国見英と学校一の美少女【完結】
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episode.07「心臓がうるさいです」
昼休みや放課後、部活前の時間を使って、国見は名前に数学を教えてくれた。
が、勉強に集中したくとも、どうしても意識が別の方へいってしまう。
好きな人とひとつの机を挟んで向かい合っているこの状況に加え、すぐに触れてしまいそうな位置に彼の手が置かれている。
骨ばった男らしい指先をつい見てしまう。
それだけではない。
机が小さく見えてくる大きな体。
節目がちな目元に長いまつ毛。
国見のことを意識しないことは、無理だった。
「集中してる?」
「ごめんなさい」
そのせいで、時折りこんなやりとりもあった。
それでも、わかりやすく丁寧な国見の説明によって、この数日で数学の理解度はかなり上がっていった。
再試験を翌日に控えた今日も、例の如く国見の部活前の時間に机を挟んで向かい合う。
きっと勉強を教えてもらえるのは、この時間が最後だろう。
クラスメイトたちはすっかり見慣れた光景なのか、絡んでくる生徒はいなくなっていた。
「………あの、これ…」
勉強が始まる前、名前が国見の目の前に小さな箱を置いた。
手のひらサイズのそれには『塩キャラメル』の文字。
それをみた瞬間、眠そうだった国見の瞳が開く。
「一週間、教えてくれたお礼」
「うお、マジか」
「好きだと聞いたので…」
「誰から?」
「友達のマオちゃんが、金田一君と同じクラスだから」
「そんなの、直接俺に聞けばいいだろ」
「……恥ずかしくて…」
「……食っていい?」
「もちろん」
国見はキャラメルの箱を開け、ひとつ取り出すと慣れたように包みを開いて口に入れた。
「うま」
いつも無表情の顔つきが、どこか綻んだように見え、名前は嬉しくなって笑った。
「苗字も食べなよ」
そう言って国見はひとつを名前の前に置いた。
「え、でも」
「あとは全部、俺もらうし」
そう言って残りが入っている箱を鞄へとしまう。
名前は机に置かれたキャラメルの包みを開け、遠慮がちに口に入れた。
「おいしい」
口内に広がる甘みに、つい笑顔になる。
「………」
と、不意に国見が手を伸ばしてきた。
名前の頬、キャラメルが入って膨らんでいる方を指先でツンと優しくつつかれる。
「!」
突然のことに驚いて固まる名前。
「っ……」
国見もすぐに我に返り、手を引っ込めた。
「ごめん、つい。何してんだ、俺」
「いえ……」
無意識の自分の行為に戸惑い、耳の後ろをかきながら目を逸らす国見。どこか、耳が赤い。
名前もまた、恥ずかしさから頬を染め俯いた。
触れられた頬が熱い。
顔中が、熱い。
ドキドキがおさまらない。
再試験前最後の勉強時間だというのに、この日は今までで一番集中できなかった。
ーーーーーーーーーー
再試験当日。
試験は放課後に教室で行われた。
80点以上が合格という条件で、名前の結果は——
「………」
71点。
ダメだった……
ひどく落ち込んだ。
少し迷ったが、これまで勉強に付き合ってくれた国見に結果を伝えるため、バレー部が活動をしている体育館へと向かった。
足が重い。
部活中に顔を出すなんて初めてだし、きっと男子しかいないだろうし、注目を浴びるのは嫌だ。
でも、忙しい時間を縫って教えてくれた国見へ、報告と感謝を伝えるのが礼儀だろうと思い、重たい足を運んだ。
体育館の扉に体を隠し、顔を半分だけ出して中を覗く。
驚くことにバレー部員たちは皆背が高く、教室ではいつも頭ひとつ出ていた国見だが、彼らに紛れてしまうとなかなか見つけられなかった。
「決めろ!国見!!」
探していたコートの隣のコートで誰かの声が響き、そちらへ視線を向けるとやっと国見を見つけた。
高く飛び上がり、上がったトスを打ち抜いて鋭いスパイクを決めたところだった。
「ナイスキー!!」
「国見ちゃん、ナイス!」
皆に囲まれた中央で嬉しそうに笑っている姿に胸が熱くなる。
ドキドキする胸をおさえ、扉の影に隠れてその場に座りこんだ。
頑張っているところ邪魔はしたくないので、このまま休憩時間まで隠れていることにした。
「よし!10分休憩!!」
キャプテンらしき人の声を合図に、ボールが弾む音が途絶え、部員たちの談笑する声が聞こえてくる。
名前は様子を伺うよう、もう一度顔を半分だけ体育館の方へ出した。
と、少しして金田一が彼女に気付き、目と目が合う。
何かを察した金田一は、横にいる国見の肩を軽く叩き、名前の方へと目配せした。
国見は名前に気付くなり、こちらに向かって歩いてくる。
つい、もう一度扉に隠れてしまった。
息をゆっくりと吐いて気持ちを落ち着けるが、ドキドキと脈打つ鼓動はおさまらない。
ひょっこりと国見が顔を覗かせた。
名前がぺこりと頭を下げると、国見は外へ出てきてくれた。
「気になってたんだよ。どうだった?」
突然押しかけたことを迷惑がられると覚悟していたが、意外にも優しい反応にホッとする。
名前は正直に再試験の用紙を差し出した。
「……せっかく教えてくれたのに、ごめんなさい」
そして、申し訳なさそうに小さく謝る。
「すげー。正直こんなに取れると思わなかった」
合格点には届かなかったが、国見は用紙を受け取りながら感心していた。
「やればできるんだから、これからはちゃんと授業に集中しな」
「はい」
「あと、次はわかんなくなる前に俺に聞けよ」
言いながら、テスト用紙を返される。
「また、教えてくれるの?」
「いいよ。キャラメルもらったし」
フッと笑みを浮かべる。
眉尻を下げ、どこか優しい表情で笑ってくれた。
「じゃ、俺戻るから」
コクンと頷くと、体育館内へ戻っていく国見を見送った。
ドクドクと心臓がうるさくて
おさえるように胸元でテスト用紙をくしゃりと握る。
嬉しくて緩む頬をおさえられなかった。
笑ってくれた。
初めてだ。
国見君が、私に向かって笑ってくれた。
