国見英と学校一の美少女【完結】
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episode.08「面倒なこと嫌いなのに」
ミンミンとうるさいセミの声。
夕刻にも関わらず、ジリジリと容赦なく照りつける日差し。
体育館を一歩出ると、うだるような暑さに気が滅入る。
夏休みが始まった——
「あっちー」
「アイス食いたい」
「いいな。食ってくか」
帰り支度を終え、金田一と歩いていると
校舎から校門前へと歩く人影が見えた。
「一緒に帰ろうよ」という男子生徒の声が聞こえて来る。男女の2人組のようだ。
「……あれ、苗字さんじゃね?」
国見は特に気にしていなかったが、金田一の一言でそちらの方へ注目する。
確かに、よく見るとその人影は名前と同じクラスの男子生徒だ。
夏休みなのに何で…と思ったが、すぐにピンと来た。数学の補習組だ。
「ひとりなんでしょ?送らせてよ」
「………」
名前の声は聞こえないが、男子生徒がしつこく付き纏っているように見える。
「なんかあれ、大丈夫か?」
「……はぁ…」
国見はため息を吐き、心配する金田一とともにそちらへ向かった。
「そういうの、やめたら?」
男子生徒に声をかけると、名前が顔を上げ、目が合った。
明らかに苦悶の表情を浮かべている。
「嫌がられてるの、わかんねーの?」
「国見か。うるせーな。お前関係ねぇだろ」
「そうだけど。お前、しつこそうだから。それ以上嫌われたくなかったらやめた方がいいよって、警告」
ジロリと睨む。
男子生徒は珍しく怒っている国見と、困り顔の名前を見て、「チッ」と舌打ちをし、帰っていった。
「……ありがとう。国見君」
名前は国見の正面に立ち、丁寧に頭を下げた。顔を上げるとその表情は安堵し、笑っている。
「別に……じゃあね」
「うん」
向きを変え、校門へ向かおうとすると金田一にバッグを引っ張られる。
「おい」
「なに?」
「送るべきなんじゃねぇか?」
「………」
金田一の正論に、国見の眉間に皺が寄る。
俺だってちょっとそう思ったよ。
でも一緒に帰るとか……どうなんだよ。
そう思ったが、渋々名前の方へ向き直る。
「一緒に帰る人、いないの?」
「……ユキちゃんも、マオちゃんも、補習じゃない」
小さくそう答える名前の表情が曇る。
やば、また余計なこと言った…と口を紡いだ。
「………」
「………」
「……送ってく」
意を決してそう言うと、名前の顔つきがパッと明るくなった。
なんだか照れ臭くなり、誤魔化すように金田一を見る。
「金田一も行こ」
「いやっ、俺はいいわ。用事思い出した」
余計な気を遣ったのか、金田一は逃げるように行ってしまった。用事というのもきっと嘘だろう。
国見が小さく「クソ」と呟く。
「き、金田一くんっ」
と、名前がその背に向かって声をかける。
名前を呼ばれ、驚いて振り返った金田一に深く頭を下げた。
「ごめんなさい。国見君と帰ってたのに」
「は、はい!いいえ!」
「どっちだよ」
「うるせっ!じゃ、また明日な!」
「おう」
金田一の背が見えなくなり、名前と国見も校門を出て、2人並んで歩道を歩く。
「苗字って、電車通学?」
「は、はいっ」
「じゃあ駅か」
駅まで送ることになった。
最初、国見は自分のペースで歩いていたが、途中名前が少し速歩きになっていることに気付き、ペースを緩めた。
これだけ身長が違うと、足の長さも違うもんな…と、妙に納得した。
「駅から家までは近いの?」
「徒歩だと20分くらい」
「ちょっとあるな。一人で平気?」
「お母さんが迎えに来てくれるから」
「ふーん」
