木兎光太郎に溺愛される女の子【完結】
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episode.07「優しい人①」
——デートしてよ。俺と
冗談であってほしいと思ったけど、木兎さんはいつだって本気な人だから、今回もきっと大真面目にそう言ったんだと思う。
あれからずっと、私はそのことばかりを考えてしまって、勝手に一人で緊張している。
本当に?私が、木兎さんと?デートをするの?
デートなんて、もしかしたら私には一生縁がないものかも、なんて思っていたから、少しもピンとこない。
そもそも、デートって何するの?
木兎さんは、私とデートして楽しいの?
「お、今日も読書か!」
教室の入口から大きな声が響いて、体がビクッと反応する。
やってきた木兎さんは慣れたように私の前の席を跨いで腰掛けた。
「読者の秋だな」
「こ、こんにちは」
私は読んでいた本をパタンと閉じた。
「隣町に新しくできたでっけー本屋、行ってみねえ?」
「えっ」
「色々探したんだ。苗字と楽しくデートできそうなところ」
「っ…!」
驚きと嬉しさと緊張
全てが同時に湧き上がる。
その本屋のことはもちろん知っていて
近々行ってみたいとは思っていたけど
まさか木兎さんがそこを提案してきてくれるなんて。
だけど、いざ”デート”となると安易に一歩を踏み出せない。
いくら行ってみたい場所だとしても、男の人と2人きりとなると……
「まぁ他に行きたいとこあるなら、そっちでもいいけどな」
「いえ、本屋がいいですっ」
あぁ、つい本音が口から出てしまった。
木兎さんの瞳が嬉しそうにキラリと光る。
「今度の日曜、部活休みなんだ。体育館の点検とかで。その日は?」
「え?日曜?は……たぶん暇ですけど」
「うっし!決まり!」
「いえっ、でも私やっぱりデートなんて——」
と、私の言葉を遮るように、始業を告げる鐘が鳴り木兎さんは席を立った。
「じゃ、日曜10時に駅前な!」
「えっ、でも…」
「待ってるからな!」
「えー………」
いつもの元気な笑顔を残して、行ってしまった。
ーーーーーーーーーー
前日まで悩みに悩んで、結局決心できないまま。
木兎さんは学校で会うたびに「楽しみだなぁ」と言っていて、はっきりと断ることもできずに当日の朝を迎えてしまった。
”デート”は怖い。
学校の外で、一日中2人きりなんて緊張するし、どのように振る舞ったら良いのかわからない。
一方で、不思議と少し楽しみにしている自分がいる。「相手が木兎さんなら…」と思っている。
だから、断ることができなかったんだ。
支度を済ませ、鏡に写る自分を入念にチェックをした。
緊張から表情が固く引きつっている頬を、両手でぐりぐりとほぐす。
「よし!」と気合いを入れたタイミングで、コンコン、とドアがノックされ開いた。
「お姉ちゃん…」
妹が、体を震わせながら悲痛な表情を浮かべて立っていた。
「えっ、何?どうしたの?」
「熱っぽい…つらい……」
「うそ!とりあえず寝て寝て!」
ベッドに寝かせ、体温を計ると38度超えの熱。ゲホゲホと苦しそうな咳も出ている。
氷枕を用意し、熱を下げる薬を飲ませた。
「病院行く?」
「ううん。寝てれば大丈夫だと思う」
今日は朝から父も母も出かけてしまい、家の中は私と妹の2人きり。
もう中学生とはいえ、具合の悪い妹をひとり残して出かけるのは少し心配だった。
「………」
——日曜10時に駅前集合な!
木兎さんの嬉しそうな笑顔が頭を過ぎる。
「……お姉ちゃん、出かけるとこだったんでしょ?行っていいよ?」
布団から顔を出し、申し訳なさそうに見上げてくる妹に笑顔を向けた。
「大丈夫だから、寝なさい」
「……ありがとう」
しばらくすると薬が効いてきたのか、妹が眠ったのを確認して、部屋を出た。
キッチンでお粥を作りながら、落ち着かない時間を過ごしていた。
時計の針はちょうど10時を指している。
連絡を入れるべきだと思ったけど、そういえば木兎さんの連絡先がわからないことに気付いた。
これまで連絡する用事がなかったし、いつも木兎さんの方から会いに来てくれたから、必要性を感じなかった。
赤葦君ならきっと知っているだろうけど、その赤葦君の連絡先も知らない。
すずちゃんなら、赤葦君と連絡が取れるだろうか?
でも2人に迷惑をかけてしまうし、木兎さんとのデートのことを知られてしまうのは……なんだか恥ずかしい。
うじうじと悩んで、ただ時間だけが過ぎていく。
「……ただ誘われただけで、必ず行くって約束はしてないし…」
ポツリと言い訳のようなひとりごと。
「明日学校でお詫びすればいいかな」
胸は痛むけど、この状況だから仕方ないと思うようにした。
正午。
妹の様子を見にいくと熱は少し下がっていた。
「お粥あるけど、食べられそう?」
「うん。お腹すいた」
「待っててね」
鍋のお粥を温め直していると、玄関の開く音。
「ごめんねー!!」
「大丈夫だよ。おかえり〜」
妹のことを連絡しておいたので、母が早めに帰ってきてくれた。
「ありがとうね、名前。あとはお母さんやるから」
「大丈夫。お粥届けてくるよ」
「いいからいいから!出かけるとこだったんでしょ?」
時計を見ると12時半。
さすがにもう帰ってるだろう。
「出かけるつもりだったんだけど、もういいの」
「そう?せっかく可愛い格好してるのに」
「!」
そうだった。
少しだけ楽しみな気持ちから、いつもよりオシャレにも気合が入っていた私。
「………」
正直に言うなら
木兎さんと”デート”
してみたかった。
それに、ずっと胸の奥に引っかかっている何気ない一言。
——待ってるからな!
彼のことだ。
今も、待ってるかもしれない。
「………やっぱり行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
家を飛び出して最寄りの駅まで全速力で自転車を走らせた。
そこから電車に飛び乗り、待ち合わせ場所まで3駅。
13時を過ぎていた。約束の時間から3時間。普通なら待っていられない。
きっと、いない。
でももしかしたら、いるかもしれない。
その可能性が少しでもあるなら、行かなきゃいけない。
そう思った。
足早に改札を通り、駅前に出た瞬間
息を呑んだ。
「いた……」
ロータリーに並ぶベンチのひとつに見慣れた人影。
