木兎光太郎に溺愛される女の子【完結】
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episode.11「どうか…」
あと数時間で今年も終わる。
台所ではお母さんが年越しそばの準備をし
ダイニングテーブルではお父さんが何杯目かのお酒を手酌で注いでいて
私はリビングのソファーに妹と並んで座り、テレビを見ていた。
テレビには年末にお馴染みの歌番組が流れている。
推しのアーティストが出ると楽しみにしていた妹は画面に釘付けになっていて、そこまで興味のない私は少しの眠気と闘いながらボーッと観ていた。
その時
——ピロリンッ
テーブルに置いていた携帯に、メッセージ受信の通知音。
手を伸ばし、携帯を開いた瞬間
眠気は一瞬で消え去った。
『明日ひま?』
画面には、木兎さんから初めてのメール。
二学期最後に会えたクリスマスの夜
あのラーメン屋で連絡先を交換した。
こうして実際に連絡が来たのは初めてだ。
明日……ひま……?
明日は新年の始まる日で、例年通りなら家族で近くの神社へ行くのが恒例だ。
でも別に家族と約束をしているわけではない。
しかも好きな人からのこんなメール。
“暇です”と返す他ない。
——ピロリンッ
返信を打とうとしていたら、続けざまに2通目が届いた。
『初詣行くぞ!!』
「!!」
思わず叫びそうになる気持ちを堪え、すぐさま返事を送った。
『行きたいです。』
『よし!10時に梟神社な!!』
木兎さんと初詣。
これは…デート、だよね?
クリスマスのラーメンの日を2回目と数えるなら、今回が3回目のデートだ。
木兎さんと、初詣。
頭の中はそのことでいっぱいで
気付けば観ていた歌番組は紅組が勝利して終了し、新しい年を迎える間際に母が出来上がった蕎麦を出してきた。
「明日、あなたたち初詣は一緒に行けるの?」
家族でずるずると蕎麦をすする中、母が私と妹にそう聞いてきた。
「うん」と頷く妹の横で、私は少し気まずさを感じながらも、平静を装って伝える。
「あ、ごめん。友達と行くことになっちゃった」
「あら、そうなの」
「人が多いだろうから気をつけてな」
母も父も特に気にする様子もなくてホッとした。
例年通り蕎麦を残さず食べ切ったところで、テレビではカウントダウンが始まり、新しい年を迎えた。
ーーーーーーーーーー
天気は快晴。
雲ひとつない空に澄んだ空気が気持ちいい。
とは言っても季節は真冬。
冷たい空気のせいでかじかんだ指先へ息を吹きかける。手袋をしてこなかったことを後悔しながら木兎さんを待った。
父の言っていたとおり、神社には朝から多くの人が集まっている。
参拝に並ぶ列からは少し離れた場所で待っていると、遠くからやってくる一際大きな人影が目に入った。
目と目が合うと、焦ったようにそばまで駆け寄ってくる。
「早いな!!」
新年、木兎さんの第一声はそれだった。
「まだ15分前だぞ?絶対俺の方が早いと思ったのに!」
予想通りの反応に嬉しくなって頬が緩む。
初めてのデートの日、私は木兎さんを何時間も待たせてしまったことがずっと心残りだった。
だから——
「今度は木兎さんを待たせたくなかったので、早めに来ちゃいました」
「そうだったのか」
得意げに笑ってみせると、木兎さんも嬉しそうに歯を見せて笑ってくれた。
「そうだっ!明けましておめでとうございます」
思い出したかのように、木兎さんが頭を下げてきて、私も慌ててお辞儀を返す。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくな!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「混んでんな!並ぶかー!」
2人並んで、参拝の列の最後尾へ。
人混みに紛れているせいか、いつもより距離が近く感じる。
