京谷賢太郎を笑顔にしたい女の子【完結】
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episode.13「一番近くで」
黒板の文字を書き写してはいるけど、先生の話などほとんど入ってこない。
一日中、落ち着かない時間を過ごしていた。
我が校が誇るバレー部の皆が頑張っているのに、授業なんてやってる場合?と怒りのような感情まで芽生えてくる。
机の下で、賢太郎君が昨日握ってくれた右手を、反対の手でギュッと握る。
頑張れ。賢太郎君、頑張れ。
どうか会場まで届くように、祈り続けた。
ーーーーーーーーーー
『負けた』
賢太郎君からそうメールが入ったのは、私が学校から帰宅してすぐだった。
「はぁ……」
首が折れそうなほどに頭を下げて、落胆のため息が出る。
でも、すぐに顔を上げた。
私が落ち込んでいる場合ではない。賢太郎君はもっと辛いんだから。
『もう家?』
『市民体育館。帰る気になれなくて練習してた』
『今から行く』
着替える時間も惜しくて、制服のまま家を出た。
体育館へ着いて扉から中を覗くと、すぐに賢太郎君が気付いてくれた。
「ちょうど帰るとこだから待ってろ」
どれほど落ち込んでいるかと心配したけど、現れたのはいつも通りの賢太郎君で、拍子抜けしたのと同時にホッとした。
扉の横で待っていると、帰り支度を終えた賢太郎君が出てきたので、袋を手渡す。
「お疲れ様。ハミチキ、買ってきた」
「お、さんきゅ」
賢太郎君は袋を覗きながら唖然とした。
「お前これ、どんだけ買ってきたんだよ」
「お腹空いてるかと思って、ケースに並んでたの買い占めてきちゃった」
今の私がしてあげられるのは、これだけだから。
「迷惑な客だな」
そう笑いながら賢太郎君はひとつを手に取り、早速食べ始めた。
「試合、出られたの?」
「途中からだけど」
「すごい!よかったね!お疲れ様」
「でも、負けた」
いつものようにチキンを頬張りながら、さらっとそう言った。
「何本も、スパイクミスした」
「………」
「サーブでも狙われた」
「………」
「相手に煽られて、熱くなりすぎた」
「………」
だんだんと声色は暗くなり、悔しそうな表情に変わってくる。
やりきれない思いからか、チキンを持つ手は少し震えていた。
「俺がちゃんと1年の頃から部活に参加して、真面目にやってれば、絶対勝てた」
チキンを口に詰め込んで、空になった包みをグシャッと丸めながら、唇を噛む。
「…っ……」
「お前が泣くなよ」
その様子に、いつの間にか私の方が涙を流していた。
「ごめんっ…でも、頑張ってたの知ってるから……悔しくて」
賢太郎君の方が辛いのに
少しでも励ましてあげたくて会いにきたのに
嗚咽が漏れるほどに泣いてしまって止まらない。
「汗くせぇけど我慢しろよ」
「うぐ」
賢太郎君はそう言いながら、首にかけていたスポーツタオルを私の顔に押し付けるように渡してくれた。
「ありがとう。ごめん」
「帰るぞ。送ってく」
言いながら地面に置いていた鞄を肩にかける。
「え、大丈夫だよ?まだ明るいし、今日は疲れてるでしょ」
「うるせ。いいから行くぞ」
今日は賢太郎君は自転車ではなくて
いつもよりも長い距離を2人で並んで歩いた。
「………」
「………」
「悪かった」
会話なく、しばらくは私が鼻をすする音だけがしていたけど、それが落ち着く頃、賢太郎君が不意に謝る。
「え?」
「見せたかった。明日の決勝で勝って、全国行くとこ」
拗ねたように口を尖らせてそう言う彼を前に、私はまた涙腺が緩くなる。
「賢太郎君が謝ることなんて何もないよ」
涙が溢れ、再びグズグズと鼻水も出始める。
すれ違う人たちの視線が痛いけど、止められない。
「恥ずかしいからいい加減泣きやめ」
「ごめん……」
借りたままのスポーツタオルで顔を覆うようにして涙を拭う。
と、突然片方の手を握られた。
「!」
そのまま手を引かれたので、私はタオルから顔を出して賢太郎君を見上げる。
立ち止まり、向かい合って
真っ直ぐに見つめられた。
「好きだ」
「…っ……」
突然のことにびっくりして、言葉を失う。
「好きだ。名前」
再び、涙が溢れる。
「…っ…ずるいよ……」
こんなタイミングでの告白、本当にずるい。
泣かせにきてるようなものだもの。
握られていた指先を、さらに強く賢太郎君の手が包み込む。
「お前のこと、俺に構ってくる変な奴、とか、面倒くせぇって思ったりしたけど、結局こうしてお前といるのは悪くねぇなって思えるし」
後頭部をかきながら一生懸命言葉を並べてくれて
「昨日も大会前で情けねぇけど少しビビってて、お前の顔見たくなって…今日は負けてすっげぇ凹んでたけど、顔見れてなんか癒されて、ホッとしたっつーか……」
そして追い打ちかけるように、もう一度
「好きだ」
力強くそう言ってくれた。
「待たせて悪かったな」
全力で首を振って、私も真っ直ぐに賢太郎君を見つめた。
「私も、賢太郎君が好き」
繋がれていた手を引き寄せて、両手でギュッと握る。
「大好き」
それを、おでこを添えるように引き寄せた。
賢太郎君のもう一方の手が伸ばされ、髪に触れる。
慣れていない手つきで、頭を撫でてくれた。
まだ泣き跡の残る顔で、彼を見上げて笑った。
賢太郎君も、今までで一番の笑顔を向けてくれる。
その一瞬で、心と心が通じたように感じる。
「帰るぞ」
「うん」
その笑顔をこれからも一番近くで見ていたい。
私があなたを、一番笑顔にしてあげるから。
…fin
