岩泉一にフラれた女の子【完結】
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episode.10「告白」
校庭の隅。
サッカー場の横で並ぶ2人の影。
部員たちのかけ声が響く中、2人の周りだけがやけに静まり返っているように感じる。
「サッカー部なのか?お前の好きなヤツ」
岩泉はシャツの胸元を引っ張って頬を流れる汗を拭きながら、唐突にそう聞いた。
「え?ち、違うよ」
名前の返答が意外だったのか、少し驚いた表情で彼女を見る。
「かなちゃんの彼氏がサッカー部なの。ほら、あの人。ミッドフィルダーって言ってたかな?なんか、司令塔?なんだって」
「……あいつ彼氏いるのか」
「今日は他校との練習試合があるから一緒に応援しようって、誘われたの」
岩泉は突然、その場にしゃがみ込んだ。
名前も釣られるように隣にしゃがみ、岩泉の顔を覗き込む。
「あの…どうかした?」
「また勘違いした」
カッコわり……と呟きながら髪をくしゃっとかくと、そのまま名前の顔を見る。
「じゃあ誰だよ」
「えっ……」
「なんか妙に気になっちまってよ」
「………」
「バレーに集中できねー」
ドクンドクン、と名前の心臓はさらにうるさくなる。
はーちゃんは、ずるい。
そんな言い方……
好きな人が自分の好きな人を気にしてくれるなんて、変に期待しちゃう。
はーちゃんの気持ちが私に向いていないことくらい、わかってるのに。
期待させないでほしいのに。
「まぁ本当に言いたくなきゃいいけどよ」
名前は、パタパタと首元を揺らして体を仰ぎながらそう言う岩泉を恨めしい目で見る。
——こういうことに関しては岩ちゃんは本当に鈍感だから
いつか及川に言われた言葉を思い出した。
そうだ。少し無神経なところも彼らしいといえばらしいが、全く自分を意識してくれない態度にだんだんと腹が立ってくる。
岩泉のことを少し困らせてやろうと思いはじめる。
ゴクン、と唾を飲む。
名前は突然、覚悟を決めた。
「……はーちゃんだよ」
言ってしまえ、とそう思った。
「………あ?」
「私が好きなのは、はーちゃんだよ。他にいると思う?」
「………」
予想だにしていなかったようで、岩泉の表情は固まった。
真っ直ぐにその目を見つめる。
どうか、これっぽっちも私にも恋愛にも興味のないはーちゃんが、少しくらいは意識してくれますように。
そんな願いを込めて。
「はーちゃんのことが好きです」
サッカーの試合で盛り上がる部員たちと観戦する女子たちの声援が急に遠くに感じる。
少し震えた小さな声が、しっかりと岩泉の耳へと届いた。
「……えっと…幼稚園の頃の話か?」
「違う。今も、だよ」
「………」
混乱し、何と返していいのか迷って言葉に詰まる岩泉に、名前は笑顔を向けた。
「困らせてごめんなさい。はーちゃんが私のことをそんなふうに思ってないってちゃんとわかってるから…その……気にしないでね」
「……悪い。今はバレーのことしか考えられないっつーか……」
「……それもわかってた」
「………」
「………」
少しの沈黙の後、岩泉は深く折り曲げた両膝に手をつき、足の間に頭を下げた。
「無理に聞き出したりして最低だった。ごめんな」
「……いいよ。顔あげて?」
静かに顔を上げた岩泉は気まずそうな表情のまま、耳まで真っ赤に染まっている。
それを見ると、今になって名前の方も恥ずかしくなり、同じように赤面した。
言ってしまった。
告白するつもりなんてなかったのに。
あまりに突然だし、きちんとした言葉を用意することもできなかったけど
こんな顔のはーちゃんを見られるなら、言ってよかったかも。
これから少しくらいは、私を意識してくれるだろうか。
「あの……バレーの邪魔をする気はないし、彼女にしてほしいとか、そういうことは言わないから……迷惑じゃなかったら、これからも好きでいていいでしょうか」
もじもじと恥じらいながら、だんだんと小さくなる声で名前がそう言うと、岩泉は少し考えてから答えた。
「迷惑だなんて思わねぇけど、時間の無駄になるかもしれねーぞ」
申し訳なさそうにそう言った。
変に期待を持たせる方が傷付けると思ったからだった。
「っ……」
名前の表情は途端に暗くなる。
「っ…わりいっ!」
「いいのっ、大丈夫。はっきり言ってくれたほうがいいから」
俯いてしまった顔は髪で隠れて見えないが、そのかすれた声質から泣きそうになっているのがわかった。
「もう行って?早く戻らないと、怒られちゃうよ」
「……おう」
それ以上は言葉が見つからず、岩泉は仕方なく立ち上がり、名前を残してその場を離れた。