第四章 〜縮めては遠くなる〜
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写真の前に膝をつき、顔の前で手を合わせ
目を瞑ったまま動かないミドリの後ろで
ヨンジはつまらなそうに、ただ立ち尽くす。
この女は、何が楽しくてこんなことをしている。
こんなことで、死者に祈りが届くのか?
というか、死んだ者に今更何を言いたいんだ。
そして、いつまで待たせる気だ。
このおれを退屈させやがって。
色々と文句を言いたくなったが
——なんか嬉しくて
——ヨンジ様がそんなこと言ってくれるなんて
さっきのこいつの笑った顔を思い出して
許してやることにした。
気分がよかった。
その笑った顔が
サンジに向けられたものではなく
初めて、このおれに向けられたものだったから。
ふぅ、と息を吐いて祈ることをやめたかと思うと
両親の写真を一点に見つめる。
今度は何をしてるのかとヨンジが後ろから覗くと
ミドリの頬を一筋涙が伝った。
両親を想っての涙だった。
ヨンジにはその涙の理由は理解できないが
どうしたら泣き止むのか、方法は知っていた。
「泣くな。」
ミドリの後ろで膝をつき
背後から抱き締める。
「えっ……」
ミドリは硬直し、言葉を失った。
首元にヨンジの腕が回されて、身体は密着し
背中全体に大きな温もりを感じる。
「………」
「………」
突然のことにとても驚いたが
自分を泣き止ませようとしてくれている、と
そう気付いた瞬間、胸が暖かくなった。
「……ありがとうございます。」
照れ臭くなりながら、素直にそう伝えると
ヨンジも「あァ」と一言だけ答えた。
そのまま無言になる2人。
回された腕がいつまでも離れることはなく
反対に腕の力は一層強くなっていく。
これ以上は心臓がもたない。
そう思ったミドリは首元のヨンジの腕を
トントンと軽く叩いた。
「あの…もう大丈夫です。」
「………」
「ヨンジ様?涙、止まりました。」
「あ?あァ、そうか。」
ふと我に返ったヨンジは慌てて腕を離した。
「………」
「………」
気まずい空気が2人を襲う。
ミドリはヨンジの方を見ることができないまま
ドクンドクンとうるさい心臓を
なんとか抑えるのに必死だった。
「あの…やっぱりこういうの、なんていうか…誰かに見られると誤解を招いてしまうので、もうやらない方がいいかと……」
「………」
「ヨンジ様?」
返事がないことが気になり、振り返ると
ヨンジは自分の両手を見つめながら
訝しげな表情をしていた。
「何だこれは…意味がわからねェ。」
手のひらを確かめるように握ったり
開いたりを繰り返している。
ミドリはそんな様子のヨンジが
少し心配になった。
「どうかなさいましたか?」
「……何でもない。おれは帰る。」
目が合った瞬間
彼がいつもよくするムッとした表情に戻ると
突然立ち上がり、そのまま去っていった。
ひとり残されたミドリは力が抜けたように
その場にペタンと座り込む。
心臓はまだドキドキしてる。
頬を手でおさえると、とても熱くなっていた。
きっと真っ赤になってるだろう。
ヨンジ様に気付かれてしまっただろうか。
身体もまだ熱を持ってる。
強く触れていた背中
そこだけじゃなくて、腕が触れていた肩にも
吐息を感じた耳の後ろ、うなじのあたりにも
ヨンジ様の温もりがしっかりと残ってる。
レイドスーツで、グローブをしていた
前の時よりも、肌と肌が直に触れる感触だった。
とても恥ずかしかった。
でも嫌じゃなかった。
それどころか……
すがる思いで、写真の2人に目をやる。
「この気持ちって……やっぱりそうだと思う?」
写真の2人はただ笑っているだけ。
そっと呟いた独り言は誰に届くでもなく
宙に消えたけど
自分の気持ちを自覚した瞬間だった。