紅く染まる頃に
毎日送るメールの内容は、ほとんど僕の日記。
御堂筋くんからの返信は来ることはないまま、2ヶ月が過ぎようとしていた。
1ヶ月が過ぎた頃にもう止めようかなとも思ったけど、石垣さんの言葉を思い出してまだ送り続けてる。
返信のないメールだと思うと悲しくなるから、僕は夏休みの絵日記以上に続いた初めての日記だと開き直る気持ちにもなっていた。
今日のメニューは、峰ヶ山での練習。
走り慣れたコースではあるけど、楽になる事はなくて、僕は懸命にペダルを回す。
回せば回すほど苦しくて仕方なかったけど、頭を真っ白にして走る時間は気持ち的にも楽だった。
自分に対して、どうやっても気にしていない風を装うのは難しい。
2ヶ月経とうとしている今も石垣さんからの“オーダー”に応えられない悔しさと、御堂筋くんからの返信がないという寂しさは僕に確かにのし掛かっていたから。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
僕は山頂駐車場に到着すると肩で息をして呼吸を少しずつ整えながら、ポタポタとアスファルトを染める汗を眺めていた。
「おつかれさま!風邪ひくといけないから、汗ちゃんと拭いてね!」
待ち構えていた寒咲さんがタオルを持ってきてくれる。
「あ、はい」
いつもは走った後に水を被る程だったのに?
受け取ったタオルで汗を拭きながら、辺りを見回せば、峰ヶ山は色を変え、夏はとっくに終わっていた。
秋…なんだ。
季節の移り変わりに時の流れを感じて、僕の胸はチクリと痛む。
「めっちゃ紅葉しとるよなー!紅葉狩りしとったら遅くなってしもたわ!」
「ただの実力だろ?」
鳴子くんと今泉くんは、そう言いながら寒咲さんからのタオルの奪い合う。
「スカシやって、小野田くんより後ろにいたやないかい!実力やろ?」
「いや、紅葉狩りをしてただけだ。ロードは景色を楽しむものでもあるからな」
「真似すんなー!」
二人のやり取りは漫才の様で、いつも笑ってしまう。
けど、今の僕は笑うよりハッとさせられた。
このところペダルを回すことばかりに集中して、夏が終わった事にさえ気がつかないほど周りが見えてなかった。
僕は大事な事を忘れていた事に気が付いて、ポケットから携帯を取り出す。
「僕、紅葉狩りするの忘れてたよ」
二人にそう言うと、赤と黄色のグラデーションに染まる紅葉の写真を撮った。
そして、すぐさま打ったメールに添付してする。
―――――――――――――――――――――――――――
題名:こんにちは。
本文:紅葉が綺麗だよ。
こんな中で御堂筋くんと一緒に走れたら楽しいだろうな。
添付ファイル:あり
―――――――――――――――――――――――――――
どうせ日記だけど。
そう僕は自虐的に思いながらも、御堂筋くんにこの景色をどうしても見せたかった。
実際メールを見てくれてるかすら分からないけど。
もう返事を期待することもなくなっていた僕は送信した事に満足して携帯をしまおうとした。
その時。
『ピロン♪』と携帯がメールの着信を告げる。
また、ラブ☆ヒメかな?と思いながら、開いた画面に僕は驚いて携帯を落としそうになる。
―――――――――――――――――――――――――――
題名:キモ
本文:なし
添付ファイル:あり
―――――――――――――――――――――――――――
御堂筋くんからの初めてのメール。
本文はないけど。
震える手で添付ファイルを開く。
多少のローディング時間すら待ち遠しくて、体感的にはやっと表示された一枚の写真。
そこには京都の街並みを囲む、燃えるように真っ赤な紅葉が写っていた。
多分、今撮ったばかりであろう写真。
その写真は僕の撮ったバランスの悪い写真と違って、とても美しかった。
場所は違うけど一緒に走ってると言ってくれてるんだと思っていいのだろうか。
烏滸がましいかもしれないけど、そう思いたい。
やっと気持ちが伝わった気がして嬉しくなった僕はタオルに顔を埋めて堪えていたつもりだったけど「うわぁぁぁぁん!」と声を上げて泣いてしまっていて、鳴子くんと今泉くんに心配を掛けてしまっていた。
