その笑顔に導かれ/エース
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「海賊が好きなのか?」
話を聞いていたエースが笑顔を向けて聞いてきた。
ストレートな物言いにドキッとする。
″海賊が好き″
悪党のことをそんな風に思うなんていけないと思っていたから、今まで言葉にはできずにいた。
「えっと、好きっていうわけじゃ…」
そして今も、素直に認める勇気はない。
「でも、船に来てから楽しそうにしてるよな」
図星を突かれて再びドキッとする。
確かにこの船は、今まで想像の中でしかなかった海賊の暮らしを感じられて、正直ずっと胸が高鳴っている。
自由に動き回れたら、ゆっくり隅々まで見て回りたいほどだ。そしてこの船で旅をする皆とも話をしてみたい。
「好きなんだろ?」
この人の呑気な笑顔は、ごちゃごちゃと考えるのがバカらしく思えてくる。
私は観念して、コクリと頷いた。
「あなたたち海賊はいつも予想外の事件ばかりで、新聞でそれを読むのが楽しくて。この広い世界にはこんな面白い人たちがいるんだ、って、毎日刺激をもらってます」
「お前、退屈してるんだな」
「……そうですね。海賊に比べたら、私の生活なんてつまらないものなのかも」
「………」
「おら、薬塗るから氷どけろ」
薬を手にしたデュースがエースと場所を変わった。
赤く腫れた箇所に薬が塗られ、ガーゼを重ねて包帯が巻かれた。
手際よく両足の処置が終わるころ、突然医務室の扉が開く。
「一応着替えを持ってきたけど、あたしの服じゃ大きいかね。風呂も入っていくかい?あ、その足じゃ無理か」
頭にバンダナを巻いた恰幅のいい女性が顔を覗かせている。
女の人もいるんだ…
それに、船にお風呂もあるなんて…入ってみたい。
でもさすがに今日は…
あれ?って言うか、今何時?それに私の荷物は……
「やば!!」
海賊船と目の前の海賊たちに浮かれて、自分の仕事をすっかり忘れていた。思い出した途端、血の気が引いて顔が青ざめる。
時計を見ると、旦那様が仕事から帰ってくる時間が迫っていた。
買い出しからの帰りが遅くて、奥様も心配している頃だろう。
「私の荷物!!」
「ここにあるぞ」
エースは私だけでなく荷物まで運んでくれていたようで、ホッと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます!帰ります!!お世話になり…っ痛ぁ!!」
ベッドから焦って降りると、足にズキンと痛みが走る。動かせないほどではないが、いつものように歩くことは難しい。
と、ふわりと体が浮いた。
「急に忙しねェヤツだ。とにかく家に送ればいいんだな?」
再びエースの肩に担がれる。
「降ろしてください!歩けますっ」
この態勢、結構きついし、何より恥ずかしい。
お姫様抱っこ、とまでは言わないけど、せめておんぶとかさ…
「急いでんだろ?大人しく運ばれろ」
「………」
「ちょっと待ちなよ。髪も服も濡れたままよ?」
「でも、早く帰らないと……」
「薬を持ってけ。ちゃんと毎日塗れよ?」
「ありがとうございます」
「お大事にね〜!」
エースが持つ私の買い物カゴに、デュースは薬を入れてくれた。
わざわざ用意してくれた着替えを手に持ったまま、女の人も優しく笑って手を振ってくれる。
なんていい人たち。
これが本当に海賊?