及川徹と友達の彼女【連載中】
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episode.06「高二の秋」
2学期がはじまり、バレー部は春高予選に向けて本格的に動き出し、厳しい練習の日々が続いている。
そんな中でも、名前とまっつんはすっかり彼氏彼女らしくなってきたように思う。
最初は松川に対して緊張している様子だった名前も、今では自然に振る舞えているようだった。
バレー部のお似合いカップルとして、同級生の間でも認識されていた。
そしてこの頃から、俺は急激にモテはじめた。
「及川せんぱーい!」
「はいはい」
「キャー!!こっち向いたー!」
「カッコいいよ〜」
「うん、ありがとねー」
高校に入ってから女の子に声をかけられるのは日常茶飯事だったが、最近は目に見えてその数が増え、毎日のように女の子に囲まれるようになった。
「転んで泣いてるときの写真でもばらまいてやろうかな。小学生のときの」
「おう、やれやれ」
少し離れて見ている名前と岩ちゃんのそんな会話も気にならないくらい、気分が良かった。
そうだよ。俺って実はイケメンなんだから、その気になれば彼女のひとりやふたり、すぐできるんだからね!
という表情で誇らしげに2人を見ると、2人は同時に顔を歪めた。
——昼休み
「及川君。お弁当作ってきたの、一緒に食べない?」
「えっ、本当?嬉しい」
「抜け駆けずるい!私も誘いに来たのに」
「私も待ってた」
「仲良くして。それじゃ、皆で食べよ」
岩ちゃんやバレー部の皆と食べたり、男友達と食べたり、誘ってくれた女の子たちと食べたり
昼休みはいつもその日の気分で過ごしていた。
「おにぎり、いっぱい作って来たからたくさん食べてね」
「嬉しいね。ありがとう」
「私は唐揚げと玉子焼き」
「うわ、そっちも美味しそう」
裏庭で3人の女の子と昼食をとっていると、広場を挟んだ反対側にカップルが一組やって来るのが見えた。
名前とまっつんだ。
並んでベンチに腰掛けて、仲睦まじく弁当を食べ始める。
「あ、バレー部カップルだ」
「お似合いだよね。憧れる」
俺の横にいる女子3人が羨ましそうに2人を眺める。
「………」
名前の手作り弁当かな。
っていうか、あいつ料理とかできたんだ。
……まさか、まっつんのために練習したとか?
「——それでさぁ……ねぇ、聞いてる?及川君」
「あ、ごめんごめん。何だっけ?」
可愛い子に話しかけられても
どんなにたくさんの女の子に囲まれていても
遠くにいる名前へ意識がいってしまう。
この頃の俺は、そんな自分に戸惑っていた。
「今日はまっつんと帰らないんだ」
「なんか、用事があるんだって」
「3人久々だなー」
この日、久しぶりに岩ちゃんと名前と3人で帰った。
「ねぇねぇ、半年記念のプレゼント、何がいいと思う?」
「半年記念?何だそれ」
「だから、松川君と付き合ってもうすぐ半年なの」
「わざわざ半年を祝うのか」
「いいじゃん。何かプレゼントしたいんだけど、何がいいと思う?」
「本人に聞けばいいだろ」
「サプライズにならないでしょ!はじめはダメだ。徹は?どう思う?」
「まぁ、名前が選んだものなら何でも嬉しいんじゃない?」
「いいこと言ってる風だけど、考えるの面倒臭いだけでしょ」
「あははー」
まっつんの話なんか聞きたくない。
まっつんの話をする名前の顔も、見たくない。
自分のそんな本音に蓋をして、精一杯隠していた。
ーーーーーーーーーー
春高の代表決定戦、一週間前。
体育館内は緊張と気迫が入り混じったようなピリピリとした空気感の中、全員練習に熱が入っている。
そんな中
「……ごめん徹、ちょっと私、端っこで休んでていいかな」
名前が今日はいつもよりおとなしいと思っていたら、具合が悪かったようで、珍しく弱音を吐く。
「うん。ていうか、具合悪いなら早退しなよ」
「大丈夫、大丈夫。少し休めば」
そう言いながらフラフラと隅のパイプ椅子へ向かった。
と思ったら、パイプ椅子に縋るように掴まると、そのまま崩れるように地べたに座り込んでしまった。
「名前!?」
すぐに駆け寄ると、同じように走ってきたまっつんが先に名前の肩に手を添えた。
「名前、大丈夫?保健室行くぞ」
「……一静君…ごめん」
「気にすんな」
騒ぎに気付いて心配した岩ちゃんやマッキー、他の部員たちも集まってくる中、まっつんに支えられて名前は体育館から出て行った。
「名前のヤツ、体調悪かったのか」
「うん。全然気付かなかった」
「まぁ松川行ったし、会話してたし、大丈夫だろ」
「………」
「どうかしたか?」
「いや……」
——おばちゃーん!名前が怪我したー!
——バレーしてて転んだー!
——あら、わざわざ連れて帰ってきてくれたの?2人ともありがとう
——名前!何泣いてんだ!どうした?
——スカートめくられた
——あぁ!?どこのどいつだ!
——とっちめてやろ!岩ちゃん、行くよ!
「……もう名前がピンチのときに駆けつけるのは俺たちじゃないんだね、と思って」
それに……
いつの間にか名前で呼び合うようになってたんだな……
「……お前…」
驚いたように俺を見ている岩ちゃんと目が合って、ハッとした。
やばい。卑屈な本音がつい出てしまった。
「ごめん」
「……練習戻るぞ」
「いって!!」
岩ちゃんは俺の背中をバシッと叩きながら、先にコートへと戻っていった。
数分後、まっつんがひとりで戻ってきた。
サーブの練習中だったが、俺と岩ちゃんはまっつんの元へ駆け寄る。
「あいつは?大丈夫?」
「あぁ。まだ保健室の先生がいたから良かったよ。すぐ親に迎えに来てもらうって」
「そっか」
「体調悪かったんだな」
「あいつは、女子特有のほら、月のもの?重いらしいんだよ。時々貧血起こすんだって」
「へぇ……」
「病気とかではないし、心配かけたくないだろうから、知らないふりしてやって」
……何でも知ってるんだな。彼氏は。
そりゃそうだよな。
そんなデリケートなこと、俺らには言わないよ。
ただの幼馴染だし。
わかってる。
わかってるけど……
なんだか、すごく腹が立つ。
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま迎えた春高の宮城県予選では、またもや白鳥沢に敗れ幕を閉じた。
ーーーーーーーーーー
11月の始まり。
「及川君。しつこくてごめん…」
今、俺の目の前には学年で一番可愛いと言われている同級生がいる。
名前はカナコちゃん。
「やっぱり諦められなくて……あの…好きです」
この子には今まで2回、告白されたことがあるけど、その度に「バレーに集中したいから」という理由で断ってきた。
「キャプテンになって、忙しいのもわかってる。バレーを優先してくれていいし、好きになってもらえるよう努力するから……彼女にしてもらえませんか?」
顔を真っ赤にして、瞳を潤ませて
胸の前でぎゅっと両手を握って、緊張してて
本当に何もかもが可愛い完璧な女の子。
「うん、いいよ。付き合おうか」
「っ!!本当!?いいの?」
「うん」
自暴自棄になっていたんだと思う。
名前とまっつんを見ていてイライラするなら、俺も彼女を作ればいい。
カナコちゃんと付き合うと決めたのは、そんな浅はかな理由からだった。
こんなに可愛い子、そのうち本気で好きになれると思ったし。
後から思えば、相手にとても失礼な選択だった。
でもこの頃の俺は、頭の中から名前を追い出すことに必死で
誰かを傷付けることになったとしても
他に方法を思いつかなかったんだ。
それが、高二の秋の話。