END
御堂筋くんからの返信は来ることはないまま、2ヶ月が過ぎようとしていた。
1ヶ月が過ぎた頃にもう止めようかなとも思ったけど、石垣さんの言葉を思い出してまだ送り続けてる。
返信のないメールだと思うと悲しくなるから、僕は夏休みの絵日記以上に続いた初めての日記だと開き直る気持ちにもなっていた。
今日のメニューは、峰ヶ山での練習。
走り慣れたコースではあるけど、楽になる事はなくて、僕は懸命にペダルを回す。
回せば回すほど苦しくて仕方なかったけど、頭を真っ白にして走る時間は気持ち的にも楽だった。
自分に対して、どうやっても気にしていない風を装うのは難しい。
2ヶ月経とうとしている今も石垣さんからの“オーダー”に応えられない悔しさと、御堂筋くんからの返信がないという寂しさは僕に確かにのし掛かっていたから。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
僕は山頂駐車場に到着すると肩で息をして呼吸を少しずつ整えながら、ポタポタとアスファルトを染める汗を眺めていた。
「おつかれさま!風邪ひくといけないから、汗ちゃんと拭いてね!」
待ち構えていた寒咲さんがタオルを持ってきてくれる。
「あ、はい」
いつもは走った後に水を被る程だったのに?
受け取ったタオルで汗を拭きながら、辺りを見回せば、峰ヶ山は色を変え、夏はとっくに終わっていた。
秋…なんだ。
季節の移り変わりに時の流れを感じて、僕の胸はチクリと痛む。
「めっちゃ紅葉しとるよなー!紅葉狩りしとったら遅くなってしもたわ!」
「ただの実力だろ?」
鳴子くんと今泉くんは、そう言いながら寒咲さんからのタオルの奪い合う。
「スカシやって、小野田くんより後ろにいたやないかい!実力やろ?」
「いや、紅葉狩りをしてただけだ。ロードは景色を楽しむものでもあるからな」
「真似すんなー!」
二人のやり取りは漫才の様で、いつも笑ってしまう。
けど、今の僕は笑うよりハッとさせられた。
このところペダルを回すことばかりに集中して、夏が終わった事にさえ気がつかないほど周りが見えてなかった。
僕は大事な事を忘れていた事に気が付いて、ポケットから携帯を取り出す。
「僕、紅葉狩りするの忘れてたよ」
二人にそう言うと、赤と黄色のグラデーションに染まる紅葉の写真を撮った。
そして、すぐさま打ったメールに添付してする。
―――――――――――――――――――――――――――
題名:こんにちは。
本文:紅葉が綺麗だよ。
こんな中で御堂筋くんと一緒に走れたら楽しいだろうな。
添付ファイル:あり
―――――――――――――――――――――――――――
どうせ日記だけど。
そう僕は自虐的に思いながらも、御堂筋くんにこの景色をどうしても見せたかった。
実際メールを見てくれてるかすら分からないけど。
もう返事を期待することもなくなっていた僕は送信した事に満足して携帯をしまおうとした。
その時。
『ピロン♪』と携帯がメールの着信を告げる。
また、ラブ☆ヒメかな?と思いながら、開いた画面に僕は驚いて携帯を落としそうになる。
―――――――――――――――――――――――――――
題名:キモ
本文:なし
添付ファイル:あり
―――――――――――――――――――――――――――
御堂筋くんからの初めてのメール。
本文はないけど。
震える手で添付ファイルを開く。
多少のローディング時間すら待ち遠しくて、体感的にはやっと表示された一枚の写真。
そこには京都の街並みを囲む、燃えるように真っ赤な紅葉が写っていた。
多分、今撮ったばかりであろう写真。
その写真は僕の撮ったバランスの悪い写真と違って、とても美しかった。
場所は違うけど一緒に走ってると言ってくれてるんだと思っていいのだろうか。
烏滸がましいかもしれないけど、そう思いたい。
やっと気持ちが伝わった気がして嬉しくなった僕はタオルに顔を埋めて堪えていたつもりだったけど「うわぁぁぁぁん!」と声を上げて泣いてしまっていて、鳴子くんと今泉くんに心配を掛けてしまっていた。
END