国見英と学校一の美少女【連載中】
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episode.06「なんかムカつく」
「国見君、おはよう」
「……おはよ」
国見は少し不思議に思っていた。
”学校一の美少女””高嶺の花””クラスのマドンナ”
そんなふうにいわれている名前が、ある日を境に毎朝挨拶をしてくるようになった。
そのこと事態はたいした問題ではないが、様子を伺っていると、声をかけるのは男子生徒の中では自分だけのようだ。
まぁ、席が近いし、一度だけ廊下で2人でよくわからない時間を過ごしたこともあるし、
懐かれたかな…?と、深くは考えないようにしていた。
高校生活にもすっかり慣れた。
中学に比べ勉強は難しくなり、部活も格段に厳しく、忙しくなったが、持ち前の要領の良さで問題なく過ごせている。
一学期の成績に繋がる期末テストも、どの教科も高い点数を取り、最後に返された数学も95点と高得点。
ま、こんなもんかな…と、返されたその用紙を手に席へ戻ると、風に煽られたのか、誰かのテストがヒラリと足元に落ちてきた。
それを拾いあげ、名前を確認すると”苗字 名前”の文字。
はっきりと見えてしまった点数に一瞬だけ固まる。
「あっ」
後ろの席で慌てたように名前が小さく声をあげた。
国見はそのテスト用紙をそっと彼女の机に置いて返した。
「数学、苦手なんだ」
馬鹿にしたわけではない。
ただ意外な点数に、率直な感想が口から出てしまっただけだ。
だが、目が合った名前は明らかにショックを受けたように顔が固まった。
やば、余計なこと言った。と、国見は焦った。
「ごめん」
ふるふる、と彼女は首を横に振る。
国見は前を向いて座り直したが、気のせいか、その後も落ち込んでるオーラが背後から流れてきている気がする。
「赤点のヤツは来週再試験な!そこで80点いかなかったヤツは夏休み3日間の補習だぞー」
先生のその言葉で、後ろの空気がさらに重くなったように感じた。
「再試もこのテストと同じ問題らしいから、これだけ完璧にすれば大丈夫だよ!」
授業後、名前の友達のユキが一生懸命彼女を励ましている。
彼女の点数を知っている国見は、一週間で80点以上を目指すのは結構厳しいんじゃ…と内心思っていた。
「ねぇ、国見君」
と、突然ユキから声をかけられたので振り返る。
「何?」
「名前に数学教えてあげて?」
「え、俺?なんで?」
「私はそこまで数学得意じゃないし、国見君、95点なんてすごすぎるし」
「見たのかよ」
「たまたま見えたの!」
突然のユキの提案に、当の名前本人は驚いて固まっている。
「一週間だけ!お願い!ね、名前」
ユキに促されるままに、名前は頭を下げた。
「……数学、教えてください」
国見は困ったように一度息を吐く。
こんな面倒なこと、いつもなら速攻断る。
でも、先ほどデリカシーのないことを言って傷付けてしまった後ろめたさがあった。
「……休み時間とか、少しだけでいいなら」
しぶしぶそう答えると
「ありがとう」
名前が嬉しそうに笑った。
滅多に見られない、自分へ向けられた笑顔はやっぱり可愛くて、柄にもなく気持ちが舞い上がる。
「……別に」
誤魔化すように顔を逸らした。
自分は意外と単純だったのかも、と思った。
ーーーーーーーーーー
早速、その日の放課後、部活が始まるまでの少しの間、数学を教えることになった。
国見が自分の席を跨ぐように後ろを向いて座ると、名前は緊張した面持ちで先ほどのテストとノートを開く。
「で、何がわかんないの?」
「……何がわからないのかも、わからない…」
「………」
「………」
「とりあえず、1問目から順にやってく?」
「よろしくお願いします」
そんな2人にすぐに気付いた男子生徒たちが騒ぎ始める。
「はっ!!?国見!!何してんだ、お前!!」
「まさか苗字さんに勉強教えてんのか!」
こうなることは想像できていたが、国見は無視を決め込んでいた。反応すればもっと騒ぎになるのは目に見えているから。
「苗字さんっ、俺の方が国見より優しく教えるよ!?」
ひとりのその言葉に名前は発言者と目も合わせずにふるふると首を横に振る。
「国見これから部活だろ?そしたら俺が代わるわ!」
別の男子の言葉にもまた、ふるふると首を振る。
「じゃあ明日は俺!!」
ふるふる。
頑固として折れないその様子に諦めたのか、彼らは「納得がいかない」と文句を言いながら教室を出ていった。
一問目から苦戦している名前を眺めながら、国見は考えていた。
ほんと、男と喋らないよな。
なぜか俺は喋ったことあるけど。
——嫌な思い、させちゃったかなって
——おはよう
——数学、教えてください
……どうして、俺には喋るんだろうな…
ただ、懐かれてるだけだとしても
どうして…俺だけ……
俺だけ……特別……?
「……っ…」
自分の勝手な考えに、急に顔が熱くなる。
”特別”ってなんだ。厚かましいにもほどがある。
そんなふうに考えてしまう自分が恥ずかしくてたまらない。
国見は熱くなった顔を隠すように頭を抱えた。
気付けばその様子を不思議そうに名前が見ていて、視線に気付いた国見は居心地が悪くなりながらも「何でもない」と一言答えた。
少しして部活へ行く時間が迫ってくると、金田一が国見を迎えに教室に入ってきた。
が、目の前の状況に挙動不審になる。
「わっ、えっ、ちょ…国見!?はぁ!?どういう状況だ?これ」
「ちょっと待ってて。この問題だけ」
「お、おうっ」
予想通りの反応に、国見はまるで愛犬に『待て』をするかのように金田一に手のひらを向け、落ち着かせた。
名前はその様子を見て、申し訳なさそうに金田一に頭を下げる。
「ごめんね?えっと……金田一君」
「っっっっっ!!!」
初めて聞いた名前の声、自分の名前を知ってくれていたこと、さらにはそれを呼んでくれたことに、金田一は声にならないほどに驚き、返事もできないほどに固まった。
国見はそんな彼の足を唐突に踏みつける。
「痛っ!えっ、なに!?」
「なんかムカつく」
「えー……」
喋るのは俺だけだと思ってたのに。
