及川徹と友達の彼女【連載中】
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episode.01「高一の春」
——4月。
宮城県・私立青葉城西高校。
「岩ちゃん、白いブレザーやっぱ似合ってない!」
「ほんと、予想通り!」
「うるせぇ。お前らも大して似合ってねぇからな」
真新しい制服にカバン。綺麗な革靴。
見慣れないお互いの姿に浮き足立ちながら、学校の門をくぐった。
及川徹、岩泉はじめ、そして私。
3人同じ小学校で、スポーツ少年団の同じバレーボールチーム出身。
そこから地元の中学校へ進み、そこでも揃って男子バレー部、女子バレー部へ入部。
そして、この春同じ高校へ入学した、いわゆる腐れ縁の幼馴染という間柄。
家も近所で、自然と3人でいることが当たり前になっていた。
朝練のため早くから一緒に学校へ向かい、授業が終われば部活で会い、帰りも一緒になる。
時には寄り道をしたり、誰かの家でバレーの試合を鑑賞したり、休日には公園で陽が暮れるまでボールに触っていた。
そんな毎日が何年も続いた。
中学3年、進路について考えるようになる頃
徹とはじめに、バレーの強豪・青葉城西高校から推薦がきた。
同じ頃に青葉城西への受験を決意した私を、徹はおちょくるように笑った。
「そんなに俺たちと離れるのが寂しかったんだ?」
「ううん。制服が好みだっただけ。『お前の学力なら行ける』って、先生からもお墨付きだったし」
「はいはい、そうですか」
その後、私は無事受験に合格した。
3人で過ごす日々がこれからも続いていくと思っていた。
しかし、高校生になったことで今までの関係性から、少しずつ変化が出てくる。
新入生とはいえ、2人は初めから主力選手として毎日練習に明け暮れていた。
入学から二週間が経つ頃
「名前お前、バレー部入んねぇの?」
登校中、はじめがおもむろにそう聞いてきた。
隣で徹も「俺も気になってた」とこちらを見てくる。
2人は女子バレー部に私がいないことを不思議に思っていたようだ。
「うん、入らないよ。バレーはもういいかな」
正直にそう答えると、徹が声をあげる。
「なんでさ!もったいない!!」
「まぁ確かにな」
隣ではじめも不満そうに口を尖らせる。
まぁ怒られる予感はしていたから、予想通りの反応。
「私さ、2人ほど実力もないし、前からなんとなく中学までって思ってたし。高校はたくさん遊ぶんだ〜!バイトして、おしゃれもしたいし、髪も伸ばしたい」
「あと彼氏も欲しいな」と付け足すと、2人して「フン」と鼻で笑った。
「そんな簡単に辞められるものなんだ」
怒っているような、残念がっているような口ぶりの徹。
男子と女子で分かれてはいても、ずっと一緒にバレーに打ち込んできた。
悩みを聞いてもらったこともあったし、励まし合ってきたこともある。
それを突然相談もなしに終わりにしてしまって、怒りの感情が湧いても仕方のないことだと思う。
でも、これは私が決めたこと。
怒られたとしても、「ごめん」と言うのは違う気がして、私は口をつぐむ。
「まぁそう自分で決めたなら、いいんじゃねぇか」
はじめがそう言って、割とあっさりと受け入れてくれたので、徹も納得はいっていないようだけど、それ以上不満は言わなくなった。
と思ったら、思い立ったように人差し指を立てて意見してくる。
「じゃあ、男バレのマネージャーやれば?」
「マネージャー?」
「今いないんだよ」
「それいいな。俺たち1年の仕事減るしな」
「いやいや、マネージャーとか絶対大変だし。嫌だ」
徹の提案にはじめも賛同しているけど、正直乗り気になれない。
マネージャーの仕事なんて、自分にこなせると思わない。
それに、バレーをしているところを間近で見たら、自分もやりたくなってしまいそうだから。
嫌。絶対にやらない。
「お前、毎日やってたバレー急にやめて、何もしなかったら太るぞ」
「岩ちゃんの言うとおり!」
「そんなことないもん!」
ケラケラと笑う2人を睨みつけると、ちょうど校舎に着き、2人はそのまま逃げるように行ってしまった。
ーーーーーーーーーー
昼休み。
食べ終えたお弁当を片付けながら、何気なく窓の外を見る。
校庭の隅で、徹とはじめがバレーをしていた。
「………」
情けないことに、どこか寂しい気持ちになる。
前はよく、自分もそこにいたから。
小学4年生の時、何か習い事をした方がいいと親に言われたのと、練習場所が小学校の体育館という通いやすい場所だったから——
バレーボールを始めた理由は、そんな単純なものだった。
それでも、できることが増えていくと嬉しくて、どんどんバレーを好きになっていった。
その裏で、バレーにハマればハマるほど、突きつけられる現実。
2人との、実力差。
”私は、徹やはじめのようにはなれない”
男だから、女だから、というのは関係ない。
あそこまで貪欲に、バレーのためだけに努力できない。やる気も技量もない。
その腕前を認められて強豪校から推薦が来るなんてこともない。
それがわかったとき、辞める覚悟ができた。
「マネージャーか……」
そんな大変なこと簡単に引き受けられない、と思っていたけど、2人がパス練している姿を見て
”それもありかも…”と少し思った。
これからは2人をそばで支える立場になるのも、きっと悪くない。
「名前ー、次家庭科室。一緒行こ」
「はーい」
声をかけられ、移動教室の準備を始める。
友達と廊下を歩いている時、ブルルッとブレザーのポケットの中でスマホが震えた。
「!」
ポケットからスマホを取り出し、メッセージを確認していると
「ねえ、ちょっと」
後ろから声をかけられる。
振り返れば、一際背の高い男子生徒が立っていた。
「これ、落としたよ」
その人の手には、私のハンカチ。
スマホを取り出す時に、一緒に入れていたものが落ちたようだ。
「あ、ありがとうございます」
それを受け取りながら思わず彼を見上げた。
「すっごく背が高いですね」
徹やはじめよりも大きいかも…
相手の背の高さに注目してしまうのは、バレーをしていた時のクセでもある。
「あ、すみません、いきなり。失礼ですね」
「大丈夫。よく言われるから。じゃあね」
彼はそれだけ言うと背を向けて去っていった。
「………」
「名前!早く行こ!」
「あ、うん、ごめん」
その日の夜、眠るまでその彼のことを考えていた。
先輩だろうか。
物腰の柔らかい口調に、大人っぽく落ち着いていて、スマートで
かっこいい人だった。
また、会えるかな……
同じ学校に通ってるんだもん。そのうちきっと会えるよね。
……また、会えたらいいな。
ーーーーーーーーーー
幸運なことに、次の日にまた廊下で彼を見かけた。
しかもその彼が話をしている相手は、徹。
知り合いなのだろうか。
彼のことを徹に教えてもらうチャンスだと思った。
遠目から様子を伺って、徹が一人になったところですぐさま声をかける。
「徹!さっきの人、友達?」
「ん?まっつんのこと?」
「まっつん?」
「松川一静」
「松川君……もしかして1年生?」
「そ。同じバレー部」
「先輩じゃなかったんだ……」
気になっていた人の名前を知れた。
胸が高鳴る。
あんなにも落ち着きがあって大人っぽいのに
まさか、同級生なんて……
と考えていると、徹がニヤニヤとこちらを見ていた。
「名前、まっつんみたいなのがタイプなんだ。へぇ〜」
「……ほっといてよ」
自分のタイプとかはまだあまりよくわからないけど、松川君のことはかっこいいと思う。
一度しか関わったこともないし、その一度も会話といえるようなものはなかった。
もっと、彼に近づきたい。
彼のことを知りたい……
バレー部なんだ。あの身長だもんな。
きっと、バレーをしている時はもっとかっこいいんだろうな……
「……私、やろうかな」
「何を?」
「男バレのマネージャー」
「うわ。動悸が不順!」
「いいでしょ!」
こうして、私は男子バレーボール部のマネージャーを引き受けた。
それが、高一の春の話。
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