岩泉一にフラれた女の子【連載中】
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episode.06「初恋再び」
「名前っ!はやくこい!」
「はーちゃんまって!」
「いそげ!ビリになるぞ!ほら!」
「うん!」
・
・
・
「———っ!!」
唐突に目が覚めた。
あれは幼稚園の時に遠足で行った公園だった。
出遅れた私に、はーちゃんが手を差し出してくれて、私はそれをぎゅっと握った。
待っていてくれたことも、手を繋いでくれたこともとても嬉しかったのに、すっかり忘れていた思い出。
まさか、そんなシーンを夢に見るなんて。
頬に手をあてると、とても熱い。
——本当はブスなんて思ったこと一度もねぇよ
昨日のはーちゃんはとっても格好良くて、家に帰ってからもずっと彼のことばかりを考えてしまっていた。
だから、夢にまで出てきたんだ……
「あー恥ずかしい……」
小さく呟いてベッドから起き上がり、学校へ行く支度を始めた。
ーーーーーーーーーー
教室が近くなるにつれ、名前の鼓動は速くなる。
毎日通っている、なんてことない場所のはずなのに、日常が変わったように思った。
意識しないように、意識しないように。
そう思えば思うほど、意識してしまっているということに気付き、名前はひとりで恥ずかしくなった。
岩泉の顔を思い浮かべるだけで、気持ちが高揚してくる。
本人を前にしてしまったら、どうなってしまうのか……不安でいっぱいになる。
でも、早く会いたいとも思う。
これはもう、完全に……
「岩ちゃんのクラスの子!」
上履きに履き替えていると、後ろから聞き覚えのある声がして思わず振り返る。
と、笑顔の及川の隣に岩泉の姿。
心臓が跳ねた。
「よう」
「あっ、お、おはよう」
いつも通りの岩泉に対して、名前は明らかにそわそわと落ち着きがない。
そんな名前に近付き、及川は顔を覗き込んだ。
「おはよ。名前まだ聞いてなかったよね」
「あ、苗字です。苗字名前」
「苗字ちゃんね。まさか岩ちゃんが女の子と一緒に委員会入ってるなんて驚いたよ。大丈夫?この人怖いよね?口悪いし」
「えっ、そんな……」
「黙れ及川」
「何かされたらすぐ俺に言うんだよ?」
話し続ける及川を見上げながら困ったように相槌を打っている名前。
岩泉はその表情が気になった。
昨日より、なんとなく頬が赤い気がする。どこか緊張しているようで、時々恥ずかしそうに笑う。
「………」
隣の及川を見る。
この男を前にすると、大抵の女子はこうなるので、名前の表情もそのせいか、と妙に納得した。
だが同時にイラついてくる。
長年親友をやっているが、及川がなぜここまでモテるのか、岩泉には理解できなかったし、女子にキャーキャー言われてこの男が調子に乗ることが単純に腹が立った。
「おら行くぞ」
何やらまだ話をしようとしている及川を力任せに引っ張り、廊下を進んだ。
「ちょ、何すんのさ!まだ話してんのに!」と文句を言っているが、聞き入れるわけはなく、そのまま階段を上がって教室へ向かった。
残された名前は、2人が見えなくなってからゆっくりと廊下を進む。
ほてった頬に手の甲をあてて冷ました。
心の準備もなく突然会えたことで、一気に体温が上がったことが自分でもわかった。
″もしかしたら私、彼のこと…″
その程度だった思いが、本人を目の前にして確信に変わった。
同じ教室内。
授業中も、休み時間も、誰と何をしていても
はーちゃんを強く意識している。
幼稚園のとき、はーちゃんのことが大好きだった。
けど今は、あの時とは少し違う。
うまく言葉にできないけど、あの時よりも恥ずかしくて、緊張して、難しい。
とても「大好き」なんて気軽にはもう言えない。
とても重たい、自分の気持ち。
私は岩泉一君に恋をしている。