京谷賢太郎を笑顔にしたい女の子【完結】
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episode.11「告白」
「名前、何?それ」
お弁当を食べ終え、屋上へ向かおうとする私が手に持つ袋を見て、ミサが不思議そうに聞いてきた。
「これ?バレーボール」
「バレーボール?」
「そう」
ふふっと笑ってミサに「行ってくるね」と別れを告げ、いつものように屋上へ向かった。
「じゃん!」
得意げに袋からボールを出すと、賢太郎君がちょっと嬉しそうに「おぉ」と反応をくれた。
「お父さん昔バレーやってたみたいでね、うちにあったの。昼休みのこの時間、賢太郎君の練習に付き合えないかなって」
「練習付き合うって、お前バレーできんの?」
「ううん、やったことない」
「………」
数メートルの距離をとって向かい合い、パス練が始まった。
賢太郎君があげたボールを私がレシーブで返し、また返ってくる…というのを繰り返すはずが、私はレシーブするどころかボールを腕にうまく当てることもできない。
「うわ!難しい!全然思ったところに飛ばない!」
「下手だな」
これじゃ賢太郎君の練習に付き合うはずが、ただ足を引っ張っている。
「お前はキャッチして、ただ俺に投げ返せばいいから」
「……ごめん」
私が山なりに投げたボールを賢太郎君がレシーブして返し、それをキャッチしてまた投げる、という練習方法に変わった。
これなら私にも相手をしてあげられる。
賢太郎君はどこに投げても、たとえ投げ方を失敗しても、必ず私が取りやすいよう、胸の前に優しめのボールを返してくれる。
すごい。やっぱりさすがだ、と感激した。
「いつなの?春高って」
「年明け。1月。来月の県予選で1位になれば出れる」
「宮城県の代表ってこと?」
「あぁ」
「すごい!」
「そうなればな」
「なれるよ!」
「そんな簡単じゃねぇよ」
パス練、すごい。
ボールを返しながらポンポンと、いつもより会話も弾んでいる気がする。
賢太郎君もボールに触れているだけで楽しそうだし。
ボール、持ってきてよかった。
「チームメイトとは?仲良くなれた?」
「………」
せっかく会話が弾んでいたのに、触れてほしくない話題だったのか、黙ってしまった。
「悩んでるの?」
「俺、チームスポーツ向いてねぇんだよ」
「……ふふっ」
「あ?笑うとこじゃねぇだろ」
「向いてないとわかっててもやめられないほどバレーが好きなんだな、と思って」
「………」
賢太郎君は一度ボールを脇に抱え、ベンチへ戻るとペットボトルの飲み物をグイッと飲み干した。
同じように私も隣へ行って水分補給をする。
「……もっとフェイントとか、軟打の練習しろとか言われてる。ネット際で競えるようになるために大事だってわかってるけど、俺は強打が打ちてぇ。そう言ったら監督にも周りのヤツにも変な目で見られた」
「賢太郎君らしい」
「………」
「まぁ別に、みんなと打ち解けなくてもいいんじゃない?」
「あ?」
「うちのバレー部って強豪なんでしょ?上手な人たちが集まってるんだから、ひとりくらい合わせられない人がいたってうまく対応してくれるよ」
「………」
「ほら、続きやろう!」
そう言って笑うと、賢太郎君も笑った。
「お前のそういうとこ、安心するわ」
前よりも格段に、笑った顔を見せてくれるようになった。けどその度に、まだ慣れていない私の心臓は大きく跳ねる。
貴重な笑顔に心を奪われていると、賢太郎君があげたボールが突然目の前まできて、対応する間もなく思いきり顔面に当たった。
「いたっ」
「あっ、わりいっ!」
賢太郎君はちゃんと「いくぞ」と声をかけてくれていたのに、ボーッとして反応に遅れてしまった。
「大丈夫か?ボケッとしてんなよ」
言い方は冷たいけど、心配するように近付いて顔を覗き込んでくる賢太郎君。
躊躇なく伸びてきた手が私の前髪をかきあげる。
おでこを確認して「なんともなさそうだな」とホッとしたように呟いた。
目と目が合って、動けなくなった。
いつもは鋭い瞳が、とても優しく感じられる。
ほんの一瞬、だけどすごく長い時間
見つめ合っているように感じられた。
距離の近さに体が焼けるように熱い。
呼吸もしづらいほどに、胸が苦しい。
「…………すき」
つい、口をついて出てしまった。
「………」
息を吐くような小さな声だった。
でも、絶対に聞こえた。
だって、賢太郎君の瞳が大きく揺れたから。
言っちゃった。
まさか、こんなにも簡単に告白してしまうなんて。
自分でも驚いて、動けない。
賢太郎君は力が抜けたように床に座り込んで、後頭部を乱暴にかいた。
「ほんっと、お前って……」
私も目の前に膝をついて、視線を合わせる。
今までで一番困らせてる。わかってる。
でも……
「ごめん……なんか、抑えられなくて……賢太郎君、私っ……ずっと、前から——」
「待て」
「!」
「それ以上言うな」
賢太郎君は私の口の前に手のひらを向けた。
「そういうのは、男からだろうが」
「っ………」
「………」
沈黙になって見つめ合う。
熱を帯びている賢太郎君の瞳から目が逸らせない。
どうしよう、どうしよう。
そんな言い方されたら、私……
何も言えないでいると、賢太郎君は手に持つボールに視線を落とした。
「ただ、もう少し待ってろ。春高終わるまでは、集中してぇ」
こんなにも真剣な表情の彼は初めて見た。
バレーのことも、私のことも、同じように真摯に向き合って、考えてくれている。
それが嬉しくて、なんだか泣きそうになって
誤魔化すように笑顔で立ち上がった。
「うん!うん、待つ!待つよ!」
賢太郎君もフッと笑って立ち上がり、私にボールを手渡す。
「投げてくれ」
「あ、そうだね!ごめん。やろ!」
それからは2人、何も言わなくて
ただ賢太郎君がボールをレシーブする音だけが屋上に響いていた。
賢太郎君、私、期待しちゃっていいよね。
賢太郎君も私と同じ気持ちだって。
きっと、今夜は眠れないくらい
あなたのことを考えちゃうよ。