その分、木兎さんが大きく見える。
年が明けて、最初に会えたのが好きな人なんて、すごく嬉しい。しかも2人きり。
きっと今年は、素敵な一年になるだろう。
「さすがに元旦は練習お休みですか?」
「いや、今日は午後から」
「え!この後!?」
「おう。この下練習着」
言いながら木兎さんはニヤリと笑って、上着を開いて見せてくれた。
確かに中にいつものジャージを着ている。
「4日後には春高本番だ。休んでる暇なんかない」
真っ直ぐに前を見据える瞳が鋭く輝く。
その横顔に、私は目を奪われていた。
——カランカランッ
木兎さんが大きく鈴を鳴らし、お賽銭を投げ入れる。
私もその横でお賽銭を入れ、お辞儀を二回した。
目を閉じ、神様に願う。
今年も素敵な一年になりますように。
そして、梟谷バレー部が——
「春高優勝しますよーに!!」
私の願いを代弁するかのように、隣から大きな声が響き渡り、びっくりして体が跳ねる。
「それと、もうひとつ!苗字の彼氏になれますよーに!!」
「………」
最後にお辞儀をし、こっそり目を開けて横を見る。
木兎さんはまだぎゅっと目を瞑り、合唱する手が震えるほど指先まで力をこめていた。
周りからの視線を感じ、私は木兎さんの背中を押してそそくさとその場を離れた。
「木兎さん、ちょっと声大きかったです…」
「あれ!?声に出したら叶わないんだっけ!?」
「私もそう聞いたことありますけど…」
「ヤバい!!俺やっちゃった!!」
「でも迷信なので、きっと大丈夫です!」
「あーあ…間違えた〜……」
あからさまに落ち込んでいる。
これ、あれだ。木兎さんの”しょぼくれモード”ってやつだ。
「あ、見て!おみくじ!やりましょう!」
「あ?おう」
なかば無理やり木兎さんにおみくじを引かせる。
「やった!私、大吉でした!木兎さんは…」
「……末吉…地味だな…」
「あぁ……」
末吉のおみぐじを結び付け、神社を後にした。
人がまばらになるほどに神社から離れても、木兎さんはまだ落ち込んでいる。
「………あのっ」
「ん?」
立ち止まり、私はそっと彼の手を取って、その手のひらに大吉のおみくじを乗せる。
そのまま大きな手を両手でぎゅっと握った。
「私の大吉、木兎さんにあげます。だからもう大丈夫」
「えっ」
木兎さんは少し驚いたようで、その場に立ち止まる。
「神様への願い事も、絶対に叶います……ふたつとも」
この言葉の意味、鈍感な木兎さんにもきっと伝わるはず。
——苗字の彼氏になれますよーに!!
あれはとっても恥ずかしくて
でもそれ以上に嬉しかった。
だから私も、少し勇気を出したくなった。
「………」
「………」
無言が怖くなって顔を上げると、木兎さんが大きな瞳で私を見ていた。
「苗字」
もう”しょぼくれモード”ではなくなっていた。
真剣な顔と声。
私も目を逸らせない。
「俺、どっちも叶える。まずは春高。絶対、優勝するから。応援来て。俺のこと、ずっと見てて」
なんだか涙が出そうだ。
自信に溢れた表情に圧倒されて、ただ頷くことしかできない。
「これ、ありがとうな。お守りにする」
木兎さんは大吉のおみくじをポケットにしまうと、私の手をギュッと握った。
「駅まで送る」
そしてそのまま、私の手を引いて少し前を歩き出す。
「前に、気安く触らないって言ったけど、こうしてていいか?今日だけ」
私はやっぱり恥ずかしくて頷くことしかできない。
返事の代わりにきゅっとその大きな手を握り返すと、木兎さんが「小せぇな」と呟いて笑った。
大きく温かい手に包まれて、私の冷えた指先がじんわり温度を取り戻していくのがわかった。
心臓が破裂しそうなほど恥ずかしいのに、手から伝わる温もりは驚くほどに安心できる。
もう一度、神様に願った。
どうか、梟谷のみんなが優勝しますように。
どうか、木兎さんの願いが叶いますように。
