その笑顔に導かれ/エース
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3日後。
——じゃあその日に、おれはここで待つ
エースはああ言っていたけど、半信半疑のまま、私はいつものように買い出しを終えた。
「……きっと、いないと思うけど…」
誰に言うでもなく、自分にそう呟き
噴水広場を通りながら帰ることにした。
「おいエース!ズルはなしだぞ!」
「ズルなんかしてねェよ!悔しかったら取ってみろ!」
すぐに見つけた。
ボール遊びをしている子どもたちの中に、彼の姿がある。
まさか本当に…私を待ってた?
でもこの状況、ただ子どもたちと遊んでいるだけのようにも見える。
「お!来たか!」
エースは私に気付くと嬉しそうに手を上げ、こちらに駆け寄ってきた。
やっぱり今日も笑顔が眩しい。
「あ!逃げるのか!?エース」
「今日は終わりだ。また今度な!」
後ろで子どもたちが口々に文句を言っているが気にする様子もなく、エースは私の持っていた買い物カゴを手に取った。
「今日は時間あるか?」
「えっと、少しだけなら…」
「じゃあ来い。船の中を見せてやる」
「えっ!」
嬉しさのあまり、大きな声が出てしまうと、エースは楽しそうに大口を開けて笑った。
「海賊が好きなら船内を見たいだろうと思ったんだ。来い」
エースに続いて海岸へと向かう。
この間は医務室しか入れなかったけど、エースの言うとおり、本当は船内をもっと見てみたかった。
旦那様に内緒でこんなこと、よくないと考える自分もいる。
でも、時間までに帰れば大丈夫。そう自分に言い聞かせた。
「足はどうだ?もう歩けてるみたいだな」
「痕ももう消えてきてます。あの薬がよく効いて」
「デュースは腕のいい船医なんだ」
得意げに歯を見せるエースの笑顔に、こちらまで頬が緩んだ。
ーーーーーーーーーー
今日は各々好きなように行動しているようで、船には船番の人がひとり残っているだけだった。
操舵室に測量室、弾薬や武器の格納庫
ダイニングキッチン、バスルームに洗濯場
船員たちの寝室まで、エースは船内の全ての部屋を見せてくれた。
想像でしかなかった海賊の生活をその目で見ることができて、胸はずっとドキドキと高鳴っている。
「やっぱり無理かも!高すぎる!」
「大丈夫だ。落ちてもおれが受け止める」
「落ちるとか言わないで!怖い!」
「下は見るな」
最後に一番高い見張り台へと登らせてくれたけど、足がガクガクと震える。
私が「怖い」と叫ぶたびに、すぐ下を登ってくるエースは笑っていた。
やっとの思いで登った見張り台からの景色は、一番心が震えた。
海がこんなにも広いことを私は知らなかった。
ゆっくりと流れる雲。
ふわりと通り抜ける風。
どこまでも続く水平線によって交わることのない海と空の青。
何度でも深呼吸をしたくなる。
いつまでも見ていたい景色だった。
「今日は夕焼けも綺麗だろうな」
ポツリとエースが呟いた。
夕焼け。見たい…
けど……
「……そろそろ帰らないと」
「……そうか」
見張り台を降りて、船を降りて、林を抜けるところまでエースは荷物を持って送ってくれた。
「ありがとう。すっごく楽しかった」
「おう!」
エースから買い物カゴを受け取り、お礼を伝えて別れた。
今まで経験した中で、一番素敵な時間だった。
本音を言えば、もっとあの場所にいたかった……
——と、突然手を掴まれる。
「!!」
振り返ると、追いかけてきていたエースに手を握られていた。
「まだ、名前聞いてねェ」
いつも飄々としているエースが、少し焦っているように、真剣な顔付きでそう言うから
私も彼の方へ向き直って、真っ直ぐに目を見つめて答えた。
「ミドリ」
少しの時間、視線と視線が交わる。
私の手を包み込む一回り大きな手に、更に強くギュッと握られる。
掌が熱い。
胸が熱い。
「ミドリ、またな」
最後にニッといつもの笑顔を見せて、エースは背を向けて林の中に消えて行った。
手を離されたことが、寂しいと思ってしまった。
すごくドキドキする。
このドキドキは、海賊船を見た時とも
広大な景色に感動した時とも違う。
エースへのドキドキ。