その笑顔に導かれ/エース
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「ちょっと!降ろしてください!大丈夫なので!」
「遠慮すんな!すぐ治してもらえるからよ!」
私を肩に担ぐように片腕で抱え、停泊している船へと走った。
林がどんどん遠ざかる。
無理やり顔を前方に向ければ、目の前には大きな船。抵抗することも忘れて言葉を失った。
真っ黒の帆に、赤いスペード。その真ん中にドクロのマーク。どうやらこれが彼の船らしい。
自分には一生縁のないものだ、と夢にまで見た″海賊船″が目の前に。
恐怖がないわけがない。
でも、海賊船の中に入れる。
そのことが私の恐怖を打ち消す。
それになんだか、この人に害はない気がする。
甲板から乗り込むが、船内に人影はない。
振り返り、林の方を見るとほとんど炎は消えていた。
「まだ誰も戻らねェか…」
ポツリと呟きながら、私をゆっくり床へと下ろす。
改めて彼のことをよく見た。
上半身には何も身につけておらず、癖のある黒髪にテンガロンハット。首元の赤い数珠にそばかす。
なんとなく見たことがあると思ったら、昨日の新聞で見た”D”の人。
名前は確か……
「……火拳の…エース?」
その名を口にすると、彼は驚いたように私を見て、すぐにまた嬉しそうに笑う。
「おれを知ってるのか」
やっぱり!本人なんだ!
私の目の前にいるのは本当に、本物の″海賊″
「新聞で見ました…」
「そうか。おれもいよいよ有名人だな」
「そうですね。新聞に載るくらいですから。でも、まさか本物に会えるなんて……」
思わず手を伸ばし、その頬に触れる。
すごい、私、今″海賊″に触ってる。
ペタペタと感触を確かめるように、両手で頬を包み込んで触る。
と、彼はうっとうしそうに顔を歪めた。
「やめろ、くすぐってェ」
「あ、ごめんなさい…」
慌てて手を離す。
調子に乗った。
海賊相手に失礼なことをしてしまった。殺されていてもおかしくない。
でもなんだか彼は…エースは、ちっとも怖いと思わない。
「おいエース!そいつはなんだ!?」
と、林の炎を消し終えた仲間たちが戻ってきたのか、1人の仲間が船の下から声をかけてきた。
「デュース!すぐ診てやってくれ!火傷させちまった!!」
「なんだと!?」
デュースと呼ばれた彼を先頭に、次々と仲間たちが甲板へと上がってくる。
先ほどまで、あの大勢の海賊たちと戦っていた彼らだ。少人数ではあるが、目の前で見るとその迫力に圧倒される。
「その子、まさか林にいたのか!?」
「もう!エースったらやりすぎなのよ」
「加減しろっていつも言ってるだろうが」
「その通りだ。怪我させちまった…」
口々に叱られ、エースはしょんぼりとうなだれる。
仲間たちに怒られてるけど、この人、船長なんじゃ……
「さっさと連れて来い!」
デュースは船内へ続く扉を開けると、足早に中へ進む。エースは再び私を抱えて彼に続いた。
きっと、彼がこの船の医者なのだろう。
広くはない通路にいくつか扉が並んでいる。
開け放たれたままの扉の向こうを通りすがりにチラリと覗くと、一瞬だけど机の上に地図やコンパスなどが目に入った。
また別の部屋は食事をする場所のようで、キッチンが見えた。
彼ら海賊の生活が垣間見えた気がして、足の痛みなど忘れるほどに胸が躍った。
一番奥の扉が医務室らしく、入った瞬間に薬品の匂いが鼻をつく。
「すぐに冷やすぞ」
「おう」
「あの…お、お願いします」
ベッドに降ろされ、スカートの裾を上げて足を見せる。両足とも火傷を負ったが、右足が特にひどく、膝から足首にかけて広い範囲で赤く腫れている。
デュースは両足に氷水を入れた袋をあてがうとエースに抑えておくように指示をする。
エースは足元に座って氷水を支えてくれた。
足の傷を認識した途端、ヒリヒリと火傷特有の痛みを感じて顔が歪んだ。
「街から来たのか。林で何をしていた」
デュースはマスクから覗く鋭い瞳を向けてくる。
「あの…海賊同士が戦ってるって聞いて…」
「わざわざそれを見に?巻き込まれるとは思わなかったのか?」
「危険は承知してましたけど…見てみたくて…」
「海賊の戦いを?」
私が頷くと、彼は呆れたようにため息を吐いて、机の方を向き薬の準備を始めた。