黒尾鉄朗とひとりぼっちの女の子【連載中】
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episode.04「友達」
無理!
無理無理無理無理!!
翌朝には熱は下がって、2日間は完全にサボりだったけど、勇気を出して今日は学校に来た。
途端にこれ。朝から黒尾君に声をかけられ、あの夜久君にまで質問攻めにあった。
何、あのキラキラした目。
これは今、夢でなく現実なの?
絶対に無理!!あの教室!心臓もたない!!
逃げた先は、誰もいない、屋上へと続く階段の踊り場。窓から空を見上げ、落ち着きを取り戻そうと深呼吸した。
2人とも眩しかったな。ものすごく。
ずっと影の中を生きてきたような私じゃ、直視できないくらい。
やっぱり彼らは、体育館の端からこっそり遠目で見ているくらいがちょうどいい。
これから毎日同じ教室に居るなんて
あの眩しさに慣れる日は来るのだろうか……
黒尾君が朝から私に話しかけた瞬間、クラスの皆の視線が痛かった。
なぜ人気者の黒尾君が私なんかに声をかけるのか、皆が疑問に思ったことだろう。
″立場の違い″を強く感じた。
「お、見っけ」
不意に後ろから声をかけられ、身体が強張る。振り返ると黒尾君がこちらを見上げながら階段を上がってくる。
落ち着きを取り戻したはずの心臓は再び忙しく動きだす。
何か言った方がいいのだろうけど、緊張して何も言葉が……
「そんなに嫌ならもう声かけねぇから、教室戻れ」
黒尾君は首の後ろをポリポリとかきながら視線を逸らした。それはどこか困惑しているようにも見えるし、拗ねているようにも見える。そして少し寂しそうでもあって。
声をかけないでほしいという思いを察してくれて安心したけど、『嫌』という部分だけは否定したくなった。
「い、嫌なわけじゃない……です」
私は正直に本音を話した。
「私、友達いなくて……同級生とどんなことを話したらいいのか、とか、わからないから緊張しちゃって……」
それに、相手が相手だからなおさらだ。
それは黙っておくけど。
恐る恐る黒尾君を見上げると、嬉しそうにニッと歯を見せて笑った。
「おう、そうか。じゃあ、とりあえず俺と友達になればいいだろ」
「………えっ——」
——キーンコーン カーンコーン
「ちゃんと教室戻ってこいよ」
始業を告げる鐘が鳴り、黒尾君はヒラヒラと手を振って行ってしまった。
もう一度空を見上げて深呼吸をしたけれど、ドキドキとうるさい心臓はしばらく鳴り止まなかった。
ーーーーーーーーー
次の日も、その次の日も、土日を挟んで新しい一週間が始まっても、毎日黒尾君は私のところへ話をしに来た。
話の内容は、昨日見たテレビのことだとか、さっきの授業は難しかったとか、今日は雨だからテンションが上がらないだとか、当たり障りのないもの。
私は、目の前の席に黒尾君が座ってくるからそれだけで緊張して、話の内容もちゃんと頭に入ってこないし、まともな返しもできていなかったと思う。
私と話しに来て何が楽しいのかわからなかった。
でも、毎日懲りずに来てくれることは、素直に嬉しかった。
「バレー好きなのか?」
「すっごく好きです」
その質問にだけは自信を持ってそう答えると、黒尾君は嬉しそうに笑って
その笑顔に私の心臓はまた跳ね上がった。
「苗字さん」
話したこともない女子から声をかけられる。今年初めて同じクラスになった子だ。
名前は確か……佐々木さん、だったかな。
表情からして、仲良くお喋りしよう!ってノリではないことは明らか。
「……はい」
「最近さ、黒尾とよく話してるみたいだけど」
あぁ、やっぱり。
黒尾君関係の話ですよね。
「黒尾は誰にでもあんな感じだから、勘違いしない方がいいよ」
「だ、大丈夫です。身の程はわきまえてますので」
「なら、いいけど…あんま調子に乗らないでよね」
「……気をつけます」
私と黒尾君の組み合わせが不自然であることはちゃんとわかってるし、調子に乗ってるつもりもない。
彼は男女問わず人気者だし、妬んでいる女子が出てくることも予想できた。
それでもやっぱり、気分のいいものではないな……
黒尾君が”友達になろう”と言ってくれたこと、そして私に声をかけてくれることは素直に嬉しいけど、周りの女子からの視線は痛い。
この次の日、私は朝から胃が痛くて学校を休んだ。