第四章 〜縮めては遠くなる〜
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城前の賑わう街を抜け
兵士が暮らす家々が転々とする一画を抜けると
小高い丘が広がっている場所に出る。
丘の頂上まで来ると、遠くに海が見えた。
この国に来たばかりの頃、ここを見つけたときに
船の上だというのにこんな場所があるのか、と
驚いたものだ。
それから命日には毎年ここへ来るようになった。
「気持ちいい〜…」
思いっきり伸びをして胸いっぱい空気を吸う。
「こんな場所があったのか。」
後ろから聞こえた声にビクッとする。
まさかここまで追いかけてきていたとは…
「ヨンジ様…どうして…」
「関係ないと言われたのがムカついたからついてきた。」
「城の者が心配しますよ?」
「散歩と言ってある。問題ない。」
「………」
仕方なくミドリは
ヨンジの存在はなるべく気にしないことにして
その場にしゃがみ込んだ。
カバンから1枚の写真を出し
適当な大きさの石に立てかける。
「誰だ。」
ヨンジはミドリの斜め後ろから
身体を屈めて写真を覗き込んできた。
「父と母と、一緒に写ってるのは幼い私です。2人の写真はこれしかなくて……」
言いながら写真の前に花束を置き
その横にりんご、バナナ、オレンジと
持ってきていたフルーツを置いた。
写真に向かって手を合わせようとする。
「これに何の意味がある。」
気になったことをいちいち聞いてくるヨンジに
ペースを乱され、少しうんざりしてくる。
でも、彼がこうして戦闘以外の知識を
得てこなかったのは、彼自身のせいではないし
このように興味を示すことも今まではなかった。
これも彼のためだとミドリは説明をした。
「父と母は4年前に死んでしまったんです。今日は2人の命日で。お墓がないので、毎年こうしてお参りをしているんです。」
「お参り?」
「えっと…亡くなった人を思って、お祈りをしているんです。」
「なぜわざわざ、ここでする。」
「ここは空が開けていて、海も見えるので、天国にいる両親にちゃんと届く気がして。」
言いながら見上げると
ヨンジも同じように空を見上げる。
何も言わなくなったヨンジを不思議に思い
今度はミドリから質問をした。
「ヨンジ様には理解し難いですか?」
「あァ。全く意味がわからねェ。」
そうですよね、と苦笑を漏らす。
「だが、お前には必要なことなんだろ。」
その言葉に驚いたミドリが振り返ると
ヨンジは一歩引いて眉をひそめる。
「何だよ。」
「いえ、なんか嬉しくて。」
「………」
ふふっと笑うミドリに
今度はヨンジの方が言葉を失った。
「ヨンジ様がそんなふうに言ってくれるなんて、意外です。」
嬉しそうにそう言うと、ミドリは再び前を向き
写真に向かって手を合わせ、目を閉じた。
お父さん、お母さん。
いろいろあるけど私は元気にやっています。
お城での暮らしもだいぶ慣れてきたよ。
横にいるヨンジ様は、意地悪な時もあるけど
少しずつ打ち解けられてきた気がします。
色々と、自分の気持ちに変化もあって
戸惑っている部分もあるけど……
2人の分も、私は強く生きていくから
これからも見守っていてください。