木兎光太郎に溺愛される女の子【完結】
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episode.02「それは勘違い」
——君、すっごい可愛いな!!
木兎さんの言葉が頭の中で何度もこだまする。
男の人に″可愛い″なんて言われたのは、生まれて初めてだった。
女友達と言い合うことはあるけど、男の人からのその言葉はものすごい破壊力で
私の頭の中を支配するには十分な一言だ。
からかって言ったわけじゃないと思う。
きっと、そんな人じゃない。
そう、たぶん…彼の本音。
「う〜……!!」
熱くなった顔を枕に押し付ける。
突然″可愛い″なんて言ってくるなんて、どんな心境なんだろう。
嵐のように突然現れた木兎さんとのやりとりを思い出すけど、彼の考えていることなんてこれっぽっちもわからない。
それなのに″可愛い″の一言のせいで、彼のことばかりを考えてしまう。
木兎さんのことは以前から知っていた。
バレー部のエースで、実力的にも全国に知れ渡っている有名人だし、声も体も大きいから校内でも目立つ存在。
自分とは遠い世界の人だと感じていた。
今日、実際に試合を見て「やっぱりすごい人なんだ…」と再確認した。
それはどこか他人事で、こんなふうに関わることがあるなんて思いもしなかった。
でも……確かなことがひとつ。
——俺は?どうだった?
——あ、えーっと……かっこよかった、です…
バレーボールをする彼を”かっこいい”と思ったのは、本当。
ーーーーーーーーーー
週が明けた月曜日。
もしも木兎さんに会ったらどうしよう。
また声をかけられたりするのかな。
私は今までにはなかった不安のようなものを抱えながら、2年6組の教室へ登校した。
「あかーし!!」
それは2限と3限の間の休み時間。
教室に大きな声が響いて、体がビクッと反応する。
来た……木兎さんだ……
「これ合宿のスケジュールだってよー!」
木兎さんは赤葦君を見つけるなり席へと押しかけ、机の上に書類を置いた。
「ありがとうございます」
そのまま赤葦君と何やら話をしている。
と、すずちゃんが私のところへやってきて
「木兎さんだね…」
小声で耳打ちをする。
私の心境をわかってくれているみたい。
「うん……」
どうかこのまま何事もなく帰っていってくれますように。
そんな願いは虚しいものだった。
「あ!この前の!」
赤葦君と話していたかと思うと突然顔を上げ
ぱっちりと大きな瞳と視線が合う。
「赤葦と同じクラスだったのか!」
そしてズカズカと勢いよく私のところへ。
席に座っている今は、初めて話したときよりも木兎さんが大きく感じ、背をそらせながら彼を見上げた。
「こ、こんにちは…」
「木兎さん、苗字さんと知り合いだったんですか?」
気になったのか、赤葦君も後ろからついてきていた。
「苗字っつーんだ!下の名前は?」
「苗字 名前です……」
「よし、覚えた!じゃ、苗字さ」
木兎さんはその場にしゃがみ込んで私の机に肘をかけ、見上げてくる形で視線を合わせてこう言った。
「俺と付き合う?」
「………は?」
あまりにも滅茶苦茶な提案に、先輩相手なのに失礼なリアクションをとってしまった。
それはきっとクラス中にも聞こえていて、周りの生徒たちも空気が固まった。
「俺のこと、好きなんでしょ?」
さらに続いた言葉に、教室内がどよめく。
私は混乱しすぎて何も言えない。
私が? 木兎さんを? 好き?
どうして、そうなった……?
「あれ、もしかして違ったか?」
「えっと……」
「木兎さん、ちょっと」
頭が真っ白になる私を見兼ねてか、赤葦君が助け舟を出すように間に入ってくれた。
「なんだよ、赤葦」
「色々唐突すぎです。あと皆の前でそういう話はどうかと…」
「確かにそうだな。じゃ、また来るな!」
今回も嵐のように去っていった。
……と、思ったら
「やっぱりお前、可愛いよな!」
去り際に扉からひょっこり顔を出して、私に向かってそう言い放つ。
ボッと火がついたように顔が熱くなる。
同時に、教室内がドッと沸いた。
女子たちが私の席を囲うように集まってくる。
「何、今の〜!」
「バレー部のキャプテンの人だよね!?」
「名前ちゃん、あの人と付き合うの!?」
「みんな落ち着いて!勘違いだから!」
言葉が出ない私の隣で、すずちゃんが間に入って皆に説明をしてくれた。
一昨日、2人でバレー部の応援に行ったこと。
帰り際、突然木兎さんの方から話しかけてきたこと。
その時にも可愛いとか言ってくれたけど、私からは好きだとかそういった言葉は言っていないこと。
つまり、何か勘違いが起きている。
「でもあんなにかっこいい人に付き合うかって聞かれたら、私ならOKしちゃうな〜」
「有名人だしね!憧れてる子、いっぱいいるよね〜」
「年上彼氏とかいいな〜」
皆納得してくれたけど、次の授業が始まるまでそんな話で盛り上がっていた。
私はずっと心臓がドキドキとうるさくて、友人たちの話にうまく入れないでいた。
それに今日もまた
″可愛い″って言われてしまった……
