及川徹と友達の彼女【連載中】
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episode.04「高二の春②」
朝練が始まった時から、違和感を感じていた。
「ポールは俺やるから、ネット頼むな」
「うん、ありがとう」
まっつんと名前の距離感が、今までと違う気がする。
うまく言えないけど、近くなった?というか、なんだか空気感が甘い。
「………」
「何ボサっとしてんだ。さっさと終わらすぞ」
「あ、うん。ごめん」
岩ちゃんに指摘され、並んでモップがけを再開した。
「岩ちゃん、なんかあの2人さ……」
「あぁ、くっついたらしいな」
「えぇ!!」
驚きの声をあげながら、やっぱりな、という気持ちもあった。
あの空気感、勘違いじゃなかったんだ。
っていうか
「なんで岩ちゃんは知ってんの?」
「昨日の夜、名前から電話で報告あった」
「俺にはなかったけど!?」
「お前、冷やかすからだろ」
「……否定はしないけどさ」
「松川から告られたって、すげぇ嬉しそうだった」
「へー。まぁよかったね」
岩ちゃんはネットを片付けている名前を遠目で眺めながらポツリと呟いた。
「でも、なんか……飼ってた犬がもらわれてった気分だ」
「岩ちゃんにとって名前はペットだったってこと!?」
「まぁもう一頭残ってるけどな。デカいのが」
「……えっ、それ俺!?」
「うっし!モップ終わり!」
朝練の片付け後、着替えを終えて教室へ向かう途中、名前がひとりでいるところを見かけたので声をかけた。
「ねぇ、付き合うことになったんだって?」
肘で軽くツンツンと肩を突く。
「徹っ……はい、実は、そうなんです」
名前は顔を真っ赤にしながらそう答えた。
「なんで黙ってたんだよ」
「だって、徹は絶対冷やかすから」
「ご希望通りイジったる」
「やめて。まだなんか夢みたいで……いっぱいいっぱいなんだから」
その表情は恥ずかしそうにしながらもどこか嬉しそうで、俺があまり見たことのない、いわゆる″女″の顔で
本当にまっつんのことが好きなんだな…って、こっちまで恥ずかしくなるくらいに伝わってきた。
「まぁ、よかったじゃん。まっつんなら間違いないよ。いい男だから。俺の次くらいにね」
「はいはい。そうですね」
俺の減らず口に、いつものように適当な相槌を返してくる。
かと思ったら、急にこちらを向いて目の前で立ち止まった。
「徹が陰で応援してくれてたの知ってるよ。ありがとうね」
この上なく、幸せそうな顔。
飼ってたペットがもらわれてった気分……
なるほど、ちょっとわかる。
こういう嬉しそうな顔を見て、こっちも嬉しくなるけど、なんだか少し寂しくも感じる。
口が裂けても言わないけどね。
「まぁ、お幸せに」
「うんっ、徹にも早く彼女できるといいね」
「うわ、急な上から目線、腹立つ」
「あははっ」
まぁ、名前に彼氏ができたところで、俺たちの関係性が変わるわけでもないと思うけど
……3人でいる時間は減るだろうな。
ーーーーーーーーー
その日の昼休み、まっつんが俺のクラスにやってきた。
「もう報告いってると思うけど、名前ちゃんと付き合うことになった。お前にはちゃんと言っとくべきだと思ってな」
「うん、聞いた。おめでとー」
「あれ、何か怒ってる?」
驚いてまっつんを見る。
全くもって怒ってなどいなかったから。
でもまっつんには、俺が怒ってるように見えたのだろうか。
まぁ、さっきちょっとだけ“寂しい“とは思っちゃったけどね。
本当にちょっとだけだし、まっつんにも絶対言わないけど。
「別に?飼ってたペットがもらわれてっただけだからね」
「なんだ、それ」
まっつんは静かに笑った。
名前はきっと、この笑顔にメロメロってやつなんだろうな…と思った。
本当に怒っているわけではないんだけど、なぜか釈然としない気持ちはある。
名前がまっつんにベタ惚れだったことは1年の時から知ってたけど、まっつんが名前に惚れてるなんてこれっぽっちも思わなかったから。
まぁもともと感情をあまり表に出さない、わかりづらいタイプであるけど。
「……なんだよ」
顔をジッと見ていたら、訝しげに眉を寄せた。
「いや、まっつんから告ったってのが意外だったなーって。あいつのこと、そういう目で見てたんだね。全然知らなかった」
「俺からすれば、あんな魅力的な子とずっとそばにいて、そういう感情が湧かないお前らの方が不思議だけどな」
「まぁ、まっつんは名前ががっつりバレーやってた頃を知らないからね。もう女らしさなんてカケラもなくてさ」
「昔のことは気にしない。すげー可愛いと思うし、しっかり欲情するけどな」
「よくっ…!!」
「そういう目、ってそういうことだろ?」
まっつんがニヤリと口角をあげる。
こういう時のまっつんは、同い年とは思えないくらい大人に見える。
「まぁ幼馴染の了解も得たことだし、色々していいってことだな」
「いっ、色々って!?」
「言わせるなよ」
「高校生らしく、清い交際を心がけた方がいいと思う!!」
「なーにマジになってんだよ」
まっつんは肩を揺らして笑いながら教室を出ていった。
「……そうだよね」
なんだ。冗談か。
冗談……本当に?
いや、半分は本気だと思う。なんて言ったってまっつんだし。そういう知識は豊富だろうし。
でも付き合うということは、いずれそういう関係になるってことで……
うわ〜……
小さい頃から知ってる幼馴染のそういうの…なんか、想像したくないな。
ーーーーーーーーーー
「んじゃ、2人が付き合った記念にこれからラーメン食い行く?」
名前とまっつんが付き合い始めたことはマッキーにも伝わっていて、部活終わりにそんな提案をしてきた。
「こんな時もラーメン……」
「つーか、2人にしてやったほうがいいんじゃねぇのか?」
岩ちゃん、ど正論。
「変な気使うな。今までどおりでいいよ。ね?」
「うん。お腹減ったし、私もラーメンがいい」
まっつんと名前がそう言うので、いつものメンバーでいつものラーメン屋に向かった。
「いやー全然知らなかったわ。松川と恋バナとかしたことなかったしな」
「まぁ、いちいち言わないよね」
「名前はだいぶわかりやすく松川に惚れてたけどな」
「………」
「岩ちゃん、確かに岩ちゃんでも気付くくらいわかりやすかったけど、今言うのはやめたげて」
俺と岩ちゃんと名前。
ずっと3人だったのが、そこにまっつんとマッキーが加わって
まっつんと名前が付き合い始めて、関係性が少しずつ変わっていく。
ラーメン屋のテーブル席。
名前はまっつんの隣に座って
恥ずかしそうだったり、嬉しそうだったり
気のせいか、なぜかいつもより女の子らしいというか……可愛く見えた。
完全に名前の一方的な片思いだと思ってた俺は、まっつんもちゃんと名前のことを好きなのか、正直少し心配したけど
まっつんが名前に向ける視線は、見たことがないくらい優しくて、俺の心配など不要だったとわかる。
なんだ、すごいお似合いじゃん。
絶対うまくやっていくよ。この2人。
幼馴染の初恋が実ったことを心の底から祝福していた。
それが高二の春の話。
