木兎光太郎に溺愛される女の子【完結】
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episode.03「真相」
昼休み。
ずずちゃんとお弁当を食べ、トイレを済ませた後、ふと鏡の前で立ち止まる。
周りに誰もいないことを確認して、じっと自分の顔を見つめた。
オシャレな友達のように、綺麗なお化粧をしているわけでもない。
髪も今日は時間がなかったので、簡単にとかしてきただけ。
目がぱっちりと大きいわけでもないし、唇もぷっくりしてるわけでもない。
どこにでもいるような、普通の顔。
私が思う″可愛い″の定義に、自分の顔は当てはまっていないと思う。
……どこが″可愛い″のだろう…
「あ、いたいた」
「!」
すずちゃんの声がして、私は鏡からすぐさま離れた。
自分の顔を見つめてたなんて、知られたら恥ずかしすぎる。
「ごめんごめん、今戻るとこ」
「なんか赤葦が探してたよー」
「え?赤葦君?」
教室に戻ると、私の席のそばに赤葦君が座っていた。
「苗字さん、ちょっといい?」
その表情はどこか申し訳なさそうで
「ごめんっ!」
席に着くなり深く頭を下げられた。
「えっと……どういうこと?」
「木兎さんのこと……」
赤葦君はあの日の出来事を説明してくれた。
木兎さんはバレーの調子の波が激しい人で
あの日、ちょっとした理由からすごく落ち込んでいて
元気付けるための作戦を施したそう。
それが『客席にいる子が木兎さんをかっこいいと言っていた』とマネージャーさんから励ましてもらう、という作戦。どうしても木兎さんの調子が上がらない時に時々使ってきた手らしい。
今回は、そのマネージャーさんが適当に言った座席に座っていたのが、たまたま私だったそう。
だからあの日、木兎さんはチラチラとこちらを見ていたんだ。色々と腑に落ちた。
家族や友人に視線を送っていたわけじゃない。
その事実がわかって、身体が熱くなった。
胸がざわつく。
木兎さんはずっと、私を見ていたんだ……
「でも、いつもはその試合のテンションが上がる程度で、その子に直接絡んだりはしないんだけど」
と、赤葦君は続けた。
「相当気に入られたみたいだね、苗字さん」
「………」
「でも、本当にごめん。まさかこんなことになるとは…」
赤葦君はもう一度、頭を下げた。
「まぁ仕方ないよ。大丈夫。でも…誤解を解いておいてもらえると助かるかな。私がその…木兎さんを好きって思われてるのは…ちょっと……」
「あ、そうだよね……」
煮え切らない返答。どこか気まずそうな赤葦君。
「やっぱり先輩だし、難しい?」
ずっと一緒に話を聞いてくれていたすずちゃんが口を挟んだ。
「いや、そういうわけじゃないんだけど…今週末、全国行きが決まる大事な試合があるんだ。そこで木兎さんの調子が悪くなるのは……」
心苦しそうな赤葦君の表情。
彼の言いたいことは、なんとなくわかった。
「こっちの都合で本当に申し訳ないんだけど、それが終わるまでは待ってもらえたりしないかな?」
赤葦君が必死で頭を下げてくるのは、木兎さんのため、バレー部のためということが伝わってきて、断ることなんてできなかった。
「……わかった、いいよ」
「ありがとう。本当にごめんね」
「大丈夫だよ。赤葦君がチームのことを思って言ってるってわかるし」
そう言って笑うと、赤葦君もホッとしたように笑った。
「なんか赤葦、苦労してんだね」
私も思ったことを、すずちゃんがポツリと呟いた。
確かに、バレーのことだけでなく、エースの調子まで考慮していないといけないなんて、とても大変だと思う。
「まぁね。でも木兎さんが好調だと俺も嬉しいし、かっこいいあの人を見ていたいから」
わかる。
彼の試合はまだ一度しか見たことがないけど、パワフルでダイナミックで、見ていて気持ちがよくて、心からバレーを楽しんでいる様子が伝わってきた。
私も、木兎さんのかっこいいプレーをもっと見たい。
「赤葦君、その試合、私も応援に行っていいかなぁ」
そう言うと、すずちゃんも手を上げた。
「私も!行く!」
「もちろん。来てくれたら木兎さんも喜ぶよ」
赤葦君は嬉しそうに笑ってくれた。
ーーーーーーーーーー
インターハイ東京代表が決まる予選決勝当日。
6月の終わりということもあり、ジメジメとした空気感。
しかし体育館の中は、それを吹き飛ばすような熱気に溢れていた。
——梟谷!! 梟谷!!
重要な試合ということもあり、観客席の一角は梟谷の学生による応援で埋まっていた。
私とすずちゃんもそこに混ざって応援に参加する。
「木兎〜!!頼むぞ〜!!」
選手たちが入場してきて、応援席が沸いた。
木兎さんは先頭で大きく両手をあげ、今日も一番目立っている。
こちらを見たかと思うと、笑顔を作って手を振ってきた。
「ほら、名前にだよ!」
すずちゃんに言われ、私はぺこりとお辞儀を返す。
と、木兎さんの笑顔が一層嬉しそうに弾けた。
また、胸がざわつく。
試合中、素人の私が見てもわかるくらい、木兎さんは絶好調だった。
それに引っ張られるようにチーム全体の調子が良かったように思う。
惜しくも決勝で負けてしまい、結果は準優勝。
しかし東京代表の2校に残り、梟谷は全国行きを決めた。
気付けば私もすずちゃんも、涙で顔はボロボロだった。
私たちが通っている学校のバレー部は、本当に皆すごい人たちなんだ、と改めて感じて、身体が震えた。
帰り際、この間のようにロビーでバレー部の皆を見かけた。
でも、やっぱり声をかける勇気はない。
「本当にすごかったね…」
「うん、すごかった…」
彼らを羨望の眼差しで見つめる私とすずちゃんはもう「すごい」しか言えなくなっている。
と、ちょうど赤葦君と目が合ったかと思うと、彼がこちらに向かって手招きをした。
「呼んでる。行ってみようか」
「うん」
すずちゃんと共にバレー部のもとへ。
近づくと、なんかもう皆大きくて、その気迫に圧倒される。
「今日はありがとう。おかげで絶好調だった」
赤葦君はいつものように落ち着いていたけど、今日はやっぱり彼のことも輝いて見えた。
「全国、おめでとう」
「私たち感動して泣いちゃったよ」
「あはは、ありがとう」
すずちゃんと赤葦君へ試合の感動を伝えていると、マネージャーさんの声が響く。
「だーかーらー、それはあんたの妄想だってばぁ」
見ると、木兎さんが女子マネージャーさんに何やら文句を言われていた。
「あ、苗字さんへの誤解は解いておいたから」
赤葦君に連れられ、2人のもとへ行った。
「私は『かっこいいって言ってる』って言ったの!『好きだって』なんて言ってないよ」
「あれ〜?そうだったっけ〜?」
どうやらマネージャーさんがちゃんと説明をしてくれたようだ。
木兎さんは残念そうに頭をかいていた。
かと思えば、ふと私の方を見てパッと笑顔になる。
「苗字!来てくれてありがとうな!友達も!」
「こ、こんにちは」
「木兎さん、全国おめでとうございます!」
「おう、ありがとう!2位だけどな!」
「木兎が迷惑かけてごめんね〜?また何かやらかしたらすぐに言って?」
「ありがとうございます」
マネージャーさんはニコリと笑ってくれて、仕事に戻っていった。
「で、納得しましたか?木兎さん」
「おう!なんか残念だったけど、わかった!」
ちゃんと誤解が解けたようでホッとした。
赤葦君も安心しているようだ。
「まぁあれだな。要はこれから苗字に俺を好きになってもらえばいいんだろ!結果オーライ!」
「なっ……」
一件落着かと思いきや、またもや彼の突拍子もない言葉に私は固まる。
「”結果オーライ”の使い方、あってる?」
「あってます」
こんな時も赤葦君は冷静に答えている。
「なぁ今日の俺は?どうだった?」
と、木兎さんが背をかがめ、グイッと顔を近づけてきた。
この大きな瞳を前にすると、なんというか
目が逸らせなくて、逃げられる気がしない。
今日の木兎さん……
サーブ、スパイク、レシーブ
何をやっても目を引いていた。
誰よりも声を出してチームを盛り上げて
何より楽しそうにプレーしていて
かと思えば大事な場面では真剣な眼差しに切り替わって
キャプテンとしても皆を引っ張っていた。
「……すごく、かっこよかったです」
自然と言葉が溢れた。
「ん!今はそれだけでじゅーぶん!」
木兎さんは満足げに笑った。
私はなぜか、ずっとドキドキしてる。
