木兎光太郎に溺愛される女の子【完結】
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episode.09「絶対に」
11月中旬。
春高の東京代表決定戦で梟谷は準優勝。
全国大会への出場が決まった。
キャプテンである木兎さんはこれまで以上に注目を浴び、校内で見かけてもいつも誰かに囲まれていて
「あ、木兎さ——」
「おう!木兎!全国おめでとう」
「今年こそは全国制覇だな」
「当たり前だ!応援よろしく!!」
「木兎さーん!いつも応援してまーす!」
「ありがとな!!」
見かけてもなかなか声をかけられず、少し近寄りがたい存在になってしまった。
「木兎さん、ここ一週間来てないんじゃない?」
お弁当を食べていると、すずちゃんがそう言った。
「うん、そうだね」
「もしかして、名前のこと諦めちゃったとか?」
「え、どうかな。わからないけど…」
「それはそれで寂しいんでしょ」
「別に!そんなことないもん」
口ではそう言ったけど、すずちゃんの指摘はあながち間違いではないかもしれない。
先月の”デート”
私はとても楽しかった。
大好きな本屋に行けたこともそうだけど、長い時間を2人で過ごして、彼の良いところをたくさん知ることができて、これからもっともっと良い関係を築けていけると思ってた。
距離は縮んでいくばかりだと。
「………」
さっきのすずちゃんへの言葉は嘘だ。
正直、寂しい。
こんなの、前の日常に戻っただけなのに。
突然私の生活に入り込んできた木兎さんの存在が、こんなにも大きくなっていたなんて……
帰りのホームルーム後、少し迷ったけど
私の足は赤葦君のもとへ向かった。
「赤葦君、今日もこれから部活?」
「うん。春高までは毎日だね」
「休みなし!?大変だ…」
「好きでやってることだから」
赤葦君はいつもの大きな部活バッグを肩にかける。
「……木兎さんは元気?」
部活へ急ぐ彼を引き止めるのは気が引けたけど、最後にそれだけ、どうしても聞きたかった。
「すごく元気だよ。調子もいい」
ふわりと赤葦君が笑った。
「そっか……よかった。じゃあ、部活頑張ってね!」
「うん。また明日ね。苗字さん」
笑顔を作って赤葦君を見送った。
少し不自然な笑顔になってしまったかもしれない。
ーーーーーーーーーー
それからも、木兎さんに会えない日々は続いて
静かな学校生活を送りながらもどこか満たされない毎日を過ごし
すっかり秋めいてきた、11月の終わり。
「………来てしまった……」
昼休みに足が向いたのは、本館と新館の校舎を繋ぐ通路横。
木兎さんと一度だけ一緒にお昼を過ごした場所。
「ううっ…さむ……」
あの時は夏で、外で過ごす生徒たちの声も響いていたけど、今は木枯らしが吹き抜け、とても侘しい空間となっていた。
ここに来れば、もしかしたら会えるかな?と
淡い期待を持って来たけど、そんなに都合の良いことはなかった。
あのバレーボールが、風に吹かれ私の足元へ転がってきた。
なんだか寂しがっている私に寄り添ってくれてるみたいで、少し顔が綻ぶ。
木兎さん、今ごろ昼休みも返上して体育館で練習してるのかも。
今、彼が一番大事なのはバレーなんだ。
一日中バレーのことばかりを考えて
毎日毎日ボールばかり追いかけている。
大事な大会を前に、彼の中の私の存在なんて、とても小さくなってしまったのかも。
「………」
足元のボールを手に取り、汚れを払う。
——と、ザッと大きな足音が響いた。
「苗字!!」
「!」
木兎さんだった。
まさか、会えるなんて……
期待して来たはずなのに、いざ会えるとたちまち緊張が走る。
すごく久しぶりに感じる。
どんな顔をすれば良いのかもわからなかった。
「バレーしに来たのか?一緒にやる?」
木兎さんの視線の先は私の手元のボール。
私は慌ててそれを木兎さんに手渡した。
「あ、いえ…そういうわけじゃ……」
「じゃ、なんでここに?寒いだろ」
言葉に詰まる。
確かに、ひとりでこんな場所不自然だ。
「………ここに来たら、木兎さんいるかなって思って…」
正直にそう言ったら、木兎さんはポカンと口を開けた。
「あのっ、深い意味はなくて…最近あまり顔合わせてないなって……思っただけ、です…」
会いたかった、なんて素直にはなれず、言葉を濁す。なんだか言い訳のようで格好悪い。
来るべきではなかったかも…と少し後悔し始める。
「俺も、苗字元気かなーって思ってた」
いつものようにニッと歯を見せて大きく笑ってくれる。
久しぶりのこの笑顔に安心した。
やっぱり、来てよかった。
「なぁ、寂しかった?」
安堵したのも束の間、真っ直ぐな問いかけにドキッとした。
「俺は苗字と会えなくてすげー寂しかったんだけど、苗字は?」
「………寂しかった…です」
「……同じだな」
そう言って笑う嬉しそうな笑顔を、なんだか直視できない。
胸が高鳴る。心臓は破裂しそう。
「………」
この瞬間、確信した。自分の気持ち。
ううん、きっともう、とっくにわかってた。
木兎さんへの想い。
会えない間も、この人のことばかりを考えていた。
今日も会えなかった、って胸が痛くなった。
こうやって会えたら、嬉しくて舞い上がる。
恋なんて知らなかったけど、確信できる。
こんなのもう、絶対に恋だ。
私はとっくに、木兎さんに恋してた。
「寒いだろ。ギューする?」
私の気持ちなんてきっと気付いてないだろう木兎さんは、いつもの冗談で手を広げた。
私もいつものように、恥ずかしさから顔を逸らす。
「それはいいです…」
「そうか」
と、木兎さんは着ていたブレザーを突然脱ぎ、それを私の肩にふわりとかけてくれた。
「じゃ、こうだな」
ブレザーの重みを感じると同時に、慣れない香りが微かに香って、体が固まった。
木兎さんのにおい…
後ろから包まれてるみたい…
気持ちを自覚した今、こんなにもドキドキしてしまう。
「まだ寒いか?教室戻る?」
背中を屈め、私の様子を伺うように顔を寄せられる。
私は小さく首を横に振った。
「まだ、ここにいたい」
勇気を出して素直な気持ちを伝えた。
木兎さんは嬉しそうに笑って
前と同じコンクリートの上に腰を下ろした。
「じゃあ話でもするか」
私もあの時のように隣に座った。
コンクリートの冷たさがスカート越しに伝わる。
でもそんなこと気にならないくらい、全身が高揚してる。
楽しそうに話してくれる木兎さんの話に相槌を打ちながら、昼休みを過ごした。
2人でいる空間は、やっぱり心地よくて
この幸せな時間がずっと続けばいいと思ってしまう。
欲が出る。
この人のそばにいたい。
そばにいてほしい。
独り占め、したい。
びっくりするかな…
私が”木兎さんを好き”って言ったら。
いつものあの笑顔で、笑ってくれたらいいな。
