岩泉一にフラれた女の子【連載中】
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episode.02「再会」
4月。
青葉城西高校3年5組。
「顔馴染みもいるだろうが、新しいクラスになったことだし、1人ずつ自己紹介でもしていくか!名前と、何か一言な!」
「「「げぇー……」」」
始業式を終えて教室に戻ると、担任からの提案によりひとりずつ名乗っていくことになった。
出席番号順となると、岩泉の番はおのずとすぐに回ってくる。
「岩泉一。バレー部だ」
なんとも淡白な自己紹介に対して、名前だけがクラスで唯一胸を高鳴らせていた。
本当に……本物の″はーちゃん″だ。
同じ高校にいることは、入学してすぐに気付いていた。
彼は強豪といわれるバレー部で活躍しだして有名だったので、何かと目立っていたし、顔付きは幼稚園の頃の面影がしっかりと残っていたから。
でも、これまで同じクラスになることはなかったし、話しかけることはしなかった。
もう10年以上も前のことだ。
覚えてるのは、きっと私の方だけ。
もしうっかり「はーちゃん」と声をかけてしまったところで、「誰だ?お前」となるのは目に見えていたから。
それに彼はどう見ても生徒たちから一目置かれる存在で、私はと言えば、友達も多くはない目立たないひとり。
気軽に話しかけられる存在ではない。
でも、それでいい。
私はただのクラスメイトのひとりとして、彼と同じ教室にいられるだけで。
彼からただ”同じクラスの女子”と認識してもらえるだけで、十分だ。
「苗字名前です。あの…よろしくお願いします」
机に頬杖をつきながら、クラスメイトたちの自己紹介を聞いていた岩泉だったが、その名前に反応して、顔を上げて名乗った本人を見た。
その横顔は、見たことがあるような、ないような。
苗字 名前……?
どっかで……
——はーちゃん……
不意に、幼稚園の頃の記憶が蘇る。
顔もうっすらとしか覚えていない女の子。
ギュッと手を握られたことは覚えている。
最後に泣かせてしまったことが、ずっと気がかりだったあの女の子だ。
「まさか、な……」
小さく呟いて、岩泉は再び前を向き、机に頬杖をついた。
ーーーーーーーーーー
勘違いかもしれない。
しかし、そんな気がしてならない。
モヤモヤと曖昧なままにすることは性に合わず、部屋の押し入れに詰め込まれているものを片っ端から引っ張り出す。
そして見つけた。幼稚園の卒園記念アルバム。
クラス一人ひとりが載っているページを指でなぞりながら探す。
あの日泣かせてしまった女の子を見つけて、名前を見た。
苗字 名前
やっぱり、あいつだ。
「………」
アルバムを投げ出し、岩泉はベッドに顔を埋めるように倒れ込んだ。
記憶が蘇る。
ガキの頃、ヒーローに憧れていた。
悪いヤツらから弱い立場の人を守る。
強い敵にもひるむことなく立ち向かっていく。
そんな姿がカッコよく見えて
ヒーローになりたかった。
あいつは毎日のように泣かされてて、ヒーローなら守ってやらないといけないと思った。
でも俺は、ずっとあいつのそばにいられるわけではないことを知った。
あの時はそのことが無性に悲しくて、悔しくて
こっちのそんな気持ちも知らずに
——だいすきだよ
無性に腹が立った。
——あっちいけ!ブス!!
本当は、そんな言葉を言いたかったわけじゃない。
ただ”強くなれ”と言いたかっただけだ。