岩泉一にフラれた女の子【完結】
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episode.15「11年の時を経て」
小さくて、柔らかい。
潰してしまいそうなほどに、弱々しい。
でも、また手にしてみたい……
そんな感覚は初めて知った。
「岩ちゃん、また今日も調子悪かったね」
次の日の部活帰り。
隣でヘラヘラと笑う及川の横で、ポケットに手を突っ込み不貞腐れながら歩いている岩泉。
「ほっとけ」
「昨日、あれから苗字ちゃんと何かあった?」
ギク。
という効果音が聞こえた。
「特に何もねぇよ」
嘘が下手だなぁ、と及川は苦笑した。
「苗字ちゃんと付き合うことになったとか?」
「んなわけねぇだろ」
「どうして?もう付き合ったらいいのに」
「しつけぇ」
「二人がいい感じだってこと、及川さんはお見通しなんだからね」
「今はバレーだろ。女とかいらねぇ」
「そんなこと言ってるうちに、誰かに取られても知らないから」
「っ……」
「想像した?嫌でしょ?」
「んなことねぇ。それに、俺がどうこう言う立場じゃねぇんだよ」
「岩ちゃんの頑固者」
「女なんか作ったらバレーに支障きたすだろ」
理解のない岩泉にいい加減嫌気がさし、及川は立ち止まって声を大きくした。
「あのさ!もう支障きたしてんの!わかんないの!?」
「あ?」
「あの子が現れてから調子にムラがすごいの!自覚してんでしょ!?」
「………」
「えっ、まさか気付いてなかった?この状態が良くないんでしょ!もうはっきりさせてきなよ。岩ちゃんらしくない!」
「………」
「聞こえてますかー?」
「サンキュ、及川」
岩泉は及川の肩に手を置くと、何かを思い立ったように走り出し、行ってしまった。
「……え!まさか俺、初めて岩ちゃんにお礼言われたんじゃ……」
向かう先は名前の家。
全力で走りながら、これまでの自分の気持ちと向き合った。
″誰でもいい″とか言ったくせに、あいつの好きな相手ばかり気にしてた。
それが俺だと知ったときは、なぜかホッとした。
顔合わすたび、こいつまだ俺を好きか?って心配して
まさかもう気が変わって……とか考えて、不安になった。
気持ちに応えなかったくせに、勝手だった。
昨日は
——どうしてもはーちゃんに会いたくて
驚いたと同時に、すげぇ安心した。
俺もこいつに会いたかった。素直にそう思った。
とっくに惚れてたんだ。
今さら気付くなんてな。
クソだせぇ。
ーーーーーーーーーー
「付き合ってくれ」
インターホンを押し、家から出てきた名前に向かって岩泉は息を切らしながらそう告げた。
「え?今から?えーっと……どこに?」
名前は、まさか告白だとは微塵も思っておらず、突然の誘いに慌てた。
携帯で時間を確認したり、部屋着である自分の身なりを気にしている。
「そうじゃねぇ」
「?」
ふぅー、と大きく息を吐いて整え、ゴクンと唾を飲む。
「まだ気持ち変わってねぇなら、俺の彼女になってほしい」
真っ直ぐに目を見据えて、堂々とした告白だった。
「………」
思いもよらない事態に、名前はポカンと口を開けたまま動かない。
「聞こえたかよ。俺と付き合ってくれ」
両手で口元をおさえ、瞳は今にも泣きそうなほどに潤む。
言葉が出ず、何度もコクン、コクンと頷いた。
その様子に岩泉はフッと笑顔になる。
「バレーのことしか考えられないとか言ったけど……お前のことばっか考えてた」
「えっ……」
「それに、お前とちゃんとした関係を築いた方が、バレーにも集中できるって気付かされた」
「………」
「まぁ、そんな御託はどうでもよくて」
岩泉は手を伸ばし、名前の手を取る。
「好きなんだよ」
夢なんじゃないだろうか。
すごく都合のいい夢。そして残酷だ。
名前は、突然岩泉が家の前に現れてから、現実に頭が追いつかなくて、そんなことばかり考えていた。
でも、岩泉の掌はとても熱く、力強くて
これはちゃんと現実なんだと感じた。
「ありがとう」
実感して、やっと言葉が出た。
同時に涙も溢れてくる。
片思いが、ずっと続いていくと思っていた。
これは出口のないトンネルだから、彼が私に振り向くことはない、って。
それでも、笑ってくれたり、家まで送ってくれたり、抱き締められたり…
淡い期待は捨てられなくて、トンネルの先に小さな光を探してしまっていた。
本当は、どうか私を好きになって欲しかった。
「好きになってくれて、ありがとう」
自分よりも大きな手を
11年前よりもたくましくなった手を、強く握る。
「はーちゃん、大好きだよ」
…fin
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