第四章 〜縮めては遠くなる〜
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両親の命日は、ヨンジが先に帰ってしまった後も
あの丘の上で、夕暮れまで静かに過ごした。
その夜から
ミドリがあの夢を見ることはなくなった。
——数日が経った、ある日の夕方。
「今日は夕食前に風呂に入りたい」という
ヨンジのために、早めに風呂の準備をし
大浴場へ彼を見送った後、食堂へ顔を出した。
夕食準備で動き回る侍女たちの中
何やら慌てているマリナに声をかける。
「マリナ、何か手伝う?」
「ミドリ!ヨンジ様は?」
「今お風呂に入られてるわ。いつも長風呂だから。」
「そう。助かる!ニジ様から急にシフォンケーキが食べたいって言われて…」
「この夕食前に!?」
「しかもブルーベリー味。もうすぐ焼き上がると思うんだけど、私別の用事があって…」
「わかった!ニジ様のケーキは任せて。部屋にお持ちすればいい?」
「うん!ありがとう!お願いね!」
夕食前で慌ただしい調理場へ入り
隅の方でシフォンケーキが焼き上がるのを
待っていると
スイーツ担当のパティシエが
焼き上がったケーキをカウンターに出してくれた。
「全くニジ様の気まぐれには毎回焦るよ。」
「すみません、ありがとうございます!」
見るからにふんわりとしたシフォンケーキに
ホイップクリームが添えられ
さらにブルーベリーのソースまでかけてある。
「美味しそう!さすがですね!」
得意げに笑うパティシエにお礼を言うと
ケーキの乗ったお皿とカトラリーをトレイに乗せ
調理場を後にした。
ヨンジの専属になってからというもの
来ることのなくなっていたニジの部屋へ向かう。
——コンコン
「失礼します。」
少し緊張している。
王子の中でも、気性が荒く暴れん坊である
ニジのことが、一番苦手だった。
中に入ると、珍しく執務に集中していたようで
彼は机に向かっていた。
「シフォンケーキをお持ちしました。こちらに置いておきますね。」
ミドリはトレイをテーブルに置き
邪魔をしないよう、すぐに部屋を出ようとするが
ニジがくるりと座席を回転させてこちらを向いた。
「てめェはヨンジの使いパシリじゃねェか。」
「はい、ミドリと申します。」
席を立ち、こちらに向かって来るニジに
ぺこりと頭を下げる。
「おれんとこなんか来て、暇なのか。」
ニジはトレイの蓋を開けると
フォークもナイフも使うこともなく
シフォンケーキを直接手で割って口へと頬張る。
「いえ、少し手が足りなかったので、私がお邪魔しました。失礼いたしました。」
「待て。」
出て行こうとするのを呼び止められたかと思うと
モグモグと口だけを動かしたまま
鋭い視線でじっと顔を見つめられる。
「……な、何か?」
「…わからねェ。」
「はい?」
「なんでヨンジがお前なんかを気に入ってるのか、さっぱり理解できねェ。」
顔を見ることに飽きたのか
視線をケーキに戻すと次の一口を頬張る。
「べ、別に気に入られているわけでは…」
「じゃなきゃ専属になんか選ばねェだろ。うっとうしいだけだ。しかし、これはうめェ。気に入った。」
「………」
「何してる。さっさと出ていけ。」
「あ、し、失礼しました。」
熱くなった顔を隠すように
慌ててニジの部屋を後にした。