京谷賢太郎を笑顔にしたい女の子【完結】
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episode.12「前日」
宮城県の代表決定戦を明日に控えて
『今、いつものコンビニにいる』
賢太郎君からそうメールが届いたとき、ポテチを食べながらボーッとテレビを見ていた私は勢いよく立ち上がった。
大きな大会を前に、最近は夜まで部活が長引いていると聞いたので、コンビニで会うことはめっきりなくなっていた。
それが今、初めて賢太郎君から誘ってくれた。
『すぐ行く!!』
返事をして、部屋着のまま家を飛び出した。
10月も後半。
昼間は過ごしやすい気候でも陽が落ち始める頃には気温も下がってくる。予想以上の肌寒さに手をこすりながらコンビニまでの道を急いだ。
賢太郎君はいつもの場所にしゃがんでいて、私に気がつくと軽く手を上げてくれた。
私も駆け寄って隣にしゃがみ込む。
「お疲れ様」
「おう」
「いよいよ明日だね」
「……おう」
「緊張してる?」
「いや、出るかわかんねぇし。出たいけど」
「応援行く」
「授業あるだろ」
「え、賢太郎君からそんなセリフが出てくるなんて意外」
そう言うと、賢太郎君の表情がフッと和らいだ。
明日のことを考えているせいか、表情が少し固かったことが気になったけど、それを見てホッとした。
「何かあったのかなって、ちょっと心配したけど、いつも通りで安心したよ」
「……やっぱ、本当はそれなりに緊張してる」
賢太郎君はチキンの包みを開きながら、チラリと私の方を見る。
「顔見たら落ち着くかと思った」
何気なく言われた言葉に心臓がドクンと跳ねた。
「……結果、どうでした?」
「効果ありだったな」
——すき
——そういうのは、男からだろうが
——もう少し待ってろ
あの出来事があってから、時々賢太郎君はこうして好意を見せてくれることがある。
ただの友達同士。付き合ってはいない。
でも、ふとした時に流れる甘い空気。
笑顔を見られた時と同じくらい、私は胸が高鳴って全身が熱くなる。
好きな気持ちが大きくなる。
「食うか?」
「いいの?ありがとう」
袋から出したチキンを差し出され、私はそれに顔を寄せて、いつかのようにパクリと噛みついた。
賢太郎君が中毒になるほどにこのチキンは美味しいはずだけど、今はあまり味がわからないくらい、ドキドキしてる。
「どうしても、そうやって食うんだな」
賢太郎君はあの時のようにブッと吹き出して笑った。
「うん、これが美味しい」
そう言って私も笑う。
賢太郎君が残りのチキンを食べ終える頃
真正面から冷たい風が通り抜けた。
「うぅ〜寒いっ!」
「風邪引くな。送ってく」
ーーーーーーーーーー
それは突然だった。
いつものように家までの帰路を並んで歩いて
いつものように私が一方的におしゃべりしていたとき
右手がふわりと包まれた。
賢太郎君は右手だけ自転車を押しながら、左手はしっかりと私の手を握っていた。
何事もないようにすました顔で、前を向いたまま歩き続ける。
私はそれ以上何も言えなくなって、おしゃべりはピタリと止まってしまった。
静かな空間に、自転車のタイヤが回る音と
時おり風に運ばれる枯葉の音だけが響く。
温かくて、大きい。
キュッと握ってみると、それより強い力で握り返される。
明日はこの大きな手で、たくさんボールを弾いて、たくさん活躍するんだ。
頑張って。
賢太郎君、頑張って。
本人に伝わるように、もう一度ギュッと握った。
「じゃあ明日、いい報告待ってるね」
「おう」
うちに着くとスッと手は離され
名残惜しく思いながらも笑顔で見送る。
小さくなっていく背中を見送った後、家に入った瞬間、力が抜けて玄関でしゃがみ込んでしまった。
手、繋いじゃった。
硬くて、熱くて、大きくて、強くて
とても優しかった。
その感覚を忘れないように、賢太郎君の左手に触れていた右手を、胸に抱く。
明日はいよいよ、代表決定戦。
頑張れ。
賢太郎君、頑張れ。
宇宙一、応援してる。
