京谷賢太郎を笑顔にしたい女の子【完結】
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episode.06「立ち入り禁止」
知ってしまった。
普通の男の子のように、京谷君も笑うこと。
思い出して、頭から離れない。
私だけが知ってたらいいな、ってひとりじめしたくなる。
いつもは仏頂面な彼の笑顔は
ものすごく特別だ。
遠足後のテスト期間を終え、学校は通常モードに戻った。
こうなると、同じクラスといえど席も遠い京谷君とは、話す機会が無くなる。
ただでさえ京谷君はクラスメイトと関わろうとしないし、休み時間はふらりとどこかへ消えてしまう。
あの楽しかった遠足は夢だったのかと思うほど、現実はむなしいものだ。
来月はもう夏休み。
そうなれば、顔を合わすこともないだろう。
”関わりたくない”と思っていた人なのに
今は関わりたくて仕方がないなんて
恋って不思議。
「京谷君、教室だとやっぱり少し怖いね」
昼休み。
お弁当を食べながらミサがそう言った。
「遠足の時は、意外と話しやすいと思ったんだけど」と、続けた。
「私も、もっと話したいんだ」
つい本音が漏れると、ミサが嬉しそうに笑う。
「好きなんでしょ?」
「………」
「だと思ったー!だってすごくいい雰囲気だったもん」
「……そう思う?」
「思う!私、応援する!探しに行こうよ!早く食べて!」
ミサは突然お弁当の残りを勢いよく食べだした。
「今から!?」
「もちろん!」
ミサに釣られて、私もお昼ご飯を頬張った。
この子は時々ものすごい行動力を見せる。
それで片思いしていた中川君と付き合えたんだから、見習うべきことだと思う。
早々にお弁当を食べ終え、校内を回った。
他の教室、校庭の隅、中庭、体育館の裏
非常階段、図書室
どこにも京谷君の姿はない。
昼休みの終わりを告げるベルが鳴り、諦めて教室に戻ると京谷君は自席で居眠りしていた。
ーーーーーーーーーー
次の日も、昼休みになると京谷君はいつの間にか教室から消えていた。
早々にお弁当を食べ終え、ミサと校内を探し回った。
「……ねぇ、私さ、今ストーカーみたいじゃない?」
「恋をするってね、ほとんどストーカーみたいなものよ」
誇らしげだが、意味はよく理解できないミサの言葉を聞き流しつつ、普段はあまり立ち寄らない別棟の方まで行ってみたが、やっぱり今日も見つからない。
と、ミサが突然立ち止まった。
「屋上は?」
「屋上?」
「不良やヤンキーの人が時間を潰す場所といえば、やっぱり屋上でしょ。ほら、ドラマとかでさ」
「京谷君は不良でもヤンキーでもないよ。見た目がちょっとアレなだけ」
「あはは、ごめんごめん」
「それに屋上は立ち入り禁止で鍵がかかってるはず」
「そうだけど、念のため行ってみようよ」
ミサの言う通り、他に探す場所もないし、可能性は限りなく低いが行ってみることにした。
立ち入り禁止を意味するチェーンを跨ぐ時は、悪いことをしている罪悪感から胸がドキドキした。
自然と声を潜めて動きも小さくなる。
屋上へ出る扉に手をかけると、意外なことにすんなりとドアノブが回った。
「!」
「ビンゴ!」
ミサが小声でガッツポーズをした。
私は促されるまま扉を開き外へ顔を出す。
フェンス横のベンチで寝転がっている金髪頭が見えた。
「……いた」
小声でそう言うと、ミサがニッと笑顔になる。
「いってらっしゃい」
「私ひとり?」
「もちろんっ」
背中を押され、恐る恐る屋上へと出た。
扉の音に気付いたようで、京谷君が起き上がり怪訝そうにこちらを見る。
「……苗字?」
「あの……お邪魔します」
そっとそばへ歩み寄る。
京谷君がいつもより眉間の皺を一層深くしながら私を見上げる。
「ここ立ち入り禁止だぞ」
「京谷君だって」
出ていくよう言われるかと思ったけど、続いた言葉は意外なものだった。
「……座るか?」
「えっ、いいの?」
「出てけっつっても、お前聞かねーだろ」
「あははっ、そうだね」
やった!と、心の中でガッツポーズした。
京谷君が少しずれてくれたので、私は人ひとり分ほどの間隔を開けて隣に座らせてもらった。
足元にはコンビニの袋が転がっている。彼のお昼ご飯の残骸だろう。
初めて出た屋上。
以前は出入りが自由だったようで、そこかしこにこのようなベンチがいくつもある。
ただ清掃は行き届いてなく、あまり清潔とは言えない。でも気にするほど汚れてもいない。
高いフェンスに囲まれていて校庭までは見下ろせないが、下から聞こえてくる生徒たちの声が耳に心地良い。
ふわりと爽やかな初夏の風が通り抜ける。
なんとも落ち着ける場所だった。
「……気持ちいいね」
つい目を閉じたくなる。
「こんなとこ、何しに来たんだよ」
バツが悪そうに京谷君が呟いた。
「京谷君、昼休みいつもいなくなっちゃうから、どこにいるのかなって探してたの。で、もしかしたらここかもって、ミサが」
「すげぇな」
「どうやって入ったの?鍵は?」
聞くと京谷君はポケットから鍵を取り出して見せた。
「合鍵作った」
「えっ、すごいっ。どうやって?」
「職員室からパクって。一日くらいなくなってても気付かねぇし、鍵屋持ってったらすぐ作れた」
「………」
ミサにはああ言ったけど、やっぱり少し不良かも……
「誰にも言うなよ」
「……誰にも言わないから、私も時々来ていい?」
そう聞くと、視線を逸らしてポリポリと頭を掻く。
困っているような、面倒臭がっているような
そんな感じ。
「前に言ったじゃねぇか。俺に構うなって」
「私は仲良くなりたいって言ったでしょ」
「……見かけによらず頑固だよな、お前」
そう言うと京谷君はベンチを両足で跨ぐように仰向けになり、私の方へ頭を倒した。
さっきまで寝ていた格好だ。
「メシ食ったら俺寝るし、こんなとこ来たってつまんねぇぞ」
そう言って私に構うことなく目を閉じる。
膝のすぐ横に京谷君の頭があって、私はどんどん速くなる鼓動に戸惑っていた。
「……お昼はいつもここ?」
「雨の日以外な」
「じゃあ、明日も来る」
「………好きにしろ」
やっぱり、本当は優しい。
「……ありがと」
「ん」
そんなやりとりをした後、少しして隣から規則正しい寝息が聞こえてきた。
大きく開けた青空の下。
眠る京谷君。
私は動けずに、ただ流れる雲を目で追っていた。
2人きりの空間。
この上なく贅沢な時間だった。
好き
って言ったら、京谷君はどう思うかな?
どうか、笑ってくれますように。
