国見英と学校一の美少女【完結】
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episode.04「少しわかった」
席替えをしたばかりの頃、教室内での国見はいかにも不機嫌な表情だった。
面倒臭いのは嫌いなのに、面倒な席になってしまったから。
窓際なのは、もちろん嬉しい。
が、後ろの席が、学校一の美少女といわれている苗字 名前。
途端、話したこともないヤツらが代わる代わる国見の席にやって来るようになった。
「苗字さんと何か話したか?」
「別に何も」
「何かあるだろ!!」
「後ろからいい香りしてくる?」
「わかんない」
「鼻炎かよ!!」
「筆箱忘れて、借りたりできるな!」
「忘れない」
「ノリ悪っ!!」
大抵はそうやって怒られたが、少しでも名前に関わるチャンスを作ろうと、彼らは懲りずに国見の元へやってきていた。
名前は隣の席のユキと仲良くなったらしく、彼女と一緒にいることが多い。
親友に代わり、クラスでは彼女が名前のボディガード役になっているように見えた。
ある日の休み時間、そのユキが慌てた様子で突然席を立つ。
「あたし今日、日直だった!日誌取ってくるね!」
「え、私も一緒に……」
「名前はほら、早く課題終わらせないと!次の授業だよ!」
「……わかった」
国見は背中越しに心細そうな名前の声を聞いた。
案の定、ユキがいなくなった途端、数人の男子が名前の席へとやってくる。
「苗字さん、課題やってこなかったの?」
「俺、手伝おうか?」
「俺も俺も!」
そんな男子たちの声は聞こえるが、当の名前の声は一度も聞こえてこない。
スマホで漫画を読んでいたが、自分の席の後ろでガヤガヤとうるさくされることに段々とイライラしてきた国見は席を立った。
振り返ると、数人の男子に囲まれている名前は困った様子で、誰とも目を合わすこともなくただノートに向かっている。
「……迷惑なら、そう言ったほうがいいよ」
思わず口をついて出てしまった。
顔を上げた名前と一瞬目が合ったが、国見はそのまま教室を出た。
背後から「何だ、あいつ」「クールぶってるよな」と男子生徒の嫌味が聞こえたが、別に気にしない。
1年の教室は校舎の一番端にある。
国見は廊下を進み、居場所を見つけたように突き当たりの壁に寄りかかるとスマホを出した。
やっと静かに読める…とホッと息を吐く。
それから、しばらく経った時だった。
「………」
名前がそこへやってきて、国見の隣で止まった。
彼と同じように壁に背を向けて、横に並ぶようにただ立っている。
「………」
俯いたまま何も言わない。
「………え、何?」
痺れを切らした国見はそう聞いたが、なかなか返事が返ってこない。
意味不明の事態に頭が混乱する。
急に来たかと思ったら、なんで黙ってんの。
困ったな。教室戻ろうかな。
この空気感に耐えられなくなり、国見がスマホをポケットにしまった時だった。
「ごめんなさい」
ポツリと、それはそれは小さな声で聞き逃しそうだった。
「え?」
国見は自分より30センチほど背の低い彼女に合わせるように背を曲げ、耳を傾ける。
「嫌な思い、させちゃったかなって……」
先ほどのことだろう。
まさか謝るためにわざわざ来たのか。
先ほどは男子に対してはっきりしない態度にイラつき、あんなことを言ってしまったが、律儀なところもあるんだ、と少し彼女を見直した。
「俺もごめん。態度悪かったよな」
国見も素直に謝ると、名前は俯いたままフルフルと首を横に振った。
「なんか…苗字って大変だね。俺のことは気にしなくていいから」
「ありがとう」
「あとさ、2人でいると色々面倒なことになりそうだから、そろそろ離れた方がいいかも」
「………」
「教室、戻ったら?」
「………」
またフルフルと首を横に振る。
「課題やってたみたいだけど、終わったの?」
そう聞くと、今度はコクンと頷いた。
教室に戻れば、またあの男子たちに絡まれると思っているのか、頑なに動こうとしない。
仲のいい友達も今はいないみたいだし、心細いのだろう。
しかし、廊下の一番端とはいえ、少し先にはたくさんの生徒たちがいる。
2人きりでいるところを見られでもしたら、どんな噂がたつかわからない。
国見は名前の反対側に移動して、彼らから彼女を隠すように立った。
幸い背の低い名前は、自分の影に隠してしまえば、覗き込まない限り見つかりはしないだろう。
「まぁ、ここにいたいなら、いていいけど」
そしてスマホを出して、再び漫画アプリを開く。
「………」
「………」
自分は漫画を読んでいるが、ただ横にいるだけで何をするわけでもない彼女が気になり、一度だけチラリと名前の方を見た。
と、視線に気付いた名前が、国見を見上げ笑顔を作った。
何を言うでもなく、ただ嬉しそうに。
瞬間、心がざわつく。
よくわからないけど、ひどく焦った。
が、平然を装いながらスマホへと視線を戻した。
それでも、漫画の内容が頭に入ってこないほどに、内心はずっと動揺している。
なにこれ。心臓、うるさ。
でも、今さらだけど
皆が騒ぐの、少しわかった気がする。
