桜は二度咲く
●オマケ●
御堂筋は、従妹であるユキの部屋をノックする。
ノックと言っても相手はドアではなく襖だから、襖ごと枠を叩く様な無愛想な音を立てるが。
「なぁに?」
部屋から顔を覗かせたユキに、御堂筋は躊躇いながら言った。
「押し花の作り方教えてもらいたいんよ」
従兄である御堂筋から出た“押し花”という意外すぎるワードに驚いたユキは「花を押すんや」と思わず簡潔過ぎる説明をしてしまう。
普段なら“そんなんは分かってる”とか言い返してくるであろう御堂筋が「そか」と恐ろしく素直に自室に戻って行こうとするから、ユキは慌てて引き留めた。
「ティッシュか何かに包んで、本の間に挟めばいいんやよ」
そう言って、ティッシュ箱を片手に御堂筋を追えば、手のひらには潰れた桜。
「それ、もう押し花やん…めっちゃ不恰好だけど。桜なんかその辺にアホ程咲いとるんやから新しいので作りぃ?ユキ、取ってこよか?」
少々コミュニケーション能力の低い御堂筋に対し、面倒見がよく育ってしまったユキは言うが、御堂筋は「いらん」と自室に戻っていく。
手のひらから潰れた桜を落とさないようになのか、そっと歩く御堂筋の姿にユキはピンと来て、声を上げる。
「好きな人出来たんやろ?」
「余計な事言っとらんと勉強でもしぃ」
そう言って自室の襖をピシャリと閉めたから、ユキは確信して、御堂筋の部屋の前で喚く。
「ねぇ、どんな人ー?教えてくれんとおかんにも翔兄ちゃんに好きな人出来たっておかんに言うよー!」
ユキの声は大きくて、台所にいた叔母までが「翔くんに?」と部屋の前にやってきたから、すでに“おかんに言う”という交換条件など無効だし、御堂筋は襖を開けなかった。
わいわいと盛り上がるユキと叔母の声を聞きながら、御堂筋は丁寧にティッシュの上に潰れたサクラの花を落とすと、隠す様に不恰好な押し花をロード雑誌の間に挟む。
こんなに簡単ならユキに聞かなければ良かった…と頭を抱える御堂筋の部屋の前で繰り広げられるユキと叔母の話しは、しばらく続きそうだ。
END
御堂筋は、従妹であるユキの部屋をノックする。
ノックと言っても相手はドアではなく襖だから、襖ごと枠を叩く様な無愛想な音を立てるが。
「なぁに?」
部屋から顔を覗かせたユキに、御堂筋は躊躇いながら言った。
「押し花の作り方教えてもらいたいんよ」
従兄である御堂筋から出た“押し花”という意外すぎるワードに驚いたユキは「花を押すんや」と思わず簡潔過ぎる説明をしてしまう。
普段なら“そんなんは分かってる”とか言い返してくるであろう御堂筋が「そか」と恐ろしく素直に自室に戻って行こうとするから、ユキは慌てて引き留めた。
「ティッシュか何かに包んで、本の間に挟めばいいんやよ」
そう言って、ティッシュ箱を片手に御堂筋を追えば、手のひらには潰れた桜。
「それ、もう押し花やん…めっちゃ不恰好だけど。桜なんかその辺にアホ程咲いとるんやから新しいので作りぃ?ユキ、取ってこよか?」
少々コミュニケーション能力の低い御堂筋に対し、面倒見がよく育ってしまったユキは言うが、御堂筋は「いらん」と自室に戻っていく。
手のひらから潰れた桜を落とさないようになのか、そっと歩く御堂筋の姿にユキはピンと来て、声を上げる。
「好きな人出来たんやろ?」
「余計な事言っとらんと勉強でもしぃ」
そう言って自室の襖をピシャリと閉めたから、ユキは確信して、御堂筋の部屋の前で喚く。
「ねぇ、どんな人ー?教えてくれんとおかんにも翔兄ちゃんに好きな人出来たっておかんに言うよー!」
ユキの声は大きくて、台所にいた叔母までが「翔くんに?」と部屋の前にやってきたから、すでに“おかんに言う”という交換条件など無効だし、御堂筋は襖を開けなかった。
わいわいと盛り上がるユキと叔母の声を聞きながら、御堂筋は丁寧にティッシュの上に潰れたサクラの花を落とすと、隠す様に不恰好な押し花をロード雑誌の間に挟む。
こんなに簡単ならユキに聞かなければ良かった…と頭を抱える御堂筋の部屋の前で繰り広げられるユキと叔母の話しは、しばらく続きそうだ。
END