木兎光太郎に溺愛される女の子【連載中】
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そのとき、私は——
「木兎〜」
「あ?」
「前から四列目の右端の子が、木兎のこと、かっこいい!って言ってたよ〜」
「うお!マジかっ!」
「マジマジ」
「ヘイヘイヘーイ!!勝てる気がしてきたぁ!なぁ、赤葦!!」
「そうですね」
コートの隅でそんなやりとりがされていたことなど知る由もなく
初めて見るバレーボールの試合が始まるのを静かに待っていた。
前から四列目、右端の席に座って。
episode.01「嵐」
友達のすずちゃんに誘われて、バレー部の試合を見に行くことになった。
これまでバレーボールとは縁のない人生だったし、正直そこまで興味はなかった。
けど、うちの男子バレー部は強豪として有名なので、梟谷の生徒として一度くらい応援に行くべきだとも思っていたから。
「赤葦が出てるらしいよ!」
「スタメンなの?」
「スタメンどころか、あいつ副主将だって」
「えっ、すごいんだね。赤葦君」
すずちゃんの言う通り、同じクラスの赤葦君が先輩たちに紛れてコートにいた。
今日はインターハイという全国大会の東京代表を決める二次予選の日で、バレー初心者の私でも会場の熱気をひしひしと感じた。
実際、試合が始まると、目の前で繰り広げられる白熱したプレーに夢中になった。
そこにいる全員が、ひとつのボールを落とさないことだけに必死になって闘っている。
正直、梟谷がバレーボールの強豪校と知ったのは入学してからで「うちのバレー部ってすごいんだな…」とは思っていたけど、実際に試合を見るまでは侮っていた。
自分と同じ高校生と信じられないほどに、レベルが高い。バレーのことなど少しもわからないけど、彼らの凄さは伝わってきた。
梟谷だけじゃない。相手チームも試合に取り組む真剣な眼差しがかっこいい。
この人たちは日々どれだけ努力しているのだろう、と選手全員に尊敬の気持ちまで湧いた。
「バレーの試合ってすごいね…」
梟谷はあっという間に1セットを取り、私は興奮しながらすずちゃんに話しかけた。
ただ”すごい”としか表現できない自分の語彙力が悔やまれる。
「本当!赤葦も、いつもよりかっこよく見える!」
すずちゃんもバレーの試合は初めてだったようで、私と同じように興奮している。
「それにしてもさ、あの人…」
と、すずちゃんがひとりの選手を指差す。
「さっきからチラチラこっち見てない?」
その先には、キャプテンでエースの人。
確か名前は…木兎さん。
学校でも有名人で、校内で見かけたこともある人だ。プレーも力強く派手で、声も大きくて時々何か叫んだりと、とにかく一番目立っていた。
今はベンチに座り給水しているけど、確かに視線をこちらに向けている。
「すずちゃん、知り合いなの?」
「まさかぁ!」
その時は大して気にしていなかったけど
2セット目が始まったあたりから、視線が気になるようになった。
木兎さんはエースだし、とにかくボールが集まるので何度もスパイクを決めて得点していた。
その度に、チラリとこちらを見る。
応援してもらえることが嬉しいのだろうか?
それならばきちんと応えたい、と思い、私は木兎さんが得点する度に少し大袈裟に手を叩いて喜んだ。
無事にストレートで梟谷の勝ちが決まった瞬間、彼がこちらに向かってバンザイをするように両手を大きくあげた。
瞬間、応援席がワッと盛り上がる。
もしかしたら木兎さんがこちら側を気にかけるのは、家族や友人がこの辺りの席にいるのかもしれない。
それにしても、盛り上げ上手というか、これが”スター性”というものなのだろう。木兎さんの行動でこんなにも歓声があがる。応援席の拍手がいつまでも鳴り止まない。
私も立ち上がり、笑顔で拍手を送った。
「すごいなぁ……」
彼のおかげで、初めてのバレーの試合を心から楽しむことができたように思う。
結局その後、梟谷以外の試合も全て観戦し
大会が終わる夕方まで私たちは体育館にいた。
「あ、赤葦いる。声かけてくー?」
帰り際、体育館のロビーの隅でバレー部の皆が帰り支度をしているところを見かけた。
「でも、ちょっと忙しそうだね」
「確かに。じゃ、帰ろっか」
「うん」
彼らの横を通り過ぎ、出口へ向かうと
突然後ろから声をかけられる。
「よう!」
大きな声に体が跳ねる。
振り返ると、そこにはあの木兎さんが立っていた。
「うわぁ…近くで見ると大きい……」
隣ですずちゃんも驚きながらそんなことを呟いていた。
確かに大きい…
赤葦君もクラスでは大きい方だと思っていたけど、この人はなんというかがっしりと筋肉質で体格が良い。
大きな瞳でじっとこちらを見てくる視線はどこか鋭くて、目を逸らせなかった。
「コートから見て思ってたんだけどさ」
一応周りを確認するけど、彼は他の誰でも、すずちゃんでもなく、私に向かって話しかけているようなので、小さく返事をした。
「………あ、はい」
「君、すっごい可愛いな!!」
「!!」
満面の笑みで言われた一言に体が固まった。
隣ですずちゃんも同じように固まっている。
「なぁ、どうだった?試合」
返事をする間も無く、試合の感想を問われる。
なんだか彼を取り巻く空気全てがエネルギッシュで、その勢いに飲まれてしまう。
「えっと……すごく迫力があって、面白かったです」
「俺は?」
「……え?」
「俺は?どうだった?」
「あ、えーっと……かっこよかった、です…」
なんとなく、そう答えて欲しいのかな?と思ったのでそう言うと、木兎さんは満足気に笑った。
「ははっ!応援来てくれてありがとうな!また来いよ!」
そう言うと向きを変え、チームメイトのもとへ帰っていった。
「……びっくりしたね…」
「うん……」
すずちゃんと呆気に取られながら体育館を出た。
なんだかどっと疲れた。
嵐に巻き込まれたような時間だったな。
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