子どもがこんだけ美人だと、親も大変なんだな。と思ったが、言葉にはしなかった。
「………」
「………」
ふと視線を感じ、隣を見ると名前もこちらを見上げている。
「……なに?」
「優しいよね。国見くん」
「別に……」
不意打ちの言葉に顔が熱くなる。
言った本人も恥ずかしくなったのか、耳を赤くし、俯いてしまった。
2人の間にそれ以上会話はなかった。
国見は何か話して場を和ませたほうが良いだろうかと迷ったが、あいにくそんな話題は出てこない。
つまらないだろうか、とちらりと名前の方を見るけど、俯きがちな彼女の表情までは、国見の視点からは見えない。
結局無言のまま、駅へと着いた。
「送ってくれて嬉しかった。ありがとう」
去り際の笑顔と素直な言葉に、また柄にもなく胸が高鳴る。
「補習、あと2日だよな?」
「え?うん」
「……明日も送ってく」
あーあ。言っちゃった。
面倒なこと嫌いなのに
なんか、口が勝手に……
目の前の名前は驚いたように目を見開く。
国見は言わなきゃよかったかと、段々と不安になってくる。
「俺、楽しくお喋りとかできないけど…それでも良ければ……」
「ありがとう。嬉しいっ」
心から嬉しそうな屈託のない笑顔。
国見の不安は一瞬で消えた。
「じゃ、また明日」
「うん、また明日」
まっすぐ向けられた笑顔を正面から見ていられなくなり、踵を返して背を向けた。
なに今の。
すっげぇ可愛かった。
……ちょっとヤバいかも。
ーーーーーーーーーー
次の日。
練習を終えた片付けの最中、体育館内がざわついた。
「めっちゃ可愛い」「あぁ、美人で有名なあの子だ!」と、部員たちの声に国見はハッとした。
注目されているドア付近を見ると、こちらに顔を覗かせている名前の姿。
見つかってしまった、とでも言っているような、焦った表情をしている。
国見はモップを手にしていたが、仕方なく彼女の方へ向かった。
「もう少しで終わるから、待てる?」
名前は嬉しそうに頷くと、扉の後ろに隠れるように座った。
どういうことだ、と先輩たちが国見のもとへ駆け寄ってきた。
案の定、「彼女なのか?」と聞かれたがそれは否定し、面倒ではあったが誤解を招かないよう、仕方なく彼らに説明をした。
「可愛すぎて変な男が寄ってくるから、駅まで送ってる!?」
「クラスメイトのよしみで!?」
「そんな薄っぺらい関係なら国見じゃなくたっていいだろ!」
2年の矢巾が先陣切って名前の方へ行ってしまったので、国見は慌ててついていく。
「今日は俺が送るよ」
キメ顔でそう言う矢巾を前に、名前は無言でふるふると首を振った。
「矢巾さん、やめてください」
国見は面倒くさそうに矢巾を引き戻した。
「本当に付き合ってないの?」
「なんか懐かれただけって言ってましたけど」
「羨ましすぎる!」
主将の及川と、金田一のそんな会話も聞こえてくる。
面倒なことになると予想はしていたが、国見はげんなりとしながら体育館を出た。
注目されるのが嫌で、部員たちとは別の順路から駅を目指すことにした。
今日も名前はあまり喋らないが、なんとなく隣で楽しそうにしていたので、あまり気にしなかった。
目と目が合えば、にこっと笑いかけてくる。
その度に、正直に可愛いな、と思う。
すれ違う人がいれば、必ずと言っていいほど彼女を見ている。男女問わずだ。
人の目を惹きつける、魅力的な子。
俺といて楽しいのか?と不安に思った。
まぁ、これはボディガードが目的であって、楽しく喋ることが目的じゃないし。
でも、だったら、別に俺じゃなくたって……
——そんな薄っぺらい関係なら国見じゃなくたっていいだろ
矢巾さんの発言は最もだ。
だけど
この役は他の誰にも譲りたくない。
