紅く染まる頃に
熊本から帰った僕は、石垣さんから貰ったメモに書いてあるメールアドレスを慎重に携帯に打ち込む。
そして、メールの本文を打ち込んでは消して、直してを繰り返し、一本のメールを作り上げるのに半日も掛かってしまった。
―――――――――――――――――――――――――――
題名:こんにちは。
本文:総北高校自転車競技部一年の小野田坂道です。
インターハイの時は一緒に走ってくれてありがとう。
また熊本で会えるのを楽しみにしていたけど、今回は会えなくて残念でした。
次はいつ会えるかな?
楽しみにしてます。
―――――――――――――――――――――――――――
何度も見直して、見直して。
結局、メールを送信できた頃には夜になってしまっていた。
送信終了の画面は見たけど本当に送れたのか信じられなくて、送信済みのメールを開いてみる。
夜に送ったのに、昼から作っていたメールのタイトルが《こんにちは》になっていたままになっていたのに気がついた僕は、あんなに確認したのに…と項垂れたけど、メールは送られているらしい。
返事、来るかな?
胸がドキドキしてしまって、気持ち的には眠れそうになかったけど、熊本の疲れは顕著だったらしく僕はその日、携帯電話を握りしめたまま眠ってしまった。
翌朝、目が覚めると、メール受信を知らせるランプがチカチカと点滅していることに気がつく。
僕は飛び起きて受信したメールを開いたけど、それはラブ☆ヒメの公式サイトから送られてきた新しいブルーレイの発売を知らせるメールで、いつもの僕なら飛び跳ねて喜ぶのに、今日はそんな気にならなかった。
受信したメールはそれだけで、御堂筋くんからのメールの返信はない。
「石垣さんも返事ないかもって言ってたしな…」
僕は独り言を溢しながらベッドから出ると、ゆるゆると制服に着替える。
頭に浮かぶのは、石垣さんの言葉だった。
『御堂筋は、難しい奴やから返事は来んかもしれんけど…それでも伝えてやってほしい。出来たら、伝わるまで…』
石垣さんの困った様な笑顔も思い出した僕は、ふとその言葉が“オーダー”の様に思えてくる。
「伝わるまで…かぁ」
そもそも伝わるってなんだろう?
メールの送信をしたら、伝わったと思っていいのだろうか。
でも、それでは読んだかどうかは分からないから、伝わったと言えるのだろうか。
メールというツールのもどかしさだ。
返事が来るまでって事なのかな?
僕は一応のゴールらしきものの設定をする。
このまま返信を待っていてもいいのかもしれないけど、何かしなきゃと使命感の様な物が生まれた気がした。
休み時間の度に携帯電話を取り出して、新たなメールの内容を考えていた。
そして、今日は夜になってしまわないように気を付けて送信。
―――――――――――――――――――――――――――
題名:こんにちは。
本文:昨夜は突然メールをして、ごめんなさい。
御堂筋くんのメールアドレスは、僕の気持ちを伝えるために石垣さんから教えて頂きました。
迷惑だったら言って下さい。
―――――――――――――――――――――――――――
そうやって送った二本目だったけど、その日も、翌朝も、御堂筋くんからメールの返信が来ることはなかった。
でも、僕は『迷惑なら言って下さい』と書いたから『迷惑』という返信が来てないことにホッとした気持ちもある。
返信が来ないという事はメールを送ってもいいと、どこか受け入れられた様な気もして何か誇らしげにも感じられた。
我ながら卑怯な文章だとも思わなくもないけど。
僕は、その日から毎日メールを打ち続けた。
―――――――――――――――――――――――――――
題名:こんにちは。
本文:今日、千葉は雨でした。
雨の日の走り方も練習しなきゃいけないのかもしれないけど、部活は室内練習が中心になりました。
京都の天気はどうでしたか?
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
題名:こんにちは。
本文:昨日の雨で水溜まりが出来ていて、僕は今日派手に転んでしまいました。
転ぶのはなれてるから、怪我はないけど。
御堂筋くんも、怪我には気をつけてね。
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
題名:こんにちは。
本文:今日は数学の小テストがありました。
半分くらいしか分からなくて、大変だったよ。
御堂筋くんは、数学得意?
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
題名:こんにちは。
本文:今日は秋葉原に行ってきたよ。
ガシャポンに新しいシリーズが発売されたんだ!
欲しかったのは出なくて残念だけど、また来週のお楽しみって事にしたよ。
―――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
題名:こんにちは。
本文:今日はロードを全部バラバラにしてパーツを磨いたよ。
プラモデルみたいで、面白いよね。
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そして、メールの本文を打ち込んでは消して、直してを繰り返し、一本のメールを作り上げるのに半日も掛かってしまった。
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題名:こんにちは。
本文:総北高校自転車競技部一年の小野田坂道です。
インターハイの時は一緒に走ってくれてありがとう。
また熊本で会えるのを楽しみにしていたけど、今回は会えなくて残念でした。
次はいつ会えるかな?
楽しみにしてます。
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何度も見直して、見直して。
結局、メールを送信できた頃には夜になってしまっていた。
送信終了の画面は見たけど本当に送れたのか信じられなくて、送信済みのメールを開いてみる。
夜に送ったのに、昼から作っていたメールのタイトルが《こんにちは》になっていたままになっていたのに気がついた僕は、あんなに確認したのに…と項垂れたけど、メールは送られているらしい。
返事、来るかな?
胸がドキドキしてしまって、気持ち的には眠れそうになかったけど、熊本の疲れは顕著だったらしく僕はその日、携帯電話を握りしめたまま眠ってしまった。
翌朝、目が覚めると、メール受信を知らせるランプがチカチカと点滅していることに気がつく。
僕は飛び起きて受信したメールを開いたけど、それはラブ☆ヒメの公式サイトから送られてきた新しいブルーレイの発売を知らせるメールで、いつもの僕なら飛び跳ねて喜ぶのに、今日はそんな気にならなかった。
受信したメールはそれだけで、御堂筋くんからのメールの返信はない。
「石垣さんも返事ないかもって言ってたしな…」
僕は独り言を溢しながらベッドから出ると、ゆるゆると制服に着替える。
頭に浮かぶのは、石垣さんの言葉だった。
『御堂筋は、難しい奴やから返事は来んかもしれんけど…それでも伝えてやってほしい。出来たら、伝わるまで…』
石垣さんの困った様な笑顔も思い出した僕は、ふとその言葉が“オーダー”の様に思えてくる。
「伝わるまで…かぁ」
そもそも伝わるってなんだろう?
メールの送信をしたら、伝わったと思っていいのだろうか。
でも、それでは読んだかどうかは分からないから、伝わったと言えるのだろうか。
メールというツールのもどかしさだ。
返事が来るまでって事なのかな?
僕は一応のゴールらしきものの設定をする。
このまま返信を待っていてもいいのかもしれないけど、何かしなきゃと使命感の様な物が生まれた気がした。
休み時間の度に携帯電話を取り出して、新たなメールの内容を考えていた。
そして、今日は夜になってしまわないように気を付けて送信。
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題名:こんにちは。
本文:昨夜は突然メールをして、ごめんなさい。
御堂筋くんのメールアドレスは、僕の気持ちを伝えるために石垣さんから教えて頂きました。
迷惑だったら言って下さい。
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そうやって送った二本目だったけど、その日も、翌朝も、御堂筋くんからメールの返信が来ることはなかった。
でも、僕は『迷惑なら言って下さい』と書いたから『迷惑』という返信が来てないことにホッとした気持ちもある。
返信が来ないという事はメールを送ってもいいと、どこか受け入れられた様な気もして何か誇らしげにも感じられた。
我ながら卑怯な文章だとも思わなくもないけど。
僕は、その日から毎日メールを打ち続けた。
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題名:こんにちは。
本文:今日、千葉は雨でした。
雨の日の走り方も練習しなきゃいけないのかもしれないけど、部活は室内練習が中心になりました。
京都の天気はどうでしたか?
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題名:こんにちは。
本文:昨日の雨で水溜まりが出来ていて、僕は今日派手に転んでしまいました。
転ぶのはなれてるから、怪我はないけど。
御堂筋くんも、怪我には気をつけてね。
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題名:こんにちは。
本文:今日は数学の小テストがありました。
半分くらいしか分からなくて、大変だったよ。
御堂筋くんは、数学得意?
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題名:こんにちは。
本文:今日は秋葉原に行ってきたよ。
ガシャポンに新しいシリーズが発売されたんだ!
欲しかったのは出なくて残念だけど、また来週のお楽しみって事にしたよ。
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題名:こんにちは。
本文:今日はロードを全部バラバラにしてパーツを磨いたよ。
プラモデルみたいで、面白いよね。
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