岩泉一にフラれた女の子【連載中】
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episode.05「重なった記憶」
ホームルームを終えた放課後、岩泉が名前の席へ近づく。
「行くか」
「あ、は、はいっ」
教科書類をカバンにしまっていた名前は、残りを慌てて詰め込んだ。
岩泉はいつものように大きなバッグを肩からかけている。委員会後は部活へ行くようだ。
図書室へ向かう間も、委員会中に隣で座っている間も、特に会話はなく、名前はただただ気まずい空気を感じていた。
何か声をかけた方がいいのかな…
どうして図書委員に?とか?
本好き?とか?
でも、はーちゃん……岩泉君は、目つきが鋭いせいか、いつも怒っているように見える。
気軽に話しかけられる空気ではない。
その様子は、やはり本当は面倒な委員なんてやりたくなかったんじゃないかと思う。
「連絡事項は以上だ。あとは各クラスで受付当番の分担をしておくように」
担当の先生がそう言うと、各クラスの委員同士で話し合いが始まった。
何か言わなきゃ。何か言わなきゃ。
名前は体を岩泉の方へ向け、恐る恐る声をかけた。
「えっと……私、部活とかやってないし、うちのクラスの当番の日は全部私が出るよ」
「あ?それじゃ2人でやってる意味がねーだろ」
気を利かせたつもりだったが、ズバッと返された岩泉の鋭い物言いに名前は身を縮こませる。
「そ、そうだよね。ごめん……」
「……月曜は部活ねぇから、俺が出る。他のとこ頼めるか?」
岩泉はそう言いながら、配られたプリントの月曜の担当日に丸をつけていった。
「うん、わかった。ありがとう」
同じようにプリントに何やら書き込みをする名前を横目で見る。
ずっと自分に気を使っている様子が気になった。
——明らかにあの子、岩ちゃんのこと怖がってたじゃん
及川からの胸糞悪い言葉を思い出す。
——名前は男子が苦手なんだから、あんま見てこないでよね
そして、名前の友人の言葉。
「………なぁ」
帰り支度をする名前におもむろに声をかけた。
「は、はい」
瞬時に手を止めて背筋を伸ばし、岩泉の方へ向き直る。
こういった態度も、自分への、男への苦手意識からなのだろうか…と、岩泉は思った。
「男が苦手になったのって、俺のせいか?」
「え?」
「……俺がガキの頃泣かせたから、だろ?」
「えっ、ち、違う!違うよ!だってはーちゃんはいつも私を助けてくれたじゃん」
「………」
「………」
岩泉の顔がボッと赤く染まった。
同時に名前はハッと口をおさえる。
「ちょっと待って………もしかして、私のこと覚えてくれてるの?」
「……お前も覚えてたんだな」
「………」
言葉を失う。
名前にとってはまさかの事態だ。
10年以上も前の出来事を、岩泉も覚えていたなんて。
「俺がブスって言ったから、男嫌いになったんじゃねぇのか?」
「違うよ。本当に違う。確かに…幼稚園の時にいじめられてから男の子が怖くなったけど、私、はーちゃんのことは大好きだったもん、あっ、えっと……」
しまった、という顔をして、名前は再び両手で口元をおさえる。
「………その呼び方」
「ごめんなさい。つい……」
「2人の時だけにしとけ。誰かに聞かれたら冷やかされそうだ。及川とか特に」
岩泉はそっぽを向いて荷物をまとめ始めるが、その耳が真っ赤に染まっていることに名前は気付いた。
自分も先ほどから顔が熱いので、きっと同じように真っ赤になってるだろう。
恥ずかしさから、俯いた。
「はーちゃん」て、2人の時なら呼んでもいいんだ…
なんだか無性に嬉しくて、頬が緩むのを必死で堪えた。
「あとよ」
「はいっ」
「本当はブスなんて思ったこと一度もねぇよ」
「!!」
「ひでぇこと言って悪かった。また明日な」
岩泉はバッグを肩にかけ、図書室を後にした。
彼の背中を見送ると、名前はヘナヘナと力が抜けて椅子に座る。
はーちゃん…そんなのずるいよ……
思い出になったはずの初恋の相手。
こうしてまた向き合うようになってしまったら、思い出のままでは済まされない。
それになんだか、色々な意味で男前に成長したはーちゃんは、顔は少し怖いけど、とっても魅力的な人だ。
ただのクラスメイトでいいと思ってたのに…
私は、やっぱり彼のことが……