黒尾鉄朗とひとりぼっちの女の子【完結】
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episode.03「噂」
「なー結局俺、一瞬しか見れなかったんだけど。座敷わらし」
部活へ向かう途中、夜久は拗ねたように頬を膨らませた。
結局”座敷わらし”こと苗字名前は、ホームルームの途中で保健室へ消えたまま戻ってくることはなかった。
「まぁ、同じクラスなんだし、これから毎日会えるだろ」
「だなー」
「おっす」
途中の廊下でクラスの違う海と合流し、体育館へ向かう。
「なぁなぁ!うちのクラスにいたんだよ!例の座敷わらし!」
「おぉ。じゃあ今年こそは全国制覇間違いなしだな」
2人の呑気な会話を聞き流しながら、朝のクラスメイトの話を思い出していた——
「噂?」
「パパ活してるだとか、年偽って夜の店で働いてるとか」
「あ?なんだそれ。デマだろ」
「わかんねぇけど、俺去年も同じクラスだったけど、学校来ないこともよくあったよ。出席日数ギリギリなんじゃね?」
「へぇ〜。まぁ俺は別にそういうのどうでもいいわ。お前も、そういうことあんま言いふらさねぇ方がいいぞ」
「お、おう」
無性に腹が立った。
親しい友人というわけでもない。
声をかけたのも今日が初めて。
名前も今さっき知ったばかり。
だけど、あいつは俺たちとずっと一緒に戦ってきた。チームメイトではないが、言ってしまえば”戦友”。
いつの間にか、そんなふうに思っていたから。
そいつを悪く言われたようで、胸糞悪かった。
次の日も
その次の日も
苗字は学校に来なかった。
ーーーーーーーーーーー
3年になって4日目の朝。
朝練を終え、夜久と教室へ向かっている時だった。
「なぁなぁ、今日は来てると思うか?」
「あ?」
「座敷わらし」
「夜久、お前いい加減その呼び方やめろ」
「えーっと名前なんだっけ……そう!苗字だ!苗字名前!」
「………あ」
「あ?」
夜久が大声で名前を呼んだ廊下の向こうで、驚いた顔でこちらを見ている苗字と目が合った。
「お!噂をすれば!今日は来たんだなー!」
夜久が嬉しそうに手をあげると苗字は思いっきり頭を下げた。
「あ、朝練お疲れ様ですっ。し、失礼しますっ」
そして先に廊下を早歩きで進み、教室に入ってしまった。
「……なぁ、あいつってもしかして変なヤツ?」
「……かもな」
つい、足早になって追いかける。
夜久が後ろから「あ、待てよ!」と声をあげていたが、かまうことなく教室に入った。
迷わず向かったのは、自席で荷物を出している苗字のところ。
「何で休んでたんだ?」
「っ…黒尾君っ!」
顔を上げた苗字は、俺を見るなりひどく驚いた顔をした。
「具合でも悪かったのか?」
「いえ、私のことはお気になさらず……」
「お前、いつも俺らの試合見に来てたよな?」
「えっ……」
「なぁなぁ、苗字ってバレー好きなんだよな!?マネとかやらないの?つーか何で昨日まで休んでたんだ?風邪か?もういいの?」
いつの間にか俺の隣に来ていた夜久が話に割り込んでくると、質問攻めにあった苗字は再び固まった。
「やっ……!!」
「や?オイ何だよ。どうした?」
「……ご、ごめんなさい、失礼しますっ」
と、突然立ち上がって、教室を出ていった。
「……やっくん、グイグイ行きすぎよ。質問しすぎだし」
「そう?お前も何か色々聞いてたじゃん」
また、逃げられた。
