黒尾鉄朗とひとりぼっちの女の子【完結】
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episode.16「孤独」
長い夏休みが終わり、いつもの日常が戻り
あっという間に2ヶ月が過ぎようとしている。
中庭の暗がりは肌寒さを感じる日も増え、最近はブランケットを持参してきている。
そろそろ昼休みを過ごす場所を変えなくては。
「さすがに眠いな」
お弁当を食べている私の横で、黒尾が大きくあくびをしながら伸びをするように両手足を伸ばした。
もうすぐ春高の一次予選。
バレー部はとても大変そうだ。
朝早くから毎日練習があり、放課後は部活後に自主練もしているらしい。土日は合宿や練習試合に追われ、休みなどないようだった。
夜は少しでも休んで欲しかったから、最近は電話することを控えている。
正直、寂しい。
でも私がそれを言ってしまったら、優しい彼は無理をしてしまいそうだから、絶対に言わない。
黒尾と電話で話す時間がなくなったことで、私はまた、なかなか寝付けない夜が続いていた。
自分がどれだけ支えられてきたかを痛感している。
でも、私の寂しさなんて、今の黒尾の大変さに比べたらちっぽけなもの。
これ以上、負担をかけてはいけない。
「………」
お弁当を食べ終え、ふと隣を見ると、背もたれに体を預け、首をもたげて寝息を立てている黒尾。
主将という立場上、部活で誰よりも大変な思いをしていると思う。気付いたら寝落ちしてしまうほどに。
それなのに、こうして私のことも気にかけて会いに来てくれる。
感謝と同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめんね…ありがとう……」
寝顔に向かって小さく呟き
持っていたブランケットを彼の膝にかけた。
ーーーーーーーーーー
目を閉じているだけで、なかなか寝られない夜。
やっと意識が遠のく頃には、空は薄らと明るんできていて、眠ったばかりだというのにすぐに携帯のアラームが鳴る。
眠気まなこでアラームを消し、また目を閉じる。
ふと気がついて時間を確認すると、授業がとっくに始まっている時間。
焦って起き上がり、急いで支度をする…ということはなく、学校は休んでバイトだけ行こう、と潔く諦める。
そんな日が増えてきてしまい
「ちゃんと卒業したかったら真面目に来い。受験生ということを忘れるんじゃない」
と、ついに担任にガツンと怒られてしまった。
そんな落ち込んだ私の心を癒してくれたのは
やはりバレーボールだった。
春高の一次予選。
バレー部の皆にとってはキツかった練習の成果を発揮する場所。
私にとっては、心から楽しみにしていた公式戦。
いつものように客席の1番隅から、静かに音駒を応援した。
私に気付いた黒尾が手を上げてくれて、小さく手を振り返し、それに応える。
久しぶりに客席から見た黒尾は、誰がどう見ても強豪校を引っ張るキャプテンでスター選手。
そんな姿を見て、嬉しくなるのと同時に少し寂しさも感じる。
私とは別世界の人。
手の届かない人。
なんとなく黒尾を遠くに感じてしまって、胸の奥がチクンと傷んだ。
音駒は順当に勝ち上がり、東京の代表決定戦へと駒を進めた。
『今日さっさと帰っただろ』
その日の夜、久しぶりに黒尾から電話が着た。
『前に言ったろ?お疲れ様〜とか、頑張ったね〜とか、言いなさいよって』
「あんな大きな会場で声かけに行くなんてできません」
『そういうもんか』
そう思ったのも本当だけど
なんだか黒尾を遠くに感じてしまって、気軽に会いに行けなかった。それが本音。
「次は、いよいよ代表決定戦だね」
『おう』
「絶対、応援行くから」
『また隅っこでこっそり?』
「そうだよ」
『たまには応援団に混ざって、大声出して騒いでもいいのよ?』
「意地悪言わないでください」
『だよな。そういうの苦手だもんな』
うははっと黒尾が楽しそうに笑ったので、私も笑った。
”強豪校のスター選手”という存在から、一気に”友達”に戻ったような気がした。
『最近、また夜寝られないのか?』
「………え?」
笑い声は消え、急に真面目な声のトーンになり、私は言葉を失う。
『学校、来ないこと増えてるからさ』
心配してくれてたんだね。
本当に、どこまでも優しい人。
「違うよ。ただのサボり。夜はぐっすり寝てる」
『ならいいけども。いや良くねぇか。サボっちゃダメでしょ』
「先生に怒られたから、これからはもうちょっと頑張る」
『そうして。俺も会いたいから』
「………」
『そういうこと言うと、また電話切っちまうか?』
また、電話の向こうで笑ってる。
「………今日は切りたくない」
『……っ…』
「もう少し、話していたい」
『………俺も』
その日は日付が変わるまで黒尾と話をした。
試合で疲れているはずなのに、私が眠くなるまで付き合ってくれた。
その優しさが、怖くなった。
私には黒尾しかいないし、何もないけど
黒尾にはたくさんの友達やチームメイトがいて、バレーボールがある。
彼に依存してしまう自分が、少し怖い。
優しくされればされるほど、怖くなる。
黒尾との時間はとても楽しくて、幸せで
それを知ってしまったから、ひとりでいることが以前より辛く感じるようになってしまった。
今までひとりだったときには知らなかった
”孤独”を感じる。
黒尾を求めれば求めるほど、強く感じてしまう。
