黒尾鉄朗とひとりぼっちの女の子【連載中】
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episode.11「訪問①」
土曜の夕方の出来事。
コンビニでのバイト中。伝票の整理をしていると、店の扉が開き、お客さんが入ってきた。
それは、真っ赤なジャージの4人組。
「部活帰りかな……」
そう呟きながら、無意識に足はバックヤードへ向かう。
——次は逃げるなよ
いつかの黒尾の言葉が頭を過ぎって、私は足を止めた。
「い、いらっしゃいませ……」
小声でそう言うと、気付いた黒尾がニッと笑顔を向けてきた。
彼らはジュースやらお菓子やらをカゴいっぱいに入れてレジへとやってきた。他の店員仲間が忙しそうだったので、仕方なくレジに入る。
「今日は逃げなかったのな」
台の上へカゴを置きながら、黒尾がニヤリと笑う。
「約束したので…はい」
私はひとつひとつバーコードをスキャンしながら答えた。
「何?緊張してんの?」
「だって!黒尾だけならともかく、いきなりこんなに来るから……」
黒尾の後ろから、私に気付いた夜久君が「おーす」と手を上げてくれた。まぁ彼にはすっかり慣れたし、大丈夫。
ただその横には、この間初めて話した孤爪君。そして今日は隣のクラスの海君もいる。
バレー部のオールスターが目の前に。
緊張しないはずがない。
「今日、バイト何時まで?」
「6時」
聞かれた質問にそう答えると、黒尾は壁の時計を確認した。
「あと15分か。終わるの待ってるわ」
「えぇ!?」
突然の申し出に声を張り上げる。
と、夜久君が黒尾の肩に手をかけながら話に参加してきた。
「そうそう。これから黒尾んちなんだ。苗字さんも来なよ」
だからこんなにお菓子やらカップ麺やら買い込んで…
「……楽しそう…」
正直な気持ちが出てしまうと、2人とも嬉しそうに笑った。
「よし。決まり」
「お菓子に釣られたな」
「その辺で時間潰してよーぜ」
すごい。
バレー部の皆と黒尾の家でお菓子パーティー。
そんな大イベントに誘ってくれるなんて。
私はそわそわと落ち着かない気持ちのまま、残り15分の勤務を終えた。
退勤後、外へ出ると彼らは駐車場の隅で待っていてくれた。
「ごめんなさい。お待たせしましたっ」
深く頭を下げると「おう」となんとも明るい返事が返ってきて安心する。
海君は1番端で私に向かって両手を合わせていた。
「それやめなさい」
黒尾が苦笑しながらそう言って、海君の手を下げさせる。私はその横で改めて彼に向かって頭を下げた。
「苗字名前です」
「海信行です」
自己紹介するとにっこりと笑ってくれる。
仏様のような癒しの笑顔に、こちらの方が手を合わせたくなる。
あぁ…本物の海君だ……
この間、初めて孤爪君を目の当たりにした時のように、胸が高鳴った。
「あの!海君の、いつも冷静で落ち着きのあるプレー、安心して見ていられます!視野が広くて安定していて、音駒の守りになくてはならない存在です!」
「それはありがとう」
「副主将として黒尾のサポート、それに皆のお母さん役、いつもありがとうございます」
「いえいえ」
「でた、謎の感謝」
「じゃ行くべー」
歩き出す皆に着いていく。
彼らと一緒に歩くのはとても緊張するし、なんだか恐れ多くて、なるべく存在を消しながら黒尾の横を静かに歩いた。
誘ってくれたことが嬉しくて、ついお邪魔してしまったけど、場違いだったんじゃないだろうか…
しかも、どさくさに紛れて好きな人の家に行けるなんて…
それもまた恐れ多いことのように思えてくる。
「………」
「……おい、その緊張どうにかしろ」
「ごめんなさい…無理です……」
終始無言の私に黒尾は少し呆れていた。
ーーーーーーーーーー
「じーちゃん、ばーちゃん。ただいま」
出迎えてくれたおじいちゃんとおばあちゃんに向かって黒尾がそう言ったことに胸がキュンとする。
そういえば前に、お母さんはおらず、お父さんと祖父祖母と4人暮らしだと話してくれたことを思い出した。
おじいちゃんおばあちゃん思いな一面を見て
彼が人より優しい理由がなんとなくわかった気がする。
「あらあら、大勢でいらっしゃい」
「ちゃーす」
「こんばんは」
我が家のように入っていく3人の後ろをついて行く。
「お邪魔します」
「まぁ!女の子!」
おばあちゃんが目を大きくぱちくりさせて
その様子が可愛くて、つい笑顔になった。
「あの…苗字名前です。よろしくお願いします」
「はいはい。鉄朗のばーちゃんです。ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
穏やかに笑うおばあちゃんの目元が、どことなく黒尾に似ている気がした。