木兎光太郎に溺愛される女の子【連載中】
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episode.08「優しい人②」
「お!苗字ー!!!」
木兎さんも私に気付いて立ち上がると大きく手をあげる。
走って彼の元へ行くと安心したように笑った。
「よかったー!俺、日にち間違えて伝えちまったのかと思ってた」
「木兎さんっ、どうして……」
「ん?」
「どうしているんですか!?もう3時間も遅刻してるのに……私、行くって言ってないのに……」
「そうだっけ?でも来たじゃん」
「っ……」
「来るかもしれないって思ったら動けなかったよ」
少しも責めることなく、ただただ優しく笑ってくれる木兎さんに、胸が震える。
「ごめんなさい!!」
突然声を荒げて、深々と頭を下げる私を前に、木兎さんは「おぉ、どうした」と少し焦っている。
「待たせちゃって、ごめんなさい。妹が熱出したので、放っておけなくて家から出られなくて……」
「そうだったのか。苗字は優しいもんな!」
……優しいのはあなたです、木兎さん。
そう言いたかったけど、なんだか違う気がして
「待っててくれて、ありがとうございます」
そう言ったら、また嬉しそうに笑ってくれた。
「妹はもう大丈夫なのか?」
「はい!お母さん帰ってきたから」
「なら安心だな!じゃあ行くか!」
駅から目的地へ、隣を歩く。
2人きりで過ごすのは初めてではないにしろ
お互い制服でもジャージでもない私服姿で
学校でも通学路でもない隣町で
意識せずにはいられない、正真正銘の”デート”。
緊張で動きが固くなる私に対して、木兎さんは余裕があるのか、いつも通り楽しそうにしていた。
向かった先は、先月この駅前にオープンしたばかりの建物。
施設全体が大きな書店になっていて、フロアによって売っている本の種類が違うので、何よりもその品揃えがとてつもないと話題になっている。
買った本を読める読書スペースや、人気チェーンのカフェも併設されていた。
まさに、本好きにとっては一日中居たくなる、夢のような空間だった。
「うわぁ〜広いですね」
「おお。広いな」
正面の入口から入ると1階のホールは上まで吹き抜けていて開放感があり、2人してつい見上げてしまう。
周りには雑誌や文庫、漫画などの種類関係なく
話題となっている新刊が壁沿いにずらりと並んでいる。
前に私のバイト先に来た時もそうだったけど、本に囲まれている木兎さんはやはり少し違和感がある。
改めて彼は体育館が一番似合うと思った。
でも今日はジャージでもないし、大きなボストンバッグもないので、あの時よりは溶け込んでいるようにも見える。
「何階から行く?」
「えーっと……」
2人で案内板を覗き込む。
木兎さんは全く気にしていない様子だけど、私は自分の肩が木兎さんの腕に触れそうなことに気付いて、体が固まった。
辺りはカップルで来ている人たちも多い。
私たちも彼らと同じように見られているのだろうか、とまた意識してしまう。
これが”デート”。
「おっ、漫画もいっぱいありそうだな」
隣からの弾んだ声に我に帰り、案内板に集中した。
「じゃあ、まずはそこ行きましょうか」
「えっ、いいの?苗字が行きたいとこは?」
「私はここの…ミステリー小説のところ。あー、でも恋愛小説も気になるし、この趣味の本コーナーも……」
「じゃ、全部回るか」
思い切りのいい木兎さんに連れられ、エレベーターで最上階まで上がって、1階ずつ回りながら降りてくることになった。
本が好きな私にとってはこの上なく嬉しい提案だけど、そこまで本に興味のない木兎さんには辛い時間になってしまうのでは…と不安になる。
想像していたとおり、私は気になる本をたくさん見つけてしまい、どれを買って帰るか迷いに迷ってしまっていた。
手にとっては戻し、また別のを手にとってはまた戻す。
それを繰り返していると、木兎さんが楽しそうに隣で笑った。
「苗字は本当に本が好きなんだな」
「すみません。全部買えれば良いんですけど、そんなにお金に余裕ないし」
「謝ることねぇだろ。せっかく来たんだし、ゆっくり迷えばいいよ」
「これ、ずっと読んでみたかったやつで……でも下の階にもっと欲しいものがあるかもって思ったら買うべきか今は決められなくて……」
「じゃあ下の階も全部見てから、また戻ってくればいいだろ」
何気ない言葉に胸が高鳴る。
遅刻した時も、今も
木兎さんの懐の深さには、いつも救われている。
「ありがとうございます」
「おう」
大好きな本に囲まれているおかげか、気付けば緊張は抜け、本選びに夢中になっていた。
木兎さんはずっと私が行く先々へついて来てくれて、時には話を聞いてくれたりしながら、漫画とバレー雑誌を買っていた。
私は悩みに悩んだ中から3冊の本を選び、満たされた心で建物を出た。
「買えてよかったな」
「ごめんなさい、私、本選ぶの時間かかっちゃって…」
「気にすんな。楽しそうに悩んでる苗字を見れて、俺も楽しかったからな」
木兎さんはいつも、ずっと優しい。
恋とか、まだよくわからない。
でも、もしも私にもいつか恋ができるなら
その相手は……木兎さんだったら、きっと楽しいだろうなと思う。
木兎さんと……恋……
ダメだ。考えると意識しちゃって恥ずかしくて止まらなくなる。
「なーんか腹減ったな」
そう言いながら木兎さんは自分のお腹に手をやった。
「えっ、もしかして、木兎さんお昼……」
「そうだ!食ってなかった!」
私のせいだ。
私が待たせてしまったせいで、お昼を食べ損ねたんだ。
「すぐに何か食べましょう」
「やった!」
私たちはそこから一番近くにあったファストフード店に入った。
私はアイスティーを頼んで、木兎さんはハンバーガー3個とポテトとコーラの一番大きなサイズ。
「うま!」
大きな口でハンバーガーを頬張る木兎さんに深く頭を下げる。
「ごめんなさい」
「何が?」
「私のせいでお昼抜きになっちゃったんですよね」
申し訳なくそう言うと、木兎さんはもぐもぐと口を動かしながら唇を尖らせた。
「もう謝るのやめねー?」
「でも……」
「俺は今日、嬉しいことしかなかったよ?苗字と2人で遊べて、苗字の楽しそうな顔見れて。待ってたのはそうしたかったからだし、昼食べ忘れたのは俺のうっかり。だからお前が謝ることなんか、ひとつもないだろ」
平然とそう言ってのけると「食う?」とポテトを一本差し出してくれた。
「なんで……そんなに優しいんですか?」
私はそれを受け取って一口かじる。
カリッとした歯応えとほどよい塩味が美味しい。
「誰にでもこうなわけじゃないよ」
木兎さんの大きな瞳が真っ直ぐ私を捉える。
「ただ、苗字に俺を好きになってほしいから、必死なだけ」
そう言うと、歯を見せてニッと微笑んだ。
「………」
その表情から目が離せない。
どうしよう、なんか……
すごく、かっこいい。
顔が熱くなって、全身の体温が上がったように感じる。
「………!」
何も言えないでいる私の方へ、木兎さんが身を乗り出してきて、より近くで目と目が合う。
「なんか今!手応え感じた!」
「ええ!?きっ、気のせいです!」
私は慌てて視線を逸らし、残りのポテトを口に放り込んだ。
その日、デートを終え家に帰ってきても
買ったばかりの本を開いても
頭の中は木兎さんでいっぱいだった。
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