岩泉一にフラれた女の子【連載中】
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episode.09「ライバル」
——私の好きな人、及川君じゃない
及川じゃなけりゃ誰だ?
クラスの誰かか?
それとも図書委員のヤツか?
自分には関係のないことなのに、妙に気になる。
部活中にも関わらず、岩泉の頭の中がバレー以外のことでいっぱいになるのは初めてのことだった。
その時——
——ボスッ!!
金田一の打ったボールが岩泉の顔面に直撃し、図太い音が体育館に響く。
「いって……」
「い!岩泉さん!!すみませんっ!!ごめんなさいっ!!」
「いや」
顔面を抑える岩泉のそばへ駆け寄り、金田一は慌てふためいて深く何度も頭を下げる。
「すっげーいい音したな!」
「金田一、気にすんなー」
「そうそう!ボーッとしてた岩ちゃんが悪い!」
花巻、松川、及川の3人は痛がる岩泉を見てニヤニヤと笑った。
「岩泉!集中できねぇなら外でも走ってこい!」
「っ……オッス!!」
岩泉は外靴に履き替え体育館を出る。
いつも真面目な岩泉がコーチに怒鳴られることは珍しく、同級生3人はニヤける顔が止まらないままその背中を見送った。
ーーーーーーーーーー
広い校庭ではテニス部や陸上部、サッカー部に野球部。
皆、放課後の部活動に勤しんでいる。
岩泉は、二周もすればいいか、とランニングの足を進めた。
前方に見えてきたサッカー練習場の傍らには、部員目当てに見学している女子生徒の姿がちらほらと見受けられる。
バレー部の体育館にも及川目当てによく女子生徒がやって来るが、キャーキャーと声援を送る女子たちの姿はその光景と同じだ。
彼女らの後ろを通り抜けていると、その中に名前とその友人を見かけた。
「すごいすごい!ね!カッコいいでしょ!」
「うん、そうだね」
そんな会話を聞いて、つい2人の後ろで足を止めた。
気配に気付いた名前が振り返り、岩泉の姿を確認すると、驚きの声を上げる。
「岩泉くん!」
名前の声に隣にいた加奈子も振り返った。
「ランニング?ひとりで?」
加奈子にそう聞かれ、岩泉は少し罰が悪くなる。
「あぁ、ちょっとな」
「他の部員は?」
「うるせぇ。どうでもいいだろ」
何かを察して指摘してくる加奈子が面倒になり、岩泉は素通りすればよかった、と少し後悔した。
「ほっぺ、赤い……」
岩泉の頬が赤く腫れていることに気付いた名前は、思わずそこへ手を伸ばした。
指先が頬に触れそうになり、岩泉は思わず距離を取る。
「あ、ごめんっ」
名前も我に返り、手を引いた。
「いや、汗すげぇから。これは、ちょっとボール当たった」
「保健室で冷やした方がいいんじゃない?」
「こんなんいつもだ。問題ねぇ」
「いつも顔面でボール受けてるの?」
心配してくる名前とは対照的に、ニヤニヤと笑う加奈子をギロリと睨む。
「うるせぇ」
「おーこわっ」
「じゃあな。邪魔した」
「ランニング、頑張ってね!」
最後に名前がそう言うと、軽く手を上げて岩泉は走って行ってしまった。
「……なんか岩泉って名前にだけ優しい気がする」
岩泉の姿が見えなくなる頃、加奈子が大きな瞳で名前を見つめる。
「えっ」
「さっきの私への態度、酷くなかった?」
「それはかなちゃんが意地悪言うから…」
「それだけじゃないよ。一緒に図書委員やっちゃったりしてさ……まさか惚れてたりして」
「ちょ、やめてよ。そんなんじゃないよ」
加奈子の言葉に名前の頬は真っ赤に染まる。
「いいじゃん。意外とお似合いだよ」
「もう、やめてってば。あ、ほら、後半始まるよ!」
「ほんとだ!ちゃんと見ないと!」
うまく話を逸らした。
サッカーの試合に注目しているよう振る舞うが、名前の表情は少し曇っている。
かなちゃんに何て言われようと、期待しちゃダメ。
大丈夫。ちゃんとわかってる。
はーちゃんはきっと、そういうんじゃない。
見てればわかる。恋愛なんて全く興味がない。
変に期待してしまったら、後から傷付くことになる。
サッカー練習場を挟んだ向こう側に、走り続ける岩泉の姿が小さく見えた。
その姿を目で追いながら、名前は少しだけ泣きそうになったのを堪える。
彼を好きな気持ちは誰にも負けない自信がある。
でも、彼が一番愛してるのはバレーボール。
私のライバルは他の誰でもない、バレーボール。
——もう少し積極的にいったほうがいいかもね
積極的に頑張ったところで、バレーボールに敵うわけないよ……
——タッ
ボーッとサッカーの試合を見ていると、再び後ろで足音がした。
振り返ると、一周ランニングをして戻ってきた岩泉の姿。
かなり飛ばしてきたようで、肩で息をしている。
立ち止まって動かないその様子が気になり、名前は声をかけた。
「岩泉君?」
名前の声に反応し、加奈子も振り返った。
「また?何の用?」
「苗字に話がある」
「!!」
一瞬の沈黙。
破ったのは名前の横で嬉しそうに飛び跳ねる加奈子だった。
「ほらきた!!私は向こう行ってるね!!ごゆっくり!!」
「え?ちょっと、かなちゃんっ」
加奈子はそそくさとその場を離れ、交代するように岩泉が隣へとやってきた。
名前の心臓はバクバクと忙しく動き出す。
顔が一気に熱くなる。
その頬を撫でるように、優しい風が2人の間を通り抜けた。
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