーキに刺さったロウソクの火を吹き消してやった。

奴を頭の中に浮かべながら。

火を消されたロウソクは、しゅんと肩を落とすように微かな煙だけを残して本来の部室の薄暗さに戻す。
フンと鼻で笑うようにケーキを睨んだが、その鼻を掠めるのは甘く汚してはいけないような真っ白なクリームの匂い。
頭の中にはロウソクの火と共に消したはずの奴の顔、それにほわんとした心の中の灯り。

キモ…

全て無かった事にしたいのか、それとも真っ白なクリームを汚してしまいたかったのか、よく分からないままケーキを鷲掴みにすると口の中に押し込んでやった。

「えっ?」と、驚いた様な何人かの声が部室のドアの向こうから聞こえる。
どうせこの下らないケーキも引退したはずの石垣くんやらが用意したんだろう。
奴の眼鏡の様に丸いケーキはどうみても一人分じゃないから、自分達の分が無くなった動揺か知らない。
ケーキに載っていたプレートから舌先で器用にクリームだけを舐め取ってから、プレートを何も無くなった更に放り投げた。


それでも頭の中の奴は消えないけど。


何事も無かったように着替えを済ませ、部室のドアを開ける。
そして、ドアの向こうにいた部員達に言った。
「美味しゅういただきましたァ」
邪悪と言われる笑みを浮かべると、部員達は小さな声で答える。

「た…誕生日おめでとう」



END
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