その笑顔に導かれ/エース
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それから3日に一度、買い物帰りにエースと会う日々が始まった。
「よォ!ミドリ!」
噴水広場へ行くと、待っていたエースはいつもそうやって片手を上げた。
その瞬間が、私はとても好きだった。
海岸でひたすらおしゃべりを楽しんだ時もある。
——エースはどうして海賊になったの?
——おれの名を世界に知らしめて、見返してやるんだ
その言葉が印象的だった。
エース専用だという小型船に乗せてもらい、海へ出た時もあった。
大海原の真ん中で、世界に私たち2人しかいないような不思議な感覚になって、この時間がずっと続けばいいと、こっそりそう思った。
船へ遊びに行くうちに、彼の仲間たちとも少しずつ打ち解けてきた。
商店街で買い物を手伝ってくれたり、エースが子どもたちと遊んでいる姿を傍で見ているだけの日もあった。
それだけでも、私にとっては尊く大事な時間だった。
会うのはいつも、私の買い物帰りの1時間程度。
毎回「家まで送る」と言ってくれるエースの申し出を断ることを心苦しく思いながら、噴水広場で別れた。
こうして隠れて海賊に会ったりして、旦那様や奥様に後ろめたい気持ちがないわけではない。
けど、好奇心を抑えられない。
好奇心だけじゃない。
エースに会いたい。
今だけ。
彼がこの島を出たら、ちゃんと真面目な使用人に戻るから。
今だけは彼との時間を私にください。
心の中で、いつもそう謝罪していた。
ーーーーーーーーーーー
一ヶ月が過ぎる頃
「もう街へは行くな」
突然旦那様から呼び出され、静かに叱咤される。
こうなることは予想していた。
以前よりも買い出しからの帰りが遅い、と
奥様が私のことをそう気にかけていたのはわかっていたから。
「お前が妙な男といるところを見かけたと街の者から聞いた。住む場所を失いたくなければ、うちの恥を晒すな」
「申し訳ありません……」
「あなた。ミドリはやるべきことは抜かりなくきちんとやってくれているわ。少しくらい自由な時間があったって……」
「相手が海賊でもか?」
「海賊!?」
奥様は驚いた声をあげた。
「か、海賊と言っても、彼らはとてもいい人たちで……」
「………」
「………」
旦那様の冷たい視線と驚きを隠せない表情の奥様を前に、それ以上弁解することを諦める。
「しばらく屋敷から出るのは禁止だ」
「……承知しました」
それからは、3日一度、旦那様が雇った男性が必要なものを屋敷に届けてくれるようになり、買い出しの必要がなくなった私は屋敷から出られない生活が始まった。
ーーーーーーーーー
屋敷の庭を掃除しながら空を眺める。
あの日、スペード海賊団の船の上から見た空は全然違った。
果てがなく、どこまでも広がっているように見えたけど、今私の上にある空はとても小さい。
同じ空のはずなのに。
もう2週間以上、ここから出ていない。
本当なら5回もエースと会えたはずなのに。
そうやって数えている自分にも虚しくなる。
まさか今も、彼は3日に一度あの噴水広場で私を待ってくれているだろうか。
いや、もしかしたら、もうこの島を出ている頃かも。
そうだとしたら、もう二度と会えないんだ。
さよならも、ありがとうも言えなかった。
できることなら、別れる前に
もう一度、あの笑顔で私に笑いかけてほしかった。
「…っ……」
気付いたらポロポロと涙が溢れ、慌てて袖で拭った。
こんな思いするなら、あの日海岸になんて行かなきゃよかった。
あなたのことは新聞で見ているだけの方がよかった。
後悔したってどうしようもない。
どうしようもないほど
私はあなたに恋焦がれている。