及川徹と友達の彼女【連載中】
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episode.03「高二の春①」
インターハイ予選、春高予選、合宿や練習試合への遠征と、目まぐるしい毎日を必死に過ごしているうちに、あっという間に高校生活も1年が経ち、私たちは2年になった。
強豪であるうちの男子バレー部には今年も多くの新入部員が加わったが、相変わらずマネージャーは私ひとり。
忙しくもやりがいがあり、そこに約1年やってきた自信もつき、大変さよりも楽しさの方が勝って頑張れている。
「キャプテン、そろそろ行ってきますね」
「おう!よろしくな!」
部活の途中、出かける準備をしていると、ボールをつきながら徹が声をかけてきた。
「何?どっか行くの?」
「うん!いつものスポーツショップ。新入部員の皆の練習着、予約してあるから取りに行くの」
「ふーん。ひとりで平気?」
「たぶん。持ちきれなかったら最悪2往復かな」
靴を履きながら苦笑いを浮かべる。
徹かはじめに手伝ってもらおうと思っていたけど、今日は急きょ練習試合が入ってしまったので、レギュラーである2人には頼めなくなってしまった。
こういう時は、マネージャーがもうひとりいてくれれば…と思ってしまう。
「その辺の1年連れていけば?」
「監督が、今日は新入部員の力も見たいっていってたから……」
「俺、一緒に行こうか?」
私と徹の会話が聞こえたのか、松川君がひょっこりと顔を出した。
「たぶん試合出ないし」
「え、でも……」
「よかったじゃん。そうしてもらいなよ」
徹が私に向かって含み笑いをする。
「キャプテンに言ってくる。そこで待っててな」
松川君はそう言ってキャプテンのところへ行った。
まさか、2人で行けるなんて……
つい、口元が緩んでしまう。
「……顔に出てる」
徹にプッと笑われた。
「ほっといて!」
私は外に出て、松川君を待った。
松川君とは相変わらず、私の片想いが続いている。
でも、以前のように緊張することはなくなり、普通に声をかけられるようになったし、松川君からも話しかけてくれたりするようになった。
やっと″友達″や″チームメイト″という言葉が似合う間柄になれたと思う。
近付いた距離。
その分、松川君への気持ちも大きくなっている。
「幼馴染ってどうなの?」
スポーツショップへの道を2人で歩いている時、松川君から唐突に言われた。
「え?」
「及川と岩泉とずっと一緒なんだろ?俺そういうのいないから」
「あ、そうなんだ」
「やっぱり特別?」
「うーん…特別は特別だけど、もう2人とも私にとっては家族みたいな感じかな。遠慮も何もないし」
松川君と、徹とはじめの話をするのは初めてだったから、なんだか少し意外だった。
「でも苗字さんだけ女なわけじゃん」
「まぁ、そうだね」
「漫画とかドラマだと、そういう場合どっちかと付き合ったりするだろ。そういうの、ないのかなって」
「徹かはじめと?付き合う……?」
少し想像してみると、我慢できずに思わず吹き出してしまった。
「ふふっ、ないない!考えられない!」
「そういうもんか」
「2人は恋愛対象にはならないかな」
「なら良かった」
小さく聞こえた最後の声。
「……えっ…」
聞き間違いかもしれない。けど、思わず立ち止まってしまう。
と、松川君も立ち止まり、真っ直ぐに私の方を向いた。
「とりあえず、今度どっか行こうよ。及川も、岩泉もなしで」
切れ長の瞳が私を見据える。
吸い込まれそうになり、動けなくなる。
「………行く」
そう返すと満足げに微笑んだ。
「うん」
びっくりした。
まさか、松川君の方から誘ってくれるなんて。
ーーーーーーーーーー
週を跨いだ月曜日。
部活が休みなので、放課後に松川君と出かけることになった。
授業が終わるなり、そそくさと教室を出る。
徹やはじめ、花巻君に会ってしまったら「俺も行く」なんてことになりかねないから。
昇降口を出て、待ち合わせている校門前へ向かうと、すでに松川君が待っていた。
手を振って駆け寄る。
なんだかこれからデートに行くカップルみたい、なんて胸が高鳴った。
「お疲れ」
「お待たせ。どこ行く?」
「駅前に新しくできたカフェ知ってる?」
「あ、パフェの種類がすごく多いって話題のところでしょ?気になってたの」
「ちょうどよかった。決まりだな」
今日はバレー部の皆はいなくて、2人きりで
ジャージじゃなくて、制服で隣を歩いて
体育館でなくて、おしゃれなカフェに行く。
いつもと違う。特別な時間。
お店に入ると、そこは落ち着いた雰囲気で、松川君にぴったりだと思った。
窓際の席に向かい合って座り、松川君はブラックコーヒーを、私はミニサイズのいちごパフェを注文した。
「小さいので良かったの?」
コーヒーを啜りながら松川君は私のパフェを見てそう言った。
「うん。食べ切れるかわからないから」
そう答えながら一口食べる。
クリームの甘味が口いっぱいに広がって幸せ。
大きいサイズでもきっとペロリと食べ切れるけど、好きな人を前につい遠慮してしまった。
学校生活のこと、友達のこと
新チームのこと、ゴールデンウィークの合宿のこと
話に夢中になっているうちに、気付けば日が暮れはじめていて、私たちは店を出た。
「今日、ありがとうな。あの店行ってみたかったんだけど、野郎と行くようなとこじゃないし、ひとりで行くのもな……だから、苗字さんが付き合ってくれて助かった」
……なんだ、そういうことか。
私を誘ってくれたのは、ただあのカフェに行く相手を探してただけだったんだ……
「……ていうのは口実で……どこでもいいから、2人になりたかったんだ」
「!」
続いた言葉に、思わず松川君を見上げる。
夕陽に照らされる彼の顔はどこか緊張気味で、いつもの余裕は感じられなかった。
「ごめん、送っていくから、もう少し話せる?」
ただ、頷くことしかできない。
あんな言葉、期待してしまって止まらない。
駅前の通りから少し外れた小さな公園。
そこのベンチに隣同士で座った。
「俺、苗字さんのことが好きだよ」
松川君らしい、落ち着いていて静かな告白。
「及川と岩泉の幼馴染って聞いて、どっちかと付き合ってるもんだと思ってたけど、違うって知った時は安心した。でも苗字さん可愛いから、正直焦ってんだよね」
「えっ、そんな……」
そんなふうに思ってくれていたなんて……と、胸がいっぱいになる。
「俺と付き合ってもらえませんか?」
大きく開いた手が差し出される。
私は緊張で少し震える手を、恐る恐るその手に重ねた。
「私も最初から、松川君が好きだった」
下からギュッと握られて、熱い手のひらの熱を感じた。
「すっげぇ嬉しい。ありがとう。大事にする」
優しい笑顔に目を奪われる。
まだ自分に起こっている事態に困惑していた。
ただの部活仲間でなく、友達以上の関係になれたら……って
ずっと夢見ていたことが、まさか現実に起こるなんて。
「はー……緊張したー」
そう言って笑う松川君は、普段の大人びている彼とは違って
そんな姿にまた心臓が跳ねる。
片思いしていた憧れの彼が、恋人になった。
それが、高二の春の話。
