その笑顔に導かれ/エース
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「家はどっちだ?」
エースの足であっという間に林を抜ける。
「もう降ろしてください。ここから歩きますから」
「このまま行った方が早ェだろ。家まで送ってく」
「……気持ちはありがたいですけど…雇われている身なので、詳しい場所は…」
「そうなのか」
彼らのことは信用できそうだけど、海賊に送ってもらったりしたら、きっと奥様に心配をかけてしまう。
何より、仕事をサボって海賊を見に行っていたなんて、旦那様に知られたら叱られる。
「じゃあ、ここまでな」
エースは商店街の外れにある噴水広場で降ろしてくれた。私が先ほど休憩していた場所だ。
「ありがとうございます。助かりました」
「また会えるか?」
「えっ……」
「おれたちはログがたまるまでこの島にいる。また会えるだろ?」
「えっと……自由に出歩ける身ではないから…街へ出るのも買い出しの時だけで……」
「次に街へ来るのはいつだ」
「3日後です」
「わかった。じゃあその日に、おれはここで待つ」
「え……」
「またな!」
エースは軽く手を上げると、行ってしまった。
……やっぱり変な人だ。
ーーーーーーーーー
「ただいま戻りました!遅くなり申し訳ありませんっ」
足を少し引きずりながらやっとの思いで丘の上の屋敷へと戻った。
旦那様の車はなく、間に合ったことに安堵する。
奥様はやはり心配してくれていたようで、車椅子で玄関先まで出てきてくれていた。
「ミドリ、よかったわ。心配して……まぁ!どうしたの?その格好。びしょ濡れじゃない!スカートも破れているし」
「すみません……」
奥様に″海賊″という言葉は伏せて事情を話した。
街でボヤ騒ぎがあり、スカートに火が燃え移ったため、やむを得ず水を浴びたこと。
火傷は医者に手当てしてもらった、と。
少しして帰宅した旦那様にも同じ説明をし、事なきを得た。
——夜。
部屋の机に置かれたままの新聞にはエースの記事。
こうして見ると、先ほどまで一緒にいたことが嘘のように思えてくる。
変な人だったけど
「……いい人だったな…」
生きてる世界が違う、手の届かない存在。
新聞を通して一方的に知った彼らのことを、そんなふうに思っていた。
だから、今日のことは夢のようだった。
ヒリヒリと痛む足が、夢ではないと教えてくれる。
思い出すと、まだ胸がドキドキする。
彼の笑顔は、私には眩し過ぎるほど光って見えた。
——また会えるか?
エース。
私も、またあなたに会いたい。