黒尾鉄朗とひとりぼっちの女の子【連載中】
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episode.01「座敷わらし」
高校に入学したばかりのころ。
男子バレー部では、近隣の学校を招いた練習試合が行われた。
俺たち1年はコートの袖から応援していたが、どうしても気になっちまうものが視界に入ってきて、そばにいる夜久と海に声をかけた。
「なぁ、この体育館てよ………出るのか?」
「あ?何の話だよ」
「あれ〜……まさか、見えてんの俺だけ?」
「いや大丈夫。俺にも見えてるよ」
「お前らさっきから何の話してんだ?」
不思議がる夜久に目配せをすると、その方向を確認した夜久は海の後ろに隠れた。
「うお!!幽霊!?あれだ!妖怪の!えーっと…座敷わらし!!」
「失礼だよ夜久。人間の女の子だよ」
「なんだよ、あれ人間か。確かによく見りゃうちの制服着てんな」
「黒尾のアホ!お前が”出る”とか言うからビビったじゃねぇか!!」
その女は体育館のギャラリーの端で、たったひとりで試合を観ていた。
人だかりからは離れた暗がりで、応援するわけでもなく、ただひっそりと佇み無表情でこちらを見ている姿は、確かに”座敷わらし”だった。
それからも、ただの練習試合からインターハイや春高の予選まで、学校で授業があるはずの時間でさえ、全ての試合にいつもひとりで現れた。
試合が始まる頃には応援席に着いていて、試合が終わればいつの間にか姿を消している。
先輩たちに聞いてみたが、去年まではいなかったらしい。
初めこそ気味が悪くて、存在自体を無視していたが、あまりにも毎回現れるので、不思議なことに少しずつ愛着が湧いてくる。
海のヤツなんて、試合前にそいつに向かってこっそり両手を合わせたりしていた。
「コラコラ拝むな」
「ほら、座敷わらしは”幸運が訪れる”って言うでしょ。だから、今日も勝てますように、ってね」
「俺もお願いしとこ」
「やっくんまで。やめなさいよ」
ある試合で俺が相手のスパイクをドシャット決めて勝利を勝ち取った瞬間、ちらりと座敷わらしを見ると、すげぇ目が輝いているのがわかった。
あいつが喜んでる。
ちゃんと俺たちを応援してくれている。
それがわかって、少し嬉しくなった。
2年最後の春高予選で負けた。
応援席に挨拶をして、そいつの顔を見ると、すげぇ悔しそうに泣きながら小さく拍手をしていた。
「ごめんな……」
小声でそう呟いた。
そして、3年になった今日。
教室に入った途端、真っ先に目に入ったのは
窓際一番後ろの席に座っている女。
まさか、と思った。
いや、でもありえなくはない。
新しいクラスメイトへの挨拶もそこそこに、掻き立てられたようにズカズカとそいつに近付き、目の前からまじまじと見る。
やっぱりそうだ。絶対そうだ。
「お前!ざしっ……あ、いや……」
つい呼び慣れた愛称で呼んでしまいそうになり、言葉に詰まる。
「その、なんつーか……俺は黒尾だ。よろしくな」
誤魔化したつもりだったが、ただの変な自己紹介になった。
「……はい」
座敷わらしはぶっきらぼうにそう言い残して、そそくさと教室を出ていってしまった。
「……喋った……」
それにしても驚いた。
試合の時に遠目でしか見たことがなかったから
本当に存在していたことに。
しかも同級生だったことに。
そしてクラスメイトになったことに。
「黒尾、苗字と知り合い?」
「まぁ知り合いっつーか……え?あいつ、苗字っつーの?」
「苗字名前だよ。関わらない方がいいぞ」
「あ?なんでだよ」
「なんか色々噂あんだよ」
「噂?」
苗字名前
俺はこの日
座敷わらしの名前を知った。
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