黒尾鉄朗とひとりぼっちの女の子【完結】
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episode.15「花火②」
帰り道。
「可愛いよな。苗字さん」
「っ………」
隣を歩く夜久が俺にだけ聞こえるような小声でニッと笑いかけてきて、焦った俺は言葉に詰まった。
俺たちの少し前を歩く当の本人は、例の如く研磨とゲームの話で盛り上がっている。
「黒尾が惚れるのもわかるわ〜」
「……俺ってそんなわかりやすい?」
「今の反応で確信した」
「………」
「安心して?可愛いとは思うけど、俺のタイプではないからさ」
……それはそれで、なんかムカつくな。
「苗字さんがショートになったら、わからないけどね」
「それは全力で阻止するわ」
「ははっ。でもさ、黒尾は俺に感謝すると思うよ?」
言いながら夜久が携帯を操作すると、ポケットの中の俺の携帯がブブッと震える。
確認すると、夜久からのメールに写真が添付されていた。
開くと現れたのは、花火を手に並んでいる俺と苗字のツーショット写真。
「隠し撮り」
夜久はいつもの人懐こい顔で笑った。
「盗撮は犯罪です」
「でもよく撮れてるだろ」
改めて、写真をよく見た。
そこに写る苗字は楽しそうに俺を見上げ、笑顔を向けている。
青白い花火の灯りに照らされる悪人顔の俺の横で、大袈裟でなく天使のようだ。
確かにこの自然な笑顔は、隠し撮りでしか撮れないだろう。
「ありがとうございます」
俺は素直に夜久に頭を下げた。
「明日部活の後アイス奢りなー」
「喜んで」
保存ボタンを押して携帯をしまった。
「そっちの携帯からは消しておけよ」
他の野郎の手元に苗字の写真があることは気に入らない。
「ちゃんとアイスもらってからな」
「可愛い顔して抜かりないよね、やっくん」
方向の違う海と別れた後、夜久と研磨と一緒に苗字を家まで送っていった。
「今日はありがとう!楽しかった」
「また明日、学校でな」
「明日から学校か…始業式とか苦手……」
「ちゃんと来なさいよ」
「わかってるよ。じゃあ、おやすみなさい」
「おう」
「皆も、またね!」
「おやすみ〜!」
そんなやりとりをして、アパートの階段を上がっていく苗字の後ろ姿を見送る。
と、バシッと夜久にケツを叩かれた。
「見過ぎ」
だって、浴衣姿なんて次いつ拝めるかわからないでしょーよ。
ーーーーーーーーー
風呂から出ると、苗字から『明日の持ち物、教えてください』とメールが入っていたので、返信する代わりに電話をかけた。
「始業式だけだから、特に何もいらないんじゃん?」
『そうだよね。わざわざ電話してもらって、ごめん』
「いや、気にすんな」
『今日、誘ってくれてありがとう。夏休みのいい思い出ができた』
「おう。俺も」
『すっごく楽しかったな』
「……さっき言いそびれたんだけど」
『ん?』
「浴衣、すげぇ可愛かった」
『………』
「浴衣だけじゃなく、浴衣着た苗字が、って意味な」
『………』
「おい、聞いてるか?」
『もう切る』
「あ?」
『だって黒尾、またドキドキさせてくるんだもん』
「えっ」
『おやすみ!』
——プツッ ツー…… ツー……
「ちょっと……」
……マジで切りやがった。
”ドキドキさせてくるんだもん”だって。
そういうとこも、ホント、ツボなんですけど。